メインテナンス~糸口

先日、石田克佳さんの所に改造修理調整に出していた中型一号機が戻ってきました。いい感じに仕上がっています。姿も実に美しい。これで完全な象牙レス仕様となりました。あと大型二号機の改造が終われば、私の琵琶は完全象牙フリーとなります。

この中型一号機は、一昨年のレコーディング前に診てもらったので、ちょうど2年経っていて、定期健診の時期でもありました。中型一号機は一番稼働率が高く、あまりのハードワーク故、かなりのお疲れさん状態で、悲鳴を上げる寸前という感じでした。
今回は糸口を象牙から貝プレートにするのが、一番の目的だったのですが、もう柱は限界に来ていたし、全体的に疲れが溜まっているような感じで、鳴りは悪くなかったものの、どこか音の芯が虚ろな感じがしていました。そこで覆手(テールピース)をよくよく診てもらったら、やはり一部が少し浮いていたようで、そこが原因となり、音も今一つだったようです。通常覆手は指の関節でコツコツと叩いて、その音を聴いて接着具合を判断するのですが、今回は微妙で、ちょっと判らなかったのです。石田さんが根気よく手をかけて診てくれたおかげで、わずかな一部のはがれが見つかりました。

今回は、①糸口を象牙から貝プレートに交換、②柱の全取り換え、③覆手(テールピース)接着直し、④糸巻の調整もやってもらいました。

薩摩琵琶はとにかく手がかかるのです。樂琵琶はほとんど何をしなくても大丈夫なのですが、薩摩は、サワリや絃、柱、撥等々かなり、日々気を使います。それだけ酷使しながら使っているんでしょうね。どこか一つ調子が悪いと良い音がしません。例えて言うなら、手のかかる子供を養っていると言えばよいでしょうか。私の部屋には、そんな手のかかるやつらがゴロゴロと居るんです。子沢山にもほどがありますな。

左が大型1号機と2号機、右が今回退院してきた中型一号機と二号機の糸口部分。中型1号機は糸口の貝プレートの縦幅が狭くなりました。これは石田克佳さんのアイデアなんですが、彼は毎回色んなアイデアを実践してくるのです。まあ私の琵琶は彼の実験台ですな。それで今回はこのような仕様となりました。これもあとは大型二号機の糸口を改造すれば完璧です。

音は象牙でも貝プレートでもほとんど変わりませんね。一番最初に貝プレートを使いだした一昨年の5月の頃(https://biwa-shiotaka.com/blog/51474362-2/)は、ちょっと音が固くなるようなイメージがあったのですが、それは単なる思い込みでしかありませんでした。昨年は大型一号機も貝プレートに変えて何回か使ってみましたが、音色に関してはほとんど変化はないし、象牙と同じようにサワリの調整次第で、シャープにもマイルドにもなります。全く問題もないことが判りました。またコストもとても安い。

ウードの常味裕司さん、フラメンコギターの日野道夫さんと。樂琵琶に象牙は使われていません
私は、もう象牙を使う時代ではないと考えています。もともと象牙は江戸の中期~後期に少しづつ高級品として出回り始めて、邦楽器の材料として今の様に一般的に使われだしたのは、そんなに古くはありません。多分ここ100年程ではないでしょうか。もしかすると皆がやたらと使いだしたのは、戦後からだったりして・・・?。
素材が変われば、手の感触も変わるし、音も確かに多少は変わるでしょう。しかしどんな楽器でも時代と共に素材が変わり、それに合わせててテクニックも音楽も変わっていったのです。洋楽器は勿論、和楽器でも、テトロン糸が開発されたり、三味線の材料がほとんど外国産になったりして、どんどんと時代と共に変わって行きます。琵琶に於いて象牙の使用が何百年にも渡る伝統というのであれば、何かしらの納得も出来ますが、薩摩琵琶が世に出てからまだ100年ちょっとです。それを考えれば、さしたる伝統がある訳でなし、時代の要請に合わせて変えて行くべきだと、私は思っています。ちなみに千年以上の歴史がある樂琵琶には象牙は使われていません。
キッドアイラックホールにて 灰野敬二、田中黎山各氏と

世界の流れの中で我々が生きている以上、象牙を取るためだけに象が理不尽に殺されて、闇取引されている現実を見れば、象牙を使うのは、どう考えても良いことだと私には思えません。私は世界に向けて楽曲を配信しています。だから世界標準の感覚を持って、演奏活動をするのは当然だと思っています。日本だけに通用するような村社会ルールでやっていても、世界のリスナーは納得してくれません。象牙を使うことを歓迎するリスナーはどこに居るでしょうか??。私は世界中にそんなリスナーは居ないと思います。

色んなご意見があるかと思いますが、音楽は勿論の事、楽器も奏法も、時代と共にあってこそ
音楽。これからも時代の中で琵琶を弾いて行きたいと思っています。

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