幸せな時間

ちょっとご無沙汰しておりました。急に寒くなりましたね。秋らしくはなりましたが、もうすぐ年末と思うと何だか妙な気分です。

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photo 新藤義久


先日の第190回琵琶樂人倶楽部17年目突入回は、賑々しく終える事が出来ました。今回は私のメインにしている前衛的な器楽曲のみでやらせて頂きました。一般的な渋い琵琶の古風なイメージを持ってやって来たお客様には厳しい内容だったと思いますが、琵琶を手にした最初から「媚びない、群れない、寄りかからない」が私のモットーなので、今後もブレずに自分の思う所をやって行こうと思っています。
終演後は盛んに「これは実に塩高らしい音楽だ」「これはプログレだ、基本はクリムゾンだよね」「いやいやリズミックな展開がツェッペリンに通じるよ」「琵琶の音楽を越えたね」等々、色んなお客様から様々な有難い感想を頂きました。最初からお稽古事に対し距離を取って活動をしていた私としては、正にしてやったり!!。

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Msの保多由子先生 Vnの田澤明子先生   photo 新藤義久

今回はヴァイオリンの田澤明子先生、メゾソプラノの保多由子先生という、現在考えうる洋楽系最強の布陣でしたので、本当に素晴らしい演奏と楽曲を聴いて頂く事が出来ました。ヴァイオリンの田澤先生とは2018年リリースのアルバム「沙羅双樹Ⅲ」に収録された「二つの月」を弾いて頂いてから数々の舞台で共演させてもらってきて、コンビネーションもばっちりです。いまや笛の大浦典子さん同様、私の作品を演奏するにはかけがえのないパートナーとも言える演奏家です。私は共演者の演奏を頭に描きながら曲を書くので、相方の技術だけでなくアプローチの仕方や性格、姿、人間性全てが曲には必要なのです。だから代わりはありえない。曲がもう何度も再演され、新たな展開として別のプレイヤーによって演奏されるのは素晴らしい事ですが、曲が生み出される瞬間には、その人でないと成立しないのです。

今回は、今私が考えている音楽を表現するのにふさわしいトップクラスのお二人が演奏してくれたことが、何よりの幸せでした。「二つの月」は田澤先生でなければ成立しないし「Voices」は保多先生でなければ成立しない。トリオで演奏する「Voices」に今回新たに田澤先生が加わったことで、この曲は一つの頂点を迎えたと思っています。
今回は他にヴァイオリンと樂琵琶による小品「凍れる月~第二章」を初演しましたが、なかなかいい感じに出来ましたので、これをさらに仕上げたいと思っています。あとは能管と薩摩琵琶の緊張感ある静かな作品と、歌と薩摩琵琶のデュオで現代詩による重厚な作品も考えています。毎度同じことを書いていますが、もう一歩先に行きたいのです。表現の世界に完成はありえませんが、ここ5年程で自分の作品が充実して来て、自分の表現する世界が明確になって来ている実感があります。この世界をもっと明確な作品群として遺したい。今はそんな想いが湧き上がっています。
今回は16周年、190回目の開催にこんなメンバーで臨むことが出来、本当に幸せな時間を感じる事が出来ました。来年の200回記念の会にもこのメンバーで臨みます。

グンナルリンデル1大浦典子1s

左:(尺八)グンナル・リンデルさん  右:(笛)大浦典子さん


私はこれまで素晴らしい音楽家たちに恵まれました。最初期には笛の大浦さんとのコンビの他、尺八のグンナル・リンデルさんとも「パンタレイ」というコンビ名で盛んにライブをやっていました。本当に有難い事だと今は感じています。活動を始めた頃にグンナルさん、大浦さんというパートナーがいなければ曲は創れなかっただろうし、演奏活動もままならなかったと思います。

y30-2ライブ活動を始めた頃 邦楽ライブハウス和音にて
もう25年程琵琶で活動をしていますが、私は最初から流派の曲は一切やらずに、全て自分の作曲した作品を弾いて仕事をしてきました。国内は元より、海外公演にも声をかけて頂き、これまでアルバムも11枚リリース出来、ネット配信で海外にも届けられるようになって、何とかこうして琵琶を生業として生かさせてもらっている事は、実に幸せな時間を生きてきたという事だと思っています。人間生きていれば、生活の事や家族・友人・仕事関係等々心配事の種は尽きません。親の介護や自身の健康問題で音楽活動を断念した仲間も居ます。人生全てが順調などと言う人は誰もいないでしょう。そんな様々な事がありながらも、今もこうして琵琶奏者として生きていられる事に感謝しかないですね。年を追うごとに自分のスタイルにも充実を感じてきていますし、これからはもっともっと本来自分があるべき姿になって行って良い時期だと思っています。

以前は全国を飛び回っている事に満足していたような所もあったのですが、やはり一つづつ丁寧にやって行くのが良いと思うようになって来ました。「お仕事」ではなく納得できる活動をじっくりとやって、納得できる作品を遺して行く事が結局喜びにもつながります。確かにこれ迄の様々な仕事の経験は何物にも代えがたいものであり、総てが肥やしとなっていますが、もうそろそろ色んなものが整理され、身の回りの余計なものが剥がれ、すっきりして自分の本来あるべき所に立ち返ってくる時期だと思っています。

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六本木ストライプハウスにて photo 新藤義久


他の人と比べれば、私の活動など大したことはないかもしれませんが、自分の思う音楽をやれているという事は、幸せな時間を過ごしているという事です。まあ音楽家はエンタテイメントのスターでもない限り経済的には世間並みという訳にはなかなかいかないので、世にいうウェルビーイングというものには程遠いですが、ただ「食べるための芸」ではなく、自分の思う所を少しづつでも実現している実感が私の悦びであり、幸せな時間を感じさせてくれるのです。
ゆっくりと自分のペースで、自分の思う所を今後もやって行きます。

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