10thアルバムのリリースも一段落ついて、確定申告も終わり、日々が落ち着いてきました。琵琶樂人倶楽部も毎月様々なジャンルの方々が沢山集まって来ていて、アートサロンのような感じになって本当に有難い限り。とにかく琵琶オタクの集まりにだけはしたくなかったので、発足当初から狙った通りになって来ているのが嬉しいですね。
今回のアルバムで今の自分の音楽は一つの形を成したと実感しているので、そろそろ次の段階へと進む時期に入った感じがしています。私の仕事はやはり琵琶曲の創作ですね。先日、敦盛や経正を作詞してくれた森田亨先生が、新作の詞を持ってきてくれましたので、さっそく取り掛かろうと思います。これからは弾き語りではなく歌手や語り手に声を担当してもらうことを前提に書く予定です。今回のアルバムで「Voices」も発表出来たので、今後は琵琶奏者と歌い手という組み合わせで演奏できる曲をどんどんと創って行こうと思っています。
これ迄の私の活動は、弾き語りという固定概念を一度崩し、本当の琵琶樂の核となるものをもう一度再確認する、いわばダダイズムともいうべきものでした。これからは次の段階へ移行し、作品へと昇華する時代だと思っています。ダダの後にシュールレアリスムが来て、また次の時代へと繋がっていったように、琵琶樂が豊かに発展する方向に持っていけたら嬉しいです。私は最初に就いた師匠 高田栄水先生から「永田錦心は薩摩琵琶を芸術音楽にしたのだ」といつも聞かされてきましたが、私もこれまでやって来て確かにそうだと確信しています。自分が永田錦心のように出来るかどうかは別として、その志だけは自分なりに受け継ごうと思っています。
私はとにかく色んな形態で舞台をやります。組むメンバーも様々ですが、どんな舞台でも総ての曲を私が作曲します。普段から作曲するにあたり「こういう舞台の何曲目にやる曲」みたいな感じで、本番を想定して作曲するので、今考えている歌曲も秋頃には演奏会として実現したいと思っています。また時間を見つけてはこれまで創った作品の譜面を見直して、細かな所を何度も書き直したりしてブラッシュアップをしているので、舞台の形も年々自分が想う形になって来ています。これからも充実した形でやって行きたいですね。
作品はヴァージョン違いのものも含めるともう70曲以上の楽曲が出来ていて、今回の10thアルバム「AYU NO KAZE」をリリースした事で、私の作品群はメインの前衛作品から弾き語り迄、とてもバランスが良く整ってきました。特に以下の「凍れる月~第二章 ヴァイオリンと琵琶の為の」は、ずっと構想を練っていたスタイルの作品で、私にとっては次へのきっかけとなるスタイルを持った曲だと思っています。これからは静かな前衛作品にも取り組みたいと思っています。
最近は暇に任せて、今迄読んだ本を読み返し、音楽も色々と聴き返しているのですが、それまで見えなかったものが入ってきますね。音楽はやはり常に私に刺激を与えてくれるものなので、聴く度に色々と感じる所があります。以前は漠然と格好いい位に思っていたものが、今聴くと鮮明なまでにその音の生命感を感じられる事が多いです。コロナ禍の頃はマイルスの後期作品等をよく聴いていて、今頃やっと何か理解が追いついたように感じました。
私は何事にも人の何倍も時間がかかるので、じっくりと時間をかけて、時に寝かせてほったらかしにして、改めてまた取り組んだりしながらやる位がちょうど良いよいのです。本も音楽もじっくりと時間をかけて何度も接する事がとても多いです。だから同じ曲が、その時々で全然違った印象で聴こえて来るなんてのは、子供の頃からしょっちゅうです。そしてそういう感動が積み重なってまた新たな創作へと心が向かって行きます。こんな事をもう何十年も繰り返しているのですが、こうやって自分のペースで新たな作品に取り組んでいると、自分が次の流れに向かって行っているという実感が湧き上がって来て、これが人生の喜びなんだな、といつも思います。そしてこの感動と発見が、私をこれ迄生かしてくれた原動力だと実感するようになりました。
私は人から見るといつもぶらぶらしているように見えるのだと思いますが、昼間からごろごろしたり、散歩したり、時に仲間と管巻きながら何かいい感じのアイデアを思いついたり、ふと浮かんできたメロディーなど書き留めたりしているのが、私にとってぶらぶらしている状態で、これが私の基本姿勢ですね。これからの季節は梅や桜を見て回りながら、また何か浮かんでくるものがあるじゃないかと期待しています。
逆に演奏会で飛び回って自分の曲を演奏していても、何も創り出せないでいると、何だか煮詰まってしまいます。常にその時の自分の最新を舞台で表現し、それを聴いてもらいたいので、何をしても何か創っている、湧き上がって来るのが気持ち良いのです。だから技を切り売りしてショウビジネス舞台のバックバンドで弾くなんてのは私には考えられません。そういうお仕事を今まで2.3度やったことはありますが、私にはまったく向かないし、そういう「お仕事」を嬉々としてやっている人とは正反対のタイプです。
人よりかなりのんびりと動くので、他人から見ると何をやっているのか判らないのだと思いますが、自分のペースで何か創っているのが一番しっくり来ます。多分画家や作家の感覚に近いのでしょう。
とにもかくにも流れを感じ、それに身を任せて生きている時が一番調子が良いので、無理をする事も、のんびりする事も、流れの中に居る限り変な不安はないです。若かりし頃には上がったり下がったり本当に色んな時期がありました。それもまたそういう流れや導きだったのでしょう。どんな状況であれ自分の身の周りのものと時間をかけて接し、自分と向き合い、何かを創り出す流れを感じているのが一番安定しています。いつも導かれているという感覚ですね。この性質のお陰で、曲を創り、活動も様々なジャンル方々の舞台で琵琶を弾いてこれたと思っています。琵琶のサワリの調整もこうした中で、自分に一番気持ちの良い音色を求めていたら自分なりに出来るようになって行ったのです。
さて今年もどんな流れが私を導いてくれるのでしょうか。自分で切り開く事もとても大事ですが、自分を導く大いなる力を感じる事の出来ない人は、こじんまりとした独りよがりの自己満足で終わってしまうように思います。そして自分を導く流れに身を任せるには、その姿勢も大事ですが、それに乗る勇気も必要なのです。これが判らないと次の流れも感じられません。
また新作が生まれ出てくるのが楽しみです。