Improvisation

早、12月ですね。このところ雨も多いですが、紅葉もいい感じになってきて、天気の良い日には紅葉を眺めに散歩してます。先日は北の丸公園に行ってきました。毎年12月は演奏会の数にも少し余裕が出てくるので、体も楽になり、気分も随分とほぐれてきます。仕事に緩急があるというのは良い事ですね。

先日の北の丸公園 

今年は多くのお仕事を頂き大変充実した年でしたが、これから更に先があるように思っています。曲も色々と創って行きたいし、活動も広げて、もっと自分の音楽を充実させて行きたいですね。
今年も毎年年末の恒例で、日本橋富沢町楽琵会に能楽師の津村禮次郎先生を迎えて開催することになりました。今年は豪華に、vIの田澤明子さんにもお越しいただいて、拙作「二つの月」で津村先生に舞っていただくことになりました。田澤さんとは8thCDでの共演以来、色々と御一緒させてもらっていますが、来年も神奈川のお寺 貞昌院にて、ジョイントの演奏会をやります。コンビネーションもだんだんと深まってきていますので、今月の日本橋富沢町楽琵会は充実の演奏となると思います。是非是非お越しください。19日(木)の開催です。

「二つの月」は9.11のテロの時に書いたもので、当初はチェロと琵琶のデュオとして1stCDに収めた曲ですが、年月を経てViと琵琶に編曲し直して、8thCDに再録音した曲です。異なるものが出会い、反発を繰り返しながら、最後にはお互いの違いを認め合って共生の道を歩んで行くというストーリー展開になっています。田澤さんのダイナミック且つ繊細な表現と、津村先生の自由闊達な感性が、どんなコラボレーションになって行くか、実に楽しみなのです。

以前の日本橋富沢町楽琵会にて、津村先生と
さて今日のお題の「Improvisation」ですが、邦楽というと、皆さんお着物を着てきちっとしているイメージで、即興なんかしないように思う方も多いともいますが、実は邦楽は究極の即興音楽と言っても良いくらいに「Improvisation」の応酬なのです。言い方を変えると、現在の邦楽の衰退は、そこを忘れ、習ったことしかやらなくなってしまったからに他なりません。
よくご一緒させていただいている、下掛宝生流ワキ方の安田登先生もそうなのですが、毎回即興でやっているんです。私がその時と場所で、色々なことを色々な形で弾くのですが、それに乗ってや安田先生もその時々で変化して行きます。津村先生も簡単な打ち合わせをするだけで、毎回お互いに結構な即興をやっています。邦楽の中でも特に能はジャズに近いものを感じますね。
そして特に能楽師の方と御一緒するといつも感じるのは、共通言語(と言っても良いくらい)としての「間」ですね。呼吸という人もあるでしょうし、私は「円運動」という言い方で説明することも多いです。始まったとたんに、その円運動の中に入ることが出来れば、あとはもう自由自在にLive して行くのです。
勿論、自由に動くためには土台となる「型」は必要なのですが、これはフリーインプロなんて言っている音楽だろうがジャズだろうが、「身体」(自分がこれまで生きて来た経験の蓄積)という土台は逃れらません。だから逆に「身体」や「型」を認識している演者ならば、そこを土台に自由自在にやれるのです。日々違和感なく日本語を使って生活しているのと同じように、型が身体に染み込んでいる位のレベルは必要かと思いますが・・・。

インプロ?共話? 安田登先生と、浪曲師の玉川奈々福さんと photo 新藤義久

日本語は世界でも珍しい「共話」という形式で成り立っているそうです。どういうことかというと、「対話」と違って、話しながら、話のストーリーを会話をしている者同士で創り上げていっているのだそうです。話を完結させず、未完成のまま相手に受け取らせ、相手がそれを完成させて行くことを繰り返している、という事です。先日のレクチャーでご一緒したドミニク・チェンさんが紹介していましたが、話を聞いていて、まさにいつもの即興演奏の様だと思いました。ご興味のある方はぜひこちらを読んでみてください。https://kangaeruhito.jp/article/5338

