今年もお世話になりました

今年もいよいよ大詰めとなりました。今年は年明けに10thアルバム「AYUNOKAZE」をリリースする事が出来、私にとっては意味深い年となりました。これ迄約30年近くに渡って琵琶で活動を続けて来ましたが、私の思う琵琶樂の形を発表する事が出来たと思っています。私は弾き語りではない器楽としての琵琶樂を最初からテーマにして来ましたが、2018年リリースの8thアルバム「沙羅双樹Ⅲ」で、その形がはっきりと見えて来て、そこから7年経ってスタイルが完成したと思っています。

薩摩琵琶はどうしても弾きながら声を出して歌わないといけない、という常識を脱し、器楽として琵琶の音色を聴かせたいという想いを、一つの形として確立できた事はとても大きな成果だと感じています。また樂琵琶に於いても雅楽を離れ、オリジナル楽曲での活動が形作られたのも私にとっては大きな意味を感じています。

若き日 高野山常喜院「塩高和之琵琶演奏会」にて

人間は自分でも気が付かない内に社会の常識や習慣、ルール等々、あらゆる呪縛に囚われて生きていますが、音楽こそはその呪縛を解き放ち、自由な精神の表現をするものであるという信念を持って私はこれ迄やってきました。ここに至るまで随分と長い時間を費やし、私もそれなりの年齢になって来ましたが、音楽家として一つの成果を感じられる地点に来た事は本当に嬉しいです。今後は器楽としての琵琶樂を更に先に進める作品を創ると共に、弾き語りではなく、声と琵琶の新たな世界を創作し、発表して行きたいと思っています。

演奏活動を振り返ってみると、今年はレクチャーや大学での講義、サロンコンサート等はあまりありませんでしたが、3月5月のMIMINOIMI主催のアンビエントイベントに参加できた事が印象深いです。年明けにはNY在住のタロガド奏者のエステル・ラムネックさん、サウンドエンジニアのアレハンドロ・コラビータさんとの共作で、アンビエント作品集「REFRACTIONS for BIWA, TÁROGATÓ and ELECTRONICS」がリリースされます。これも3月5月のイベントに参加した事が動機の一つとなりました。 

夏には佐渡の相川春日神社での能公演にて、津村禮次郎先生と「良寛」の再演をした事も素晴らしい経験でした。本格的な能舞台での新作能の上演に立ち会えたことは、これから大きな糧になって行くと思います。

琵琶樂人倶楽部もお陰様で11月に18周年を迎え、開催も214回を重ねる事が出来、来年一年のスケジュールも決定しました。私のベースとなる活動がこの長きに渡って続いてきた事に本当に感謝しかありません来年の予定こちらに載せてあります。是非またお越しくださいませ。尚、来年より入場料が1500円となります。何とぞご理解の程、よろしくお願いいたします。

2026年琵琶樂人倶楽部年間スケジュール – Biwa player, performer, Composer – SHIOTAKA Kazuyuki – 塩高和之 – 琵琶奏者・作曲

 

こうしてこれ迄自分の思う音楽を思う形で演奏し発表して来ましたが正に導かれたと思っています物でも人でも数多くの縁によってこれ迄活動してこれた事が本当に有難く、嬉しいです。今は世の中全体が激動しておりますが、どんな時代が来ようとも、私は思う音楽を、形を変えながら実現したいと思っています。まだまだやりたい事がありますので、これからがまた楽しみでもあります。今後共宜しくお願い申し上げます。

眼差しの先に

毎日ぶらついている私でも年末ともなるとワサワサ色んなものが動き出します。今年最後の琵琶樂人倶楽部も先日終わりました。今回は錦心流の子安幻水さんが初登場だったのですが、久し振りに端正な錦心流の節を聴かせてもらいました。年末恒例の愛子姐さんのパフォーマンスも絶好調で、会場の皆さんを盛り上げてくれました。

