熱狂的声楽愛好のススメⅣ「椿姫」

Met Live Viewing今季最後の作品「椿姫」を観てきました。
泣けましたね~~ドラマですね~~。ヴェルディの作品は、私にはすんなりと入ってくるみたいで、今回も大満足でした。

     ナタリー・デセイナタリーデセイ1

主演のヴィオレッタ役はナタリー・デセイ。オペラ歌手にしては小柄ですが、PPPまで歌い切る歌唱力が光っていました。迫力系ではなく、どこかはかない感じで、役柄の内面が良く表れていて、役柄と彼女のキャラがぴたりと合っていました。
マシューポレンザーニ
相手役のアルフレードにはマシュー・ポレンザーニ。この人の声には惚れましたね。リリックテノールといわれる大変艶の有る声質。加えて確かな歌唱力。素晴らしかったですね。久しぶりに声に酔いしれるテノールを聞きました。もう一度聞きたい!

ホヴォロストフスキー

そして、「エルナーニ」でも活躍したディミトリ・ホヴォロストフスキー
相変わらずのずぶといバリトンで、圧倒的な迫力でした。あの声はいったいどうやって出しているんだろう??是非是非生で聴いてみたいです。存在感も十分で、銀髪の髪が今回も決まっていました。

毎度のことですが、とにかくMetは其々の役に合った個性を持つ歌手が揃っている。主演のナタリー・デセイも、ままならぬ運命を生きるヴィオレッタそのものに見えてくるのです。もちろんアリアもたっぷりと楽しめました。定番の「乾杯の歌」はもちろんのこと、中でもホヴォロストフスキーが歌うジェルモンのアリア 「プロヴァンスの海と陸」

「プロヴァンスの海と大地を、誰がお前の心から奪ったのだ?
故郷の輝かしい太陽から、いかなる運命がお前を奪った?
苦しいのなら思い出せ、そこでは喜びに包まれていたことを」

ぐっときましたね。

         ナタリー&ポレンザーニ

そして最期にアルフレードの腕の中で息絶えるヴィオレッタの姿を見ていたら、涙がすーと頬を・・・・・。愛とは、人間とは、社会とは・・・・。Metの解説には「ヒロインの悲しい運命に寄り添うカタルシスを味う」とありましたが、、、「泣けるオペラ」でした。

明日は平家物語の「敦盛」を演奏するのですが、このオペラのように、ストーリーを越えて聴く人に何かが伝わるような演奏をしたいものです。
見事な芸も大事ですが、それを見せているだけでは物足りない。その先がなければ!!
邦楽は未だ、見事な練れた芸を見せる聴かせるという所に留まっているような気がしてならないのです。
「おまえは何を描くのか」、そここそ問われていると常に感じるのです。

         seiryutei-1


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想い出はうすぼけた空の色

この所何かとあわただしい。忙しいのは結構なことですが、日々が足早に過ぎ去るばかりで・・。もっと物事にじっくりと向き合って生きて行きたいものですね。

良い事、悪い事色々な記憶や想い出は色々とありますが、人間は身勝手なものですから、自分にとって大事な部分は都合よく膨らませて悦に入り、あとはしっかり空の彼方へ押しやって、反省もしない。まあそうでもしないと生きて行けないのが、人の世というものなのでしょうか。

        huji

先日は母の見舞いに行ってきました。母は少しずつ認知症が出てきているらしく、何だか会いに行く度にふわっと軽くなっていくように見えます。考えてみれば、年をとって色々な記憶が薄れ、まっさらな状態になって、お勤めを終えて行くのも良いのかもしれないです。「覚えていて欲しい」などというのは、日々カッカして生きている我々の言い分でしかないのだから、人生の重荷を下ろして、身軽になって行くのはむしろ当然の事、そんな風にも思えてきました。
しかしながら私はまだ今生を生きなくてはならない。泣いて笑って、時に戦って、やるべき事を成さなければならない。それはいつしか空に消えて行く小さな出来事であっても、まっさらさらになるまでは、今生を全うしなければならないのです。

だからこそ、何があろうとも、とにかく良い作品を残したいという想いが湧き上がります。しかしそんな想いで作った「作品」は無情なまでに自分の手を離れると独り歩きをし、作品独自の「命」を生きるものです。芸術家はその誕生の時をちょっとお手伝いする事だけしか出来ません。

huji2個人の想い出や願望など、大自然の中にあっては、うすぼけた空にいつしか消えてなくなってしまうもの。あまりにも小さく、はかなく、刹那な存在でしかないですね。この体もお勤めを終えれば、一物も無く消えてゆきます。それでも、たとえ無記名の作品であっても何か残したいというのが芸術家の最後のエゴなのでしょうね。

歩む「歩み」佐藤三津江作

PS:先週は、よくここで紹介している陶芸家の佐藤三津江さんの展示会があったので行ってきました。作品は相変わらず個性的で生き生きして、静止している作品なのに、そこには「動」を感じます。作品が歩いてきたんじゃないかと思えるような肉感的な「動」が更に強くなったような気がしました。

まだまだしっかり生きて行かんと!