私は前々から「音楽は調和」という事を言っていますが、ドミニクさんの話を聞いていて、まさに音楽を演奏するとは、日本語の会話をしているのと同じだ、と思いました。つまり音楽で「共話」している訳で、これこそが日本の音楽の根幹なのだ思いました。即興というとなんだか適当にやているイメージもあるので、これからは「共話」という言い方を私も使いたいと思います。
この「共話」を持って世界の音楽家と音楽を創り上げて行きたいですね。この「共話」こそ、音楽が生きたものとして輝くキーワードの様に私は思います。この話はまた改めて掘り下げてみたいと思います。

アゼルバイジャン バクー音楽院 ガラ・ガラエフホールでの日本音楽セミナーにて
Liveな琵琶樂を次世代に、世界に響かせたいですね。

メインテナンス~糸口

先日、石田克佳さんの所に改造修理調整に出していた中型一号機が戻ってきました。いい感じに仕上がっています。姿も実に美しい。これで完全な象牙レス仕様となりました。あと大型二号機の改造が終われば、私の琵琶は完全象牙フリーとなります。

この中型一号機は、一昨年のレコーディング前に診てもらったので、ちょうど2年経っていて、定期健診の時期でもありました。中型一号機は一番稼働率が高く、あまりのハードワーク故、かなりのお疲れさん状態で、悲鳴を上げる寸前という感じでした。
今回は糸口を象牙から貝プレートにするのが、一番の目的だったのですが、もう柱は限界に来ていたし、全体的に疲れが溜まっているような感じで、鳴りは悪くなかったものの、どこか音の芯が虚ろな感じがしていました。そこで覆手(テールピース)をよくよく診てもらったら、やはり一部が少し浮いていたようで、そこが原因となり、音も今一つだったようです。通常覆手は指の関節でコツコツと叩いて、その音を聴いて接着具合を判断するのですが、今回は微妙で、ちょっと判らなかったのです。石田さんが根気よく手をかけて診てくれたおかげで、わずかな一部のはがれが見つかりました。

今回は、①糸口を象牙から貝プレートに交換、②柱の全取り換え、③覆手(テールピース)接着直し、④糸巻の調整もやってもらいました。

薩摩琵琶はとにかく手がかかるのです。樂琵琶はほとんど何をしなくても大丈夫なのですが、薩摩は、サワリや絃、柱、撥等々かなり、日々気を使います。それだけ酷使しながら使っているんでしょうね。どこか一つ調子が悪いと良い音がしません。例えて言うなら、手のかかる子供を養っていると言えばよいでしょうか。私の部屋には、そんな手のかかるやつらがゴロゴロと居るんです。子沢山にもほどがありますな。

左が大型1号機と2号機、右が今回退院してきた中型一号機と二号機の糸口部分。中型1号機は糸口の貝プレートの縦幅が狭くなりました。これは石田克佳さんのアイデアなんですが、彼は毎回色んなアイデアを実践してくるのです。まあ私の琵琶は彼の実験台ですな。それで今回はこのような仕様となりました。これもあとは大型二号機の糸口を改造すれば完璧です。

音は象牙でも貝プレートでもほとんど変わりませんね。一番最初に貝プレートを使いだした一昨年の5月の頃(https://biwa-shiotaka.com/blog/51474362-2/)は、ちょっと音が固くなるようなイメージがあったのですが、それは単なる思い込みでしかありませんでした。昨年は大型一号機も貝プレートに変えて何回か使ってみましたが、音色に関してはほとんど変化はないし、象牙と同じようにサワリの調整次第で、シャープにもマイルドにもなります。全く問題もないことが判りました。またコストもとても安い。