また先日は舞踊家田中いづみ先生の舞踊家50周年記念公演「TIMELESS」に行ってきました。いづみ先生とは舞踊作家協会の公演で御一緒させて頂いてから、もう随分と経ちますが、最近では、先生と花柳面先生などでやっている「Peace by Dance」の練馬文化センターホールでの2020年公演の最後の演目で、拙作の「Sirroco」を使って頂き、この所またお付き合いもさせて頂いています。今回の公演も、全体に現代の人間社会の持つ様々なドラマが展開されていて、実にドラマチックでワクワクとする作品でした。また若手の舞踊家も縦横無尽に輝いていて、次世代を感じさせる清々しい舞台でした。

私は琵琶で活動を始めた最初から様々な演奏家・舞踊家と舞台をやって来ましたが、皆さん本当に創造的で独自の世界を創り込んでいました。いつも書いているように笛の大浦典子さんやヴァイオリンの田澤明子さんという強力なパートナーは勿論の事、活動の最初に、寶山左衛門先生や津村禮次郎先生、花柳面先生等伝統邦楽の大御所の方々との出逢いは実に大きなインパクトでした。自分では実現し得ない舞台を沢山経験させてもらって、その世界に導かれそれらが全て今の活動の糧となっています。また共演者として多くの演奏家と関わる事で、思ってもみないような活動の展開に繋がって行きました。本当に多くの人との関りの中で音楽を創り続けてきたのです。そういう出逢いがあったからこそ、その人と一緒に演奏する曲をどんどん作曲して、それらの曲がまた発展して、今の重要なレパートリーに成長して行き、結局は自分の音楽の世界を形作ってきました。 作曲の師である石井紘美先生の導きから始まった琵琶人生ですが、あそこが私の人生のターニングポイントでしたね。石井先生からは上っ面の感性ではないもっと深い所で音楽に接する事の大事さ等々、音楽に対する姿勢や眼差しの向け方を教わり、今私が持っている音楽性の基礎となりました。石井先生始め数々の出逢いは、正に「はからい」としか思えないようなものだと感じています。

若き日 京都清流亭にて 笛の阿部慶子さんと

人間生きていれば色んな出逢いもあるし、様々な経験もします。しかしその数ではなく、そこからどう導かれたかという事が、その後の人生を変えて行きます。現代はSNSなどで知り合いが増えて行くような時代ですが、その出会いは何をもたらしてくれるのでしょう。同好の人と知り合うのは良い事ですが、それがエコーチェンバー現象の内に留まって、かえってオタク化して、自分で大きいと思っているその知り合いの輪も実はガチガチの村になっていることも多いのではないでしょうか。邦楽なども、偉い先生は沢山居ますが、実はそんな状態にあるのかもしれません。

大きな視野と広く柔軟な眼差しを持つ事はいつの時代でも大切な事ですが、情報が沢山あるとか都会に居るからとか、そういう事で眼差しを持てるという訳ではない事は皆さんも感じているでしょう。どこに居ても、どんな暮らしをしても、そんな感性を育てて行ける人もいれば、ただ物に情報に振り回されて目の前すら見えなくなっている人もいます現代の都会では後者の方が多いのではないでしょうか世界中に行く事が出来て、世界の食べ物をネットで買えて、何でも手に入り、世界の人と簡単に連絡が取れる世の中ですが、そんな世の中だからこそ、物事を深く感じ、創造力をはばたかせ独自の世界を創り上げそれがまた次世代へと繋がって行く、そんな姿勢と眼差しを持っていたいものです。

芸術家はともすると個人という小さな世界で、芸を磨くだの極めるだのと言って閉じこもって、この道一筋などという言葉に寄りかかり、独りよがりな自分の世界に留まり、オタク状態になってしまいがちです。しかしそれでは次世代へは繋がるとは思えません。常に次への眼差しがそこに無ければ、評価もされないし大したものも遺せないと私は常々思っています。

今は無き明大前のキッドアイラックアートホールにて 灰野敬二氏、田中黎山氏と

今は創りかけの曲がいくつもあり、来年はそれらを完成して、出来れば次のアルバムへと成就していきたいと思っています。尺八、笛、ヴァイオリン、そして声とのデュオをもっと創り上げたいですね。私の曲が次世代の人へと繋がり、琵琶樂がお稽古事から脱して、音楽として世界に羽ばたいて行く事を期待しつつ眼差しを向けて行こうと思ってます。