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熱狂的声楽愛好のススメⅢ「マノン」

先日MET LIVE VIEWING「マノン」を観てきました。マスネ作曲の「マノン」は、アヴェ・プレヴォーの小説「マノンレスコー」の主人公で、フランスを代表する(?)小悪魔的存在の女性として有名ですが、アナトール・フランスはマノンを評し「一生涯恋をして、一週間しか貞節でいられなかった女性」と書いています。

        ネトレプコ1

フランスのオペラは、前回書いたヴェルディの「エルナーニ」のようなものとはタイプが違い、どこか滑稽味があって洒落ている。この間観たプーランクのものもそうでしたが、ちょっと軽いコミカルな雰囲気があって、熱狂的声楽ファンには「もっと歌を!」という感じもしないでもないですが、これがフランスオペラの持ち味。今回の「マノン」もそういう意味では歌の魅力満載というのとはちょっと違ったのですが、その分オケは豊饒なまでに鳴り、舞台としての見せ場も結構あり、魅力いっぱいでした。それにマノン役のアンナ・ネトレプコはなかなかの「はまり役」で、ストーリーもオペラにありがちな貴族の物語ではない、我々一般の人間ドラマをたっぷり堪能してきました。

ネトレプコ4Metはとにかくキャストが豊富ですね。どの作品を見ても皆キャラにぴたりとはまる人材を選んでいますね。今回の相手役デ・グリューのピョートル・ベチャワもそうでした。マノンに翻弄されるまじめな青年の雰囲気が良く出ていました。
「エンチャンテッド・アイランド」でのジョイス・ディドナートも魔女っぷりが板についていたし、ドミンゴなんか登場した時からすでにまんま海神ネプチューンにしか見えませんでした。超一流がしのぎを削って集うだけあって層が厚く、様々なタイプの世界的スターが揃い、まさに煌めくようです。
今回の「マノン」は設定を19世紀にした演出で、より身近な感じがしました。またセリフの中に「神様は幸せをとても軽くつくられた…だからすぐ何処かへ飛んでいってしまいそうで怖いんだ」というデ・グリューのセリフなんかぐっときましたね。オペラは名言の宝庫です。

こういう質の高い舞台は観ていて本当に幸せになります。私は日々色々な舞台を観ていますが、こういう満足度の高いのものは少ないですね。

        ネトレプコ5

日本人は素人でも何でも一生懸命やっていると、質に関係なく感動しただの、凄いだのとすぐ言います。いい例がAKBなどのアイドルでしょう。一生懸命は結構なことですが、結局は「姿勢」は求めても「質」を求めていないという事です。
琵琶の世界でも、トップレベルがしのぎを削った、あの勧進帳初演の頃(先日ブログで書いた)は、遥か昔の出来事になってしまったようです。

「日本人は成熟できない国民」という意見をよく聞きますが、音楽界の状況を観ていると、確かにそうだと思えてなりません。個性を殺して、軋轢の無いかの如くに「和」を保っていても、それは本当の「和」でもアンサンブルでもないのです。まず確固とした「個」があり、その上でお互い意見を出し、議論し合い、お互いの違いを認め合い、共生出来て、初めて組織や社会は成り立つもの。それが出来なければ「成熟してない」と言われても仕方がないのです。これでは国力も落ちるわけですね。         
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Both sides now Ⅱ

ちょっと更新が滞ってしまいました。調子も戻りこれから本腰を入れていきますので、是非また御贔屓に。

ジョニミッチェル少し前にBoth sides nowというタイトルの記事を書いたら、早速多くの反応を頂きました。皆さん私と同世代かそれ以上の方々ばかりですが、嬉しいですね。このBoth sides nowはジョニミッチェルが歌った曲で、邦題が「青春の光と影」。ジョニミッチェルはジャズミュージシャンとの共演も多い方で、同世代にはぐっとくるんでしょうね。

それにしても「光と影」なんとも惹きつけられる言葉ですね。誰しも自分の中に光と影を持っていることと思います。私も光と影を持っています。影は普段表に現れませんが、自分の影の部分に対し目をそらさずにしっかりと見つめることは、光の中へと進む事にも繋がると思いますので、影は決して無駄でも、邪魔なものでもないのです。むしろ影があるからこそ、今の私があると思っています。