ウードの常味裕司さん、フラメンコギターの日野道夫さんと。樂琵琶に象牙は使われていません
私は、もう象牙を使う時代ではないと考えています。もともと象牙は江戸の中期~後期に少しづつ高級品として出回り始めて、邦楽器の材料として今の様に一般的に使われだしたのは、そんなに古くはありません。多分ここ100年程ではないでしょうか。もしかすると皆がやたらと使いだしたのは、戦後からだったりして・・・?。
素材が変われば、手の感触も変わるし、音も確かに多少は変わるでしょう。しかしどんな楽器でも時代と共に素材が変わり、それに合わせててテクニックも音楽も変わっていったのです。洋楽器は勿論、和楽器でも、テトロン糸が開発されたり、三味線の材料がほとんど外国産になったりして、どんどんと時代と共に変わって行きます。琵琶に於いて象牙の使用が何百年にも渡る伝統というのであれば、何かしらの納得も出来ますが、薩摩琵琶が世に出てからまだ100年ちょっとです。それを考えれば、さしたる伝統がある訳でなし、時代の要請に合わせて変えて行くべきだと、私は思っています。ちなみに千年以上の歴史がある樂琵琶には象牙は使われていません。
キッドアイラックホールにて 灰野敬二、田中黎山各氏と

世界の流れの中で我々が生きている以上、象牙を取るためだけに象が理不尽に殺されて、闇取引されている現実を見れば、象牙を使うのは、どう考えても良いことだと私には思えません。私は世界に向けて楽曲を配信しています。だから世界標準の感覚を持って、演奏活動をするのは当然だと思っています。日本だけに通用するような村社会ルールでやっていても、世界のリスナーは納得してくれません。象牙を使うことを歓迎するリスナーはどこに居るでしょうか??。私は世界中にそんなリスナーは居ないと思います。

色んなご意見があるかと思いますが、音楽は勿論の事、楽器も奏法も、時代と共にあってこそ
音楽。これからも時代の中で琵琶を弾いて行きたいと思っています。

ソウルフード

先日、静岡市清水区ののお寺 鉄舟寺にて演奏してきました。

鉄舟寺1「森の音楽会」という地元の方々が主催する音楽家にゲストで呼ばれたのですが、嬉しい一日となりました。

実はこの鉄舟寺は、名前の通り山岡鉄舟が再建したお寺でして、私の故郷に静岡市葵区にも近いのです。私が若かりし頃、山岡鉄舟著の「剣禅話」(高野澄訳)、大森曹玄著「剣と禅」を読んで山岡鉄舟に興味を持ち、このお寺の事も知っていました。またこのお寺には義経の笛「薄墨の笛」が伝えられていて、静岡では有名なお寺さんなのです。随分前ですが、笛の赤尾三千子さんと琵琶の大先輩でもある半田淳子さんが演奏したのを母が聴きに行ったそうです。そんなこともあって、秘かにいつかここで演奏してみたいと思っていました。

山岡鉄舟2
山岡鉄舟像

そして何より大きいのは、この二冊の本で、剣術の極意「まろばし」というものを知ったことでしょう。私は中学から音楽に一直線でしたが、小学生の頃より剣道をやっていたので、武道は大人になっても常に興味の対象でした。いい年になってからまたあらためて古武術をゆっくり始めているのですが、20代後半に琵琶を手にした当初、この「まろばし」には大いに興味を掻き立てられ、何とか音楽でこの世界観を表現できないかと思い立ち、「まろばし~能管と琵琶の為の」を作曲し、それを私の第一号の琵琶の作品として1stアルバムの第一曲目に据えて発表しました。そして今でも私の代表曲として常に演奏しています。

イルホムまろばし10-s
ウズベキスタンのイルホム劇場にて、オムニバスアンサンブルの面々と「まろばし」演奏中
つまり私にとって薩摩琵琶=「まろばし」であり、そのまま「まろばし」は私のスタイルなのです。そのイメージと想いは今でも全く変わりません。勿論私は極意を得たとは思っていませんが、この曲は、今でも私の一番の代表曲であり、国内外で何度となく演奏してきました。ウズベキスタンでは、バックにミニオケを配した編曲で演奏してきました(指揮 アルチョム・キム オケはオムニバスアンサンブル 左写真)。共演者も今迄に、国内外の数えきれない程のプレイヤーと演奏してきました。放浪の武芸者よろしく、あらゆる相手と他流試合をやってきた感じですね。