受け継がれるもの

年末はいつも演奏会が少ないのですが、今年は何だか演奏会がないわりにリハーサル等、様々に用事が入っていてせわしないです。加えて先月から各琵琶をメンテナンスに出していて居るのですが、琵琶が良い状態で手元にないとどうにも落ちつかないですね。今は大型二号機の糸口交換をすべくメンテに出しています。本当に手のかかるやつらです。

私はいつも書いているように、人一倍楽器の手入れをする方で、かなりの部分まで修理や調整をする方なのですが、糸口や側面剥がれなど等、職人技でないと出来ない部分、また全体の総合的なメンテナンスは、やはり石田さんにお任せするのが一番です。論語にも職人はいい仕事をしようと思うと、先ず自分の道具を磨いて手入れをするものだ」と書いてありますが、自分の楽器に関しては、目いっぱい愛情を注いで手をかけてこそ、初めて音楽としてり出してくれるものです。そういう基本を忘れてはいけません。琵琶も家族と同じように日々共に生きる位でちょうど良いのです。 

閑谷学校

この所、旧い友人と再会する事がいくつかあって、来年は新たな展開が来そうです。これからは歌と琵琶の音との新たなコンビネーションが出来上がって行くかもしれません。大正・昭和の薩摩筑前による唸るような弾き語りの声ではなく、「歌」と琵琶の組み合わせは可能性がもっとあるとずっと感じていました。微力ながら色々やって来ましたが、これからもっと面白くなると思いますよ。1月の琵琶樂人倶楽部には深草アキさんに出て頂くのですが、深草さんも歌と秦琴との素敵なコンビネーションを創り上げています。

深草HP  Aki Fukakusa Home Page

深草さんと最初にあったのは30年近く前。邦楽ジャーナル和音」の1周年パ-ティーでした。この時は今でもやり取りしている尺八のグンナル・リンデルさんやその他邦楽系の先輩方々と知り合いになりました。私が琵琶で活動を始めた頃です。その時もう深草さんはかなりメジャーな活動を展開していて、凄いな~と思って見ていました。それ以来連絡をし合っていたものの、お逢いする機会も無く時間が経ってしまったのですが、今年のMIMINOIMI主催のアンビエントウィーク2025で久しぶりに再会して、琵琶樂人倶楽部出てくれる事にあいなりました。こうした再会は実に気分も高まりますね。最近はこういう事がいくつか続いているのです。「よみがえりの季節」に入ったのでしょうか。

清流亭にてこれ迄色んな方とお付き合いしながら音楽ををやってきたのですが、長く良いレベルで音楽をやっている人は、主張が穏やかな方が多いです。皆さん夫々に軸がぶれないで、しっかりとした哲学を持っている野でしょうね。実にマイペースという感じで、夫々の世界を形作っていますガツガツと闘っている感じの方で長続きしている方はあまり見た事無いですね。音楽はショウビジネスと背中合わせの世界という事もあり、売れるという事もまた一つの形かもしれませんが、売れる事よりも音楽家として、自分のやりたい事がぶれないで、それを貫いて、且つ時代の流れの中でやっている人の方が長く活動できるように感じます。

私はジャズをやっていたせいか琵琶を手にした最初からショウビジネスには全く興味が無かったですし、売れる方向で動いている人とも縁がありませんでした。先日も雅楽を勉強している若者とリハーサルしていたんですが色々話していると私は自分がやりたい事をやりたいようにやって来たら、それがそのまま自分の世界になっていっただけなんだなと改めて思いました。邦楽・雅楽の界隈とは随分離れていますが、そのスタイルがとても私らしいし、だからこそ活動も色々と展開出来たし、作品も創って来れたと思っています。

