極めるということ

先週はずっと演奏会続きでしたので、ちょっとご無沙汰になってしまいました。年末はやはり何かと盛り上がりますね。日本橋富沢町樂琵会では今年も津村禮次郎先生をお招きして、拙作「凍れる月」で舞っていただきましたが、さすがの存在感で、素晴らしい空間が出現しました。また今回はフルートの久保順さん、筑前琵琶の平野多美恵さんにも助演をお願いしましたので、華やかな会となりました。

21s

上:津村先生の舞(右手には花柳面先生のお顔も photo 新藤義久)
下:左より平野多美恵さん、音楽プロデューサーの小浦瞭子さん、久保順さん、私

今年は本当に多くの仕事をさせてもらいました。年を重ねるごとに色々と仕事が増えて行くのは喜ばしい事ですし、充実した仕事が出来るというのは音楽家としても自信がつきます。是非来年も更なる飛躍を期待したい所ですが、やればやるほど気をつけているのはクオリティーです。
作品としてのクオリティーと、演奏としてのクオリティー、共に高くないと音楽として結実しないのです。クオリティーをどう上げて行くか。そこにその人の器が発揮されます。エンタテイメントにするのか、アートにするのか、舞台全体の質をどう高めるのか、・・・。色々な方向性がある中でどこを向いて自分の世界として結実させて行くか、正に器やセンスなど、音楽家としての質が問われているのです。
薩摩琵琶はいわゆる古典では無いので、少なくとも大正昭和の軍国の時代に出来上がった流派の曲をお見事に弾くことだけは、私にとってありえない方向ですね。

3
琵琶樂人倶楽部にて、古澤月心さんと掛け合い琵琶
11月半ばからは比較的時間がありましたので、これまでのレパートリーの見直しを徹底的にやっていました。中には大きく弾法や節を変えた曲もあるし、器楽曲も何度も何度も譜面を書き直し、タッチを考え、表現を変えたものもあります。足したり削ったり、こつこつと極めて行く姿勢を常に持っていないと、クオリティーは上がって行きませんね。

特に習ったものというのは「こうでなければならない」という気持ちが自然と出来てしまい、何故その節なのか、何故そう弾くのかという問いかけをしないままに、盲目的に「こうだ」と思い込んでしまいがちです。時代と共に感性は変わっているのに、思考を停止して習った通りにやるのが良いと思い込んでしまう。また自分で作ったものでも、とりあえず形になると、それなりに満足してしまって、そういった根本的な問いかけを自らしなくなり、出来上がった曲を上手に弾くことばかりに気を取られてしまいます。
こういう姿勢では音楽は深まって行かない。音楽は常に時代と共にあってこそ音楽として成立するものですし、たとえ何百年立った古典曲であれ、今この時代に演奏する意味を演奏者自身が持っていないとただのお稽古事になってしまいます。だから作品としても、演奏としても、常に何年もかけて色んな視点で自分の演奏や曲を見直し、手直ししてこそ深まるのです。

IMG_0105
日本橋富沢町樂琵会にて
先ずは現世に背を向けて、オタクのように閉じこもらない事。そして世に溢れる様々な芸術に触れ、考えて、感じて、勉強して自分で自分のスタイルを見つけ出して、それを創り壊し直し・・・。それを死ぬまで続けて行くのが音楽家。それをしない限り、技芸としての精度は高まっても、音楽としては深まって行きません。
私は自分のやるものをもっともっと深めて、自分の世界を明確に表現したいのです。音楽をやっている人は、同じ音楽家同士で、どっちが上手いとうような比較をどうしてもしたがるものです。その気持ちはよく判るのですが、リスナーはそんなところを聴いてはいない。そんな小さな世界から抜け出して、音楽家として舞台人としての意識を持った人だけが、音楽を生業として生きて行けるのです。

塩高トリオ
昨年末、日野先生と笛の大浦さんと、リブロホールにて
先週はフラメンコギターの日野道夫先生との小さなジョイントライブもやったのですが、良いお話を聞きました。日野先生曰く「プロとして活動している以上、確かに売れる売れないということは大事だけれども、それよりもギター(琵琶)を弾いて生きて行くんだという決心が持てるかどうかが大事だね」さすがアンダルシアでジプシーと生活を共にしてきた先生ならではの言葉だと思いました。琵琶ではなかなかこういう人は居ませんね。

先ずはこういう精神を持てない限り、クオリティーを高めるも何もありえません。人生どうなってゆくか判りませんが、どうなったとしても、自分はこの道で生きて行く。その気持ちがあれば、音楽も極まって行くことでしょう。

まだまだ私は自分の音楽を極めて生きたい。もっと洗練したものにして行きたいし、創造もして行きたい。キリが無いですが、こうした活動を止める時は、音楽家として生きるのを止めるという時だと思っています。
来年も楽しみです。

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.