そんな想いの蓄積を持って、今回鉄舟寺に向かったのです。ご住職にもその想いを伝え、色々とと話をしてきたのですが、そこからまた話は展開して行きました。
ご住職は若い頃ロッククライミングをやっていたそうで、シルクロードにも遠征していたそうです。特にタリム盆地辺りには思い入れがあったようで、我々が最初に「塔里木旋回舞曲」を演奏しだした時には、ビビっと来てしまったとの事。私にとってシルクロードは子供の頃からの憧れの地で、ある種シルクロードオタク状態でしたので、ご住職とは話も大いに弾みました。なんだか色々と縁を感じる演奏会でした。
1

演奏会は昼間でしたので、その足で我がソウルフード「しぞーかおでん」を食べに行きました。静岡では、おでんは子供の食べ物。駄菓子屋さんなどにあるのが正しい形です。今でも色んなおでん屋さんに、中高生が学校帰りに集まっています。静岡のおでんは全部串にささっていて、その串の本数で値段が決まるというシステムで、当時は一本5円でした。20円位を握りしめ、よく駄菓子屋に集まって食べてましたね。
今では飲み屋さんでもポピュラーになっていまして、ここ「青葉おでん街」が有名です。屋台村みたいな感じで、ここの風情も好きなんです。実はここで中学の同級生がお店をやっているので、今回は演奏会の後その店へ直行。想い出話と、おでんと焼酎の夜となりました。

鉄舟寺 まろばし タリム しぞーかおでん。私にとっては基本となるものが終結したような一日でした。

4たまにはこういう自分の魂を確認するような時間も良いものですね。東京に居ると、とかくぎすぎすとしてしまいがちです。穏やかに居ようと思いながらも、街は人で溢れ、ストレスも溢れかえっている。だからこそ鍛えられることも確かですし、そこからまたアートも生まれてくるのでしょう。しかしそればかりでは人間は疲れてしまいます。
カッカした頭を冷やして、また新たな作品に取り組んでいきたいと思います。私のスローガンでもある「器楽としての琵琶樂の確立」を実現するためにも、もっとソロ・デュオの作品を創って行きたいし、演奏のレベルも上げて行きたいのです。
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photo 新藤義久(白黒のみ)

a29s来月の日本橋富沢町楽琵会では、また今年も観世流シテ方の津村禮次郎先生をお迎えして、私とヴァイオリンの大ベテラン田澤明子先生で、拙作「二つの月」を演奏します。この曲もある意味自分の活動の原点となった作品です。9,11の時に作曲した作品で、ちょうど私が琵琶で演奏活動を始めてすぐの頃でしたので、非常に強い想いを持っていました。この曲も「まろばし~尺八と琵琶の為の」と同じく1stアルバムに収めてあります。その時はチェロと琵琶での演奏でしたが、昨年リリースした「沙羅双樹Ⅲ」ではヴァイオリンと琵琶に再アレンジして、田澤先生と録音しました。今回はこのァージョンで演奏します。ヴァイオリン・能・琵琶の競演を是非観てください。お待ちしております。また改めてお知らせいたします。

年齢を重ねて行くと、勢いだけでは体力が持ちません。時々原点に立ち返り、ソウルフードでリフレッシュ、リセットして、更なる精進したいと思います。

あわいを生きるⅡ

先日の琵琶樂人倶楽部、お陰様で無事13年目に進むことが出来ました。細々とした地味な会ではありますが、毎月毎月よくまあ続けてきたな~と我ながら思います。この12年間は、私も様々に充実した活動をさせてもらい、より一層器楽としての琵琶の音を響かせたいという想いが強くなってきました。「器楽として」琵琶の妙なる音を響かせてゆくのが、私の使命と感じております。まあ樂琵琶は元々器楽なのですから、先祖返りとも言えますね。

少し前には、池袋あうるすぽっとでの公演「能でよむ漱石と八雲」もとても良い感じで終えることが出来ました。能楽師の安田登先生を中心に、浪曲師の玉川奈々福さんと私が安田先生の語りに合わせて弾いたのですが、三味線と琵琶が絡み合って、正に「Theコラボレーション」が出来ました。やはりアドリブが効く方々は一緒にやっていて気持ち良いですね。安田先生も言っていましたが、一緒に舞台に立つには、楽器の音色やジャンルの特性など、色々と要素はあるけれど、やはり最終的には「人」であり、その人がどんな感性と視点を持っているかにかかっているんだなと改めて思いました。