それにしても、この現代という時代に琵琶を手にしているという事自体が凄い縁だなと思いますね。いったい自分は何をしたいのか、それは何を土台としているのか、琵琶という古い歴史のある楽器を抱きながら、己は何を受け継いでいるのか、そんな事をついつい考えてしまいますね。琵琶の辿って来ただろう長い長い歴史、そこに生まれた文学や芸能、そして日本だけでなく、琵琶が辿って来たペルシャや中央アジアなどの文化も含め、果てしのない大きな世界・背景が自分の後ろにあって、今自分が琵琶を抱えて生きている。考えてみれば奇跡のような凄い事だと年を経るごとにその想いは強くなってきています。

 

琵琶樂人倶楽部にて SOON・Kim(ASax) 田澤明子さん(Vn)と

ハイレベルの音楽家に接すると良く感じるのですが、この人の演奏には〇〇が宿っているなと思う事があります。よく共演するSOON・Kimさんの演奏には、その中に確かにオーネットが居るし、良いなと思うミュージシャンを聴いていると、そんな風に思える人が少なくありません。そしてそう感じる人は決してコピーではなく、むしろ自分のスタイルを持っている。そして何よりも品格を感じる事が多いです。そっくりさんみたいなレベルの人は、表面は似ていても、そういう品格を感じ無いですね。形を真似ていても決して継承にはなりません。むしろオリジナルのスタイルを持った人の中に、先人の魂のようなものを感じます。

受け継ぐものは、感性であり、志です。むしろ表面の形はその人独自に変化し、時代と共に変遷してこそ、その中にある受け継がれたものが立ち現れて、先人の姿や風土がそこに見えて来るものです。邦楽では流派や弟子などの枠の中で考えがちですが、いくら門下生であっても上手を求めている内は、表面の形しか伝わらない人も多いです。志を継いだ人は、むしろ枠の中には留まっていないでしょう。残念ながら今邦楽全般に衰退の一途をたどっているのが現状ですが、それは表面の形に拘り、立派になろうなんていう俗な精神で肩書を追いかける事に執心して、先人が持っていた品格を忘れているからなのかもしれません。

兵庫県芸術文化センター「方丈記公演」にて

私も是非品格が感じてもらえるようになりたいですね。これからが面白くなりそうです。

空が教えてくれる

今日は地元を散歩しながら素晴らしい天気の下、紅葉を愛で秋を堪能しました間もなく冬が来ますが、私は冬が大好きなのでこれからが楽しみです

2009年高野山常喜院演奏会

今年は例年と違い、色んな事が変化しているのを感じます。社会は常に激動の真っ只中ですし、私個人の中でも様々な事が変化して行って、これ迄音楽活動をやってきた中でも一番の変化が来ているように思います。

年明けに10thアルバム「AYU NO KAZE」」を出したことが大きな転換点だったと思いますが、活動内容が随分と変わって来ました。以前のように全国を飛び回って演奏会をやって行くスタイルから、琵琶の曲を作曲し遺して行く事に気持ちが傾いています。毎月の琵琶樂人倶楽部以外では、いわゆるライブ的な演奏はかなり少なくなりました。来年からは自主公演的な演奏家もやって行こうと思っていますが、何か違うフェーズに移った感じがしています。また何故かここ4,5年で集まって来ている若者達を応援する事も私の仕事だと思えるようになって来ました。まあ年齢的にも一つのターニングポイントに来ていますので、色々と整理して見直して、次の時代に沿った活動に転換して行く時期という事ですね。音楽的芸術的な部分は益々磨きがかかって来たように思っていますので、この変化をどう超えて次に繋げて行く事が出来るか試されているんでしょう。

佐渡相川にて 日本海に沈む夕陽

今日も散歩しながら、ぼーっと空を見上げていましたが、朝日や夕陽、そして星空は何とも言えず惹きつけられますね。ずっと見ていられます。8月に行った佐渡でも日本海に沈む夕陽は本当に素晴らしかったです 空の無限の拡がりを目にしていると、現世の中で自分が囚われている小さなこだわりや、枠組み、ルール等々が客観的に見えて来て、何が自分にとって大切で、何から解放されるべきなのか見えて来るのです。人間はどうしても、何かしらの枠や集団の中で生きないと生きていけませんので、知らない内にその枠のルールが正解・正義のようになって、縛られてしまいます。自分自身がその枠に沿う事で安心するようになると、自分がその中に居る事も感じなくなるし、自分の行くべき道も見えなくなってしまいます。