C.G.ユングは「影は、我々人間が前向きな存在であるのと同じくらい、ユングよこしまな存在である。我々が善良で優れた完璧な人間になろうと努めれば努めるほど、影は暗くよこしまで破壊的になろうとする意思を明確にしていく。人が自らの容量を超えて完全になろうとするとき、影は地獄に降りて悪魔となる。なぜならばこの自然界において、人が自分自身以上のものになることは、自分自身以下のものになるのと同じくらい罪深いことであるからだ。」と言っていますが、胸に迫る言葉ですね。ユングに関してはまた機会をあらためて・・・。

私が従来の邦楽にどこか距離を置いて、独自の探究をするのは、現在の邦楽に影の部分をあまり感じないからかもしれません。歴史を見てみると、色々な影があったと思いますが、現代の邦楽にはあまり感じません。私は音楽の中に存在する光と影を感じ、見つめていきたい。音楽の中に光と影があることは、人間の営みとして当然だと思いますし、またなくてはならないと思います。

さて、今月はやっと演奏活動も色々と入っています。スケジュールのブログをご参照ください。まずは再びの勧進帳。これは12日に両国でやります。そして7年に渡り毎年恒例で、様々なゲストを迎えてやっているグリーンテイルでのライブが19日にあります。これまで尺八だけでも中村仁樹、岩田卓也、田中黎山、香川一朝の各氏を迎えましたが、皆さん個性が違うので、毎回大変楽しみなのです。
グリーンテイル http://www7a.biglobe.ne.jp/~greentail/ ライブ2というところをクリックしてみてください。今回は新作も演奏予定です。

プラトンの「饗宴」によれば、人は人生において「かたわれ」を求めるといいます。それは人生のパートナーというものだと思いますが、光と影もまた自分の中のパートナーなのかもしれません。


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春の目眩

近頃は何故かよく目眩がします。春休みが長すぎて、まだ桜の園の幻想世界にいるんでしょうか。その桜ももう見納め。今年は色々なところで桜を堪能しました。花や自然に囲まれ、その姿を目にするというのは、創作する人にとっては良い刺激です。その時々を楽しむということは何かを生み出すには大事な事で、さらに一緒に楽しむ相手がいるというのも大切な事。音楽は創造性無き所には存在しないので、創造性を刺激するお花見もしっかり音楽活動なのです!!

        長瀞桜4

この春休みには結局3曲作曲しました。まあ譜面上のことなので、これから練り上げて、レパートリーとなってゆくのはもっと先なのですが、ぶらぶらしている割には仕事をしているじゃん、と我ながら悦に入っているのであります。まだ2曲ほど作ると思うので、稼ぎは二の次としてまあまあ働いているかな??

作曲したのは薩摩琵琶の独奏曲(器楽)、楽琵琶と笛のデュオ、尺八と薩摩琵琶のデュオ(こちらも器楽)の3曲です。このほかに楽琵琶の独奏曲、楽琵琶と笛のデュオを作るつもりです。そしてまたCDを作って、どんどんと世に出して行きますよ。今まで出した6枚のCDの曲は、石井紘美先生の1曲を除いてすべて自分の作品ですので、もう琵琶の曲だけでかなりの数を作っています。それらを引っ提げてどんどんアウウェイに飛び出して行きたいです。

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来月からは本格的に演奏活動が始まりそうなのですが、今さらながら自分は自分のやり方をやるしかないな、というのがこのところのあらためての実感です。「おまえは昔からそうだよ」といつも周りに言われていますが、年を重ねるほどに余計なものが取れて、ますます自分のスタイルがはっきりしてきます。
琵琶には語りがなくては始まらないと言う方もいるし、私のような器楽派もいる。人其々の考えがあり、其々のスタイルが花開くことが望ましいのです。何事も一つに断定してしまった時に衰退がはじまる。桜も色々な種が咲き誇るからこそ美しいのです。   
   
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よくブログでも書いていますが、最近はもっぱらクラシックを聴いています。今はジャズよりもクラシックが来てますね。やはり作品といい、演奏といい、世界が認めるものは素晴らしいレベルを持っています。邦楽でも、かつては永田錦心、宮城道雄、沢井忠夫が闊歩して、邦楽が芸術音楽として世界に向けて発信して行った時代があったのですが、今はそんな沸騰するほどに創造性のある人を見かけなくなりました。どんなスタイルでも良いと思いますが、自分の作品を世に問い、宮城、沢井のように芸術分野で世界と真っ向勝負する人が出て欲しいですね。

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    春の目眩は何かを生み出す前兆かも???

大きな視野、大きな世界観、私には何をおいてもこれからはこれらが必要です。技術も今までのそれではない、違ったものが必要になってくるでしょう。作曲やプロデュースなどももっと多くのことを求められると思います。プロとして生きてゆくにはお金のことも大事です。お金の話が出来ない人はプロにはなれません。
邦楽界、琵琶界、己の世界、そんな中でのんびりはしていられないのです。

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日の出は近い

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