演目は漱石の「夢十夜 第三夜」と「耳なし芳一」を上演したのですが、今回は「あわい」が一つのキーワードとなっていました。霊を呼び、現世の他に異界とも通じて、現世と異界の「あわい」に存在していた芳一。対して現世の限られたレイヤーの中だけに居て、異界を感じることが出来なかった和尚。安田先生はこの二人の在り様を中世的と近代的という言い方をしていましたが、異界を感じている感性と、目の前の現実しか感じなくなっている感性。そんな対比が浮かび上がってきました。

「Photo 山本未紗子(BrightEN) 

文明は物をもたらしましたが、異界の存在を消し去りました。現代に於いても、お盆や墓参りなどの習慣がどんどんとなくなり、目に見えない世界=異界を傍に感じることが極端に少なくなってきました。これはある意味、伝統的精神文化の変化(または崩壊)を意味しているといえるでしょう。
芳一が座っていた「縁側」も、内と外(現実と異界)の「あわい」であり、八雲の書いた時代も、明治という旧価値観と新たな感性が共存していた「あわい」にありました。

平安時代は琵琶も器楽として、その妙なる音が大きな魅力と力を持ち、秘曲など素晴らしい曲があったのに、鎌倉時代に入ると、琵琶の音は弾き語りのだたの合いの手になって行ってしまいました。それは樂の音の霊性が失われたと言えるかもしれません。声が和歌などを中心として「言の葉」「言霊」という霊性を持っていた時代から、お話を語る現世のツールになって、霊性を失って行った時代へと移り変わったことで、声の伴奏に使われて、樂の音の霊性が奪われたのかもしれません・・。
そして弾き語りが明確に出来上がった鎌倉時代自体も「あわい」にありました。権力が武家に移ったことで、あらゆるものの価値観が急激に変わって、世の在り様が大きく変化していった時代です。政治だけでなく、貴族の多夫多妻制から、武家の一夫一婦制へと常識が変わったのもこの時期ですし、お金を稼ぐという意識のない貴族の荘園制度から、武家の御恩奉公の実力主義に変わって行き、手柄を立てたものが多くの収入を得るという現代に通じる価値観に変化していったのもこの時期です。古い価値観と新たな価値観がぶつかり合っていたのが鎌倉時代でした。

日本橋富沢町楽琵会にて、津村禮次郎先生と

今年は「あわい」という事が、私の一つのキーワードになってきているようで、色んな場面でこの「あわい」を感じます。私の50代という年齢も、ある種の「あわい」に立っていると思いますし、自分を取り巻く環境も、旧価値観と新たな価値観の「あわい」に立っているような、そんな感じがするのです。
新しい時代の流れを感じずに、目を閉ざして生きるのは良くないですし、過去を知らないのも良くないです。と思います。上記の樂の音や言霊のような大切なものは、是非残したいと思う反面、時代に即さない旧い感性が、新たな才能をつぶしてしまうという面もあります。両方ともに感じるこその「あわい」なのでしょう。この「あわい」の中でこそ、いや「あわい」の中でしか、次の時代を創る天才達は生まれないのかもしれません。

永田錦心
永田錦心がSPレコードを通じて全国区になったのと同じく、現代ではネット配信で世界に瞬時に広がる時代です。しかし邦楽人・琵琶人の感覚はどうでしょう??。未だ大きな劇場でリサイタルをやり、賞を取って、知り合いを招待して御披露するのが、活動している事だと思っている人も多いですし、流派の曲をお見事にやるのが正統派だと思う人も多いでしょう。まさに現代は先端のテクノロジーによる新しい価値観と旧価値観のはざまにある「あわい」の時代なのです。
物事や情報が世界を駆け巡り、インタラクティブに動いている時代に、音楽家はどう動いたら、この妙なる音を世に響かせることが出来るのでしょうか・・。