藤枝の楽園

どんな時代でもどんな状況でも、自分の道を歩まない限り自分の人生は生きられないのです。他人の遺した轍の上をなぞって歩いても自分の人生は全う出来ません。優等生になって褒められて嬉しがっているような器では、自分の人生は一向に開けて来ないのです私は「見上げる空は一つなれど、果て無し」という武蔵の言葉が好きで、この言葉に対し様々に想いを巡らせながら空を見上げているのですが、いつも自分の行くべき道を空が教えて、導いてくれるような気がします。

私がいつも書いている永田錦心も鶴田錦史は最高のアヴァンギャルドでした。先人の轍の上安住することなく自ら轍を刻み彼らなりの道を歩みました。私は彼らの新しい時代に新しい琵琶樂を創り出した、その感性に深い感慨を持っていつも見つめています。だからこそ私も私のやり方で、両先人のように自分の道を歩み轍を刻み、自分の音楽を創り出して行期待と思いずっとやってきました自分の道を歩むという事が、彼らから学んだ大きな事です。それはいつも書いているマイルス・デイビスなどの他のジャンルの先人も同じで、彼らの音楽を真似するのではなく、及ばずながらも、その感性と姿勢をこそ受け継ぎたいと思っています。若者達にも、過去の轍の上でぬくぬくとせず、新たな自分なりの轍を刻んで行って欲しいですね。

2009年トルクメニスタン国立マフトゥムクリ劇場公演

私は琵琶での活動の最初に尺八のグンナル・リンデルさんとPanta Rhei (意味は万物流転)というヘラクレイトスの言葉をデュオの名前に冠して活動を開始しましたがそれも何かの縁でしょうね。時代と共に在りながらも、いつも自分自身であり続けたい、自分の想う音楽を創り続けたいのです。「媚びない・群れない・寄りかからない」は更にこれから更に徹底して行きたいですね。

photo 新藤義久

以前にも少しお知らせしましたが、今年に入ってNY在住のエステル・ラムネックさん(タロガド奏者日本語HP エスター・ラムネック )とメキシコシティー在住のサウンドエンジニア アレハンドロ・コラビータさん、そして私の間で音源を何度もやり取りし合っていて、間もなくアルバムとして仕上がりつつあります。内容はアンビエントやサウンドコラージュと言えば解り易いでしょうか。

エステルさんの演奏するタロガドはハンガリーの民族楽器で、今でも自由の象徴としてよく演奏されているもの。そのタロガドと私の琵琶が出逢い、そこにアレハンドロさんのサウンドが加わり、正にボーダーレスな世界が広がっています。前衛的な作品なので聴き易いものではありませんが、リリースできるようになりましたら改めてお知らせします。

これから一番気分が高揚する12月です更に自分らしい時間を生きたいですね

祝 琵琶樂人倶楽部開催18周年記念

今年は事後報告となってしまいましたが、先日、琵琶樂人倶楽部の18周年記念回をやってまいりました。

photo 新藤義久

もう18年も経ったかと思うと、時間の流れの速さと人生の短さを感じずにはいられませんね。今回は10枚目のアルバムに収録した「凍れる月」の第二章、第三章、第四章と、その元となった「凍れる月~第一章」(2004年作曲 4thアルバム「流沙の琵琶」に収録)も加えて「凍れる月」一具(組曲)として演奏いたしました。共演は第一章、第三章で演奏してくれた笛の大浦典子さん、第二章で演奏してくれたVnの田澤明子さん。笛とVnのピッチが違うので、琵琶のチューニングがちょっと不安定でしたが、一具全曲を演奏出来た事をとても嬉しく思います。

「凍れる月」は「Blue in Green」というマイルス・デイビスの作品を聴いて浮かび上がってきたイメージに、私の中の月のイメージを合わせて、自分の中で色彩感を描き、それを発酵熟成させ作曲したのですが、第一章が出来上がってから様々にそのイメージが変容しはじめ、最終的に一具となった次第です。現在第三章は尺八でも試していて、こちらもいい感じで仕上がって来ています。

第一章 龍笛&樂琵琶

第二章 Vn&樂琵琶

第三章 篠笛(または尺八)&薩摩琵琶

第四章 樂琵琶独奏

となっていますが、それぞれこれからの重要なレパートリーになって行くと思います。

6thアルバム「風の秘跡」レコーディング時 相模湖ホールにて

今回お呼びした大浦さん、田澤さんにはこれまで本当に多くの事を学び、彼女達がいなければ私の音楽はこの世に日の目を見る事は無かっただろうと思っています。琵琶での活動の最初に大浦さんと知り合った事で、私の代表作「まろばし」「花の行方」が生まれ、大浦さんの勧めで樂琵琶を弾き出し、多くの曲を作曲し、その樂琵琶での楽曲が私を色んな所へと導いてくれました。雅楽・能、民族芸能等々その豊富な知識と経験を身につけた大浦さんと最初に出逢った事は、私の音楽を創る上で大きな要素となり、そのアドバイスがあったからこそ、様々な楽曲が誕生したと思っています。この夏に佐渡で行った創作能「良寛」も樂琵琶が無ければ成立しません。大浦さんがいなかったら私は樂琵琶を弾いていなかったでしょう。薩摩琵琶だけでなく、樂琵琶の世界を得た事で私の音楽は大きく広がり、音楽人生をとても豊かに過ごすことが出来ているのです。

そして2015年頃にVnの田澤明子さんと知り合い、それまで少しお休みしていた現代音楽への扉が再び開きました。元々1stアルバム「Orientaleyes」では全編現代曲で挑戦しました。今聴くと勢いだけで、まだまだ作曲も演奏も中途半端で粗削りもいい所ですが、エネルギーだけは漲っていました。その後、弾き語りなどの伝統スタイルでも負けられないとばかりに3rdアルバム「沙羅双樹」から弾き語りの収録などしていましたが、やはり私は器楽としての琵琶をやりたいという琵琶を手にした時からの想いがずっとあり、2018年1月リリースの「沙羅双樹Ⅲ」で現代曲復活となる記念すべき「二つの月~Vnと琵琶の為の」を収録しました。

8thアルバム「沙羅双樹Ⅲ」レコーディング時 FEI千野スタジオにて

この曲は田澤さんの豊かな感性と飛びぬけた技術がなければ成立しない曲です。この具現化は私にとってとても大きなターニングポイントとなり、次の9thアルバム「Voices  from the Ancient World」では、これまで邦楽器の為に書いてきた作品をVnと演奏できるように編曲し、「君の瞳」という新たな作風の新作も書いて、ヴァイオリンと琵琶という他にはないデュオとして歩み出しました。そしてそのコンビネーションは、10thアルバム「AYU NO KAZE」にてメゾソプラノの保多由子先生を加えたトリオで「Voices」という作品に結実しました。それと共に今回一具として演奏した「凍れる月」の第二章~四章も収録したのです。田澤さんがいなければ、私の「器楽としての琵琶樂」という初心に抱いた目標は具現化しなかったでしょう。大浦さん田澤さんのお陰で今があると深く感謝しています。

今回はラストに「西風(ならい)」を笛・ヴァイオリン・琵琶のトリオに編曲して三人で演奏しましたが、なかなかいい感じでした。

今また新作に取り掛かっているのですが、その施策の譜面をお二人に見せた所、良い感じで音にしてくれましたので、この線で進めて新たな作品を創りたいと思っています。来年の19周年記念回ではまた新作を聴かせえる事が出来るよう、更に創作をして挑んで行きたいと、気持ちを新たにしました。琵琶樂人倶楽部は小さな小さな会ですので、地味なものなのですが、私の音楽活動には無くてはならないものとして、これからも淡々と続けて行きたいと思っています。是非聴きに来てくださいませ。

 

 

 

 

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