ノヴェンバーステップス初演時の鶴田錦史

永田錦心も鶴田錦史もきっとそんな時代の移り変わりの中で、旧価値観と新たな価値観の「あわい」に存在していたことと思います。それは武満徹も黛敏郎も、ドビュッシーもラベルも、シェーンベルク、バルトーク、ピアソラ、マイルスも同様、皆「あわい」の中に在り、多くのレイヤーを行き来して、自分の周りに、ある種の異界を感じていたのかもしれません。そして皆同様に旧勢力からは理解されず、非難罵倒されてきました。武満は「音楽以前の問題」と当時の評論家(山根銀二)に酷評され、ラベルは、現在現代ピアノの音楽の元祖とも言われている「水の戯れ」をサン・サーンスによって酷評され、パコ・デ・ルシアは師匠でもあるサビーカスに「フラメンコを汚した」とまで言われ、土方巽も「まともに立っていられない、技術がない」と評され、ピアソラもジミヘンも皆旧勢力によって批判攻撃されてきたのです。旧価値観の物差しでしか見ない人には、新たな感性や技術、形は理解出来なかったのです。
なまじっか専門家になると、自分がやってきたものを土台にしてしまい自分とは違うものを素直に見れなくなるものです。しかし時代に生きる一般の人々はどの時代でも違います。つまらないプライドも無く、余計な知識も無い分、素直に新たな時代の新たな音楽・芸術を皆支持してきました。そして新しい価値観で、新しいフォームが出来上がり、それらを創り上げた人達、彼ら自身が次世代スタンダードになって次の時代の幕を開けて行ったのです。

近江楽堂にて、笛の大浦典子さんと

皆「あわい」の部分に居たからこそ、前の時代と次の時代を見渡すことが出来、そこから新たな世界を生み出せたのでしょう。それには柔軟な感性が何よりも大事です。古武術の甲野善紀先生は「頭で習って、なぞり、ある種の癖をつける」ということ、いわゆる「教わる」ということに警鐘を鳴らしています。習うことで「見取る」能力が落ちて、自分でも気が付かないうちに「こういうものだ」という刷り込みが出来上がって、そのものをよく理解せず、頭が凝り固まってしまうものです。自分で見取り、考えて行けば、色々な側面からの視野を持てるし、自分と違うものさえ、良いと思えば吸収して行けるのに、訳も分からず刷り込まれてしまって、ある程度実績も積み自信もついて来ると、自分自身で目を閉ざしてしまい、尚更その呪縛からは逃れられなくなってしまうものです。そういう状態では、違うレイヤーを感じることすらできないでしょう。

簡単に言えば、頭が固いという事は器が小さいという事ですが、新旧の価値観、様々なレイヤーを行き来出来る者だけが、次世代の形を示す。またそういう人を天才と呼ぶのでしょうね。
この「あわい」の中、私はどう生きて行くのか、自分でも楽しみです。

祝 琵琶樂人倶楽部13年目突入!!

秋になってまいりました。先日、櫛部妙有さんと「方丈記」をやってきたばかりなのですが、今は9月10月のとんでもない忙しさは過ぎて、せいぜい週に二回ほどの演奏しか入っていないので、気持ちも落ち着いています。何事も緩急があるのは良いことです。やはり余裕は必要ですね。

琵琶樂人倶楽部の看板絵 作:鈴田郷 

お陰様で琵琶樂人倶楽部は13年目に入りました。2007年11月に立ち上げたこの会も、あっという間に12年が過ぎ、また来年一年の予定もすでに決まって、早140回を超えて毎月開催出来ているというのは嬉しい限りです。
発足当時は琵琶樂の正しい歴史を知ってもらいたいという想いで始めたのですが、やっと薩摩琵琶をやみくもに「古典」だなどいと言う人も少なくなってきたように思います。まあ私も大学や色々な演奏会やレクチャーでその歴史を紹介してきたので、少しは琵琶樂のお役に立てたのかもしれません。
また2016年からタイプの違う定例会、日本橋富沢町楽琵会も発足して、定期的な琵琶会が、こうして順調に開催されていることに喜びを感じます。

琵琶樂人倶楽部発足当時 高野山常喜院演奏会にて 若い!!

しかしながら、琵琶樂全体は未だ世間から孤立していますね。Youtubeなどを見ても、まだまだ流派の曲を上手にやる事にとどまっているのが現状です。永田錦心が創り、目指したような創造的な芸術音楽にはとても至っていないと私は思います。私自身は作曲家でもありますので、もう50曲以上も琵琶の独奏曲やアンサンブル曲、歌曲、器楽曲を書いて演奏してきましたが、琵琶の世界全体を見渡すと、創造的活動をしている人は本当に少ないです。残念でなりません。むしろ流派の外側に居る方が、面白いことをやり始めてきた感じがしますね。

琵琶樂人倶楽部がそんな創造的人材を育むことに少しでも貢献出来ているのなら嬉しいです。ビジネスでもそうですが、旧来の組織や概念からは次世代のスタンダードは出てこない。それは明治期の永田錦心や、昭和期の鶴田錦史の例を見るまでもなく明らかです。彼らは本流の外側に居たからこそ新しいセンスを琵琶に持ち込むことが出来たのだと思います。
改めてこの二人の偉大さを感じます。そしてフラメンコのパコ・デ・ルシアや、タンゴのアストラ・ピアソラのように時代をリードするようなカリスマこそが、今、琵琶樂に必要だと思います。小さな世界で虚勢を張っているような小器では、もう後がありません。永田錦心が目指したように、世界を視野に入れて、新たな時代に新たな琵琶樂を高らかに鳴らし、響かせて頂きたいですね。

開催100回記念演奏会にて

今薩摩琵琶に求められているのは何なのか。私は新しい曲とセンスだと思っています。薩摩琵琶は流派というものが出来てまた100年余り。古典と言えるほどの歴史は無いので、とにかくこれから時代に沿った曲を創りだして、リスナーに支持していただけるようになったら、古典音楽に成って行くことでしょう。とにかく楽曲創り、その一点に未来がかかっていると思います。時代の感性が反映されなければ、誰も聞いてはくれません。やっている人だけが楽しいというジャンルは、ジャズの例を見るまでもなく、衰退して行きます。リスナーに興味も関係もない曲を大声で「お見事」に歌っても共感は生まれません。未だ男尊女卑的、軍国的な内容の曲をコブシ回しながらやっていること自体、私には理解できないですね・・・。
永田錦心が明治という新たな時代に新たなセンスで曲を作り演奏したからこそ、今があるのです。出来合いのものに胡坐をかいて、自慢し合っているようでは、明日は見えてきません。この妙なる音色を、何としても次世代に届けたいと思っています。
来年一年の予定は以下の通り


1月8日  春を寿ぐ歌 

              ゲスト 内藤眞代(筝) 長谷川美鈴(笛) 

2月2日  現代の琵琶樂  

       ゲスト藤田晄聖(尺八) 濱田協子(Vi) 

3月11   次代を担う奏者たち 

              ゲスト 須田隆久(薩摩)岡崎史紘(筑前) 

48日   樂琵琶の秘曲を聴く

              塩高和之(樂琵琶・レクチャー)

513日   筑前琵琶の世界

             ゲスト 平野多美恵(レクチャー・筑前) 

610日   薩摩琵琶で平家で平家を聴く

        塩高和之(薩摩) 他ゲスト未定

7月8日   樂琵琶と平安文化 

              塩高和之(樂琵琶・レクチャー)

8月16日(日)SPレコードコンサート(8月のみ第3日曜日開催 18時00分開演)
99       語り物の系譜13 

       塩高和之(樂琵琶)ゲスト 櫛部妙有(朗読)  

1014日   BIWA from Silk
Road
   

               塩高和之(樂琵琶・レクチャー)ゲスト未定

1111日     薩摩琵琶その歴史と変遷 

               塩高和之(薩摩琵琶・レクチャー)

12月9日   お楽しみ企画              


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琵琶樂人倶楽部を開催している会場 名曲喫茶ヴィオロンにて photo新藤義久
来週の琵琶樂人倶楽部は原点に返り、薩摩琵琶の歴史と変遷のお話、演奏をやります。

第143回琵琶樂人倶楽部
11月13日(水) 午後7時30分開演 ゲスト長谷川美鈴(篠笛)
レクチャー「薩摩琵琶、その歴史と変遷」演奏曲:「祇園精舎」「経正」「花の行方」「風の宴」

是非是非お越しくださいませ。

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