熱狂的声楽愛好のススメ XXI~Met「イル・トロヴァトーレ」

今季のMet初作品「イル・トロヴァトーレ」を観て来ました。この作品はMetがライブビューイングを始めて10年目となる今季の第一作目ですから、大いに期待していましたが、その期待の上を行く素晴らしい感動がありました。

ホヴォロストフスキー2

今回は、絶好調のネトレプコもさることながら、なんといってもディミトリ・ホロフトフスキーこそ観たかったのです。ホロフトフスキーはこの夏、脳腫瘍であることを発表し、それを克服しての舞台がこの作品だったのです。
先ず彼が登場してきた時の観客の惜しみない拍手が忘れられないですね。役ではなく、
ホロフトフスキー本人の登場に割れんばかりの拍手が鳴りやまなかった。その歓迎に先ずは会釈で軽く答え、それから役に入って行くという、今まで観たことない始まりでした。愛されているんですね。

そして勿論ネトレプコ素晴らしい。完璧な程の歌唱を聞かせてくれました。まぎれもないトップ歌手としての貫録を見せつけてくれましたね。本当にびっくりする位凄かった。華があるとは正にこの事です。
ホロストフスキーのあの声も相変わらず太く、深く鳴り響いていました。好きだな~この声、そして彼の揺るぎない姿。私も声を使う音楽家ですから、彼の声には憧れ以上のもの感じますね。
この二人はロシア出身のスターであり、ネトレプコが初めてMetに出た時も二人の共演だったそうです。絵になる二人ですね。

デュオ

ヴェルディの作品なので、いつもの「濃~~い」人間ドラマなのですが、共演のヨンフン・リーやドローラ・ザジック,ステファン・コツァンも素晴らしく、じっくりと楽しめました。全編に渡りぐぐぐぐ~と作品の中に入って行けました。
最後のカーテンコールはもうホロフトフスキーへの歓声が鳴りやまず、オケピットからも花が投げられ、世界中のオペラファンが彼の復活を信じ、世界中から祝福の拍手が沸き起こっているかのようでした。ちょっと涙が出て来ましたよ。これがスターというものなんですね。ちょっと人気だとか、売れているだとかではないのです。

ピーター/ゲルブピーター・ゲルブ
オペラはもうだめだなどとよく言われますが、こんな瞬間を目にしたら、とてもそんな感じはしませんね。一頃よりは観客動員数も減ったのでしょうが、ライブビューイングのおかげで随分と身近になりました。Metのピーター・ゲルブの手腕は凄いと思います。彼が居なくてはここまでオペラが身近にはならなかったでしょう。

邦楽でもオペラでも、通やコアなファン(というよりオタク)のような方々は、「この作品は最悪」だの「○○下手」だのと通ぶって、個人感想文を得意になって発信しますが、以前にもこのブログで書いたように、そういうマニアがジャンルを潰すのです。自分達の気に入るような舞台であって欲しい。それ以外はこき下ろすというようではオペラも邦楽も育ちません。ちゃんと評論を書いて欲しいですね。批判的な記事も、必ず根底に愛を持って書いて欲しい。更には批判記事を=誹謗中傷のように捉える人々も情けない。自分と違う意見を言われ、誹謗されたと言いふらすような低レベルの感性がまかり通っているでは、全体のレベルが上がりようがないのです。書く方も書かれる方も、常に謙虚な姿勢で意見を聞くようでなくては・・・。

今邦楽にもピーター・ゲルブのようなプロデューサーが必要です。実はもう20年近く前から言っているのですが、残念な事にそういう方は出て来ませんね。まあ現状では商売にならないし、私のような個人経営でやって行くのが精一杯でしょうが、邦楽でもクラシックでも働く必要の無いやんごとなき人しかやっていないような状況で、まともなレベルの音楽が出来上がるでしょうか。如何でしょう。

150918-s_塩高氏

Metを観るといつも元気が出ます。視
野も広がり、自分の成べきことも、観る度に明確になってゆくのです。同じように私の演奏を聞いた人が、希望に溢れ、愛に満ちるようにどんどんクオリティーを上げて行きたいですね。

2015古民家-s

さて、今週末は秋の恒例、北鎌倉古民家ミュージアムで、笛と琵琶のデュオReflectionsの演奏会です。今回は前半が古典雅楽曲、後半がシルクロードを感じさせるReflectionsのオリジナルという構成になっています。是非是非お越しくださいませ。


三河路をゆく~豊田能楽堂演奏会

先日、愛知県の豊田能楽堂にて演奏してきました。

日本における琵琶の歴史を古代から現代まで辿るという企画で、琵琶楽研究の薦田治子先生の解説を交えながら、各琵琶楽を代表する方々に交じって演奏させて頂きました。

今井検校勉(平家琵琶)
須田誠舟(薩摩琵琶正派)
奥村旭翠(筑前琵琶)
田中之雄(鶴田流琵琶)
塩高和之(樂琵琶)
薦田治子(解説)
柳沢新治(企画構成)

それにしても凄いメンバーですね。よくぞ私を選んでくれました。

私は一番最初の出演で、今昔物語の蝉丸と博雅の逢阪山での出逢いの場面、そして「啄木」の独奏をやらせて頂きました。久しぶりに楽坐での演奏でしたので、足がちょっと・・・・。

 

能楽堂に雅楽の衣装というのも変わってますが、しょっぱなからこの格好で出てきたので、お客様には随分とインパクトがあったようです。

薦田先生(私の右側)、今回私が弾いた樂琵琶を作ってくれた愛知在住の琵琶制作家 熊澤さん(私の左側)らと
今回は琵琶製作の石田克佳さん、熊澤滋夫さんが駆けつけてくれまして盛り上がりました。私は今昔物語では熊澤製の琵琶、啄木では石田製の琵琶を弾いて、音色の違いも聞いて頂きました。またこの会では偶然にも、須田先生が石田さんのおじい様が作った琵琶、田中先生がお父様の作った琵琶、私が克佳さんの作った琵琶を弾き、石田琵琶三代揃いぶみとなりました。

こういう機会は滅多にないので、とても良い機会となりました。田中先生とお会いするのも、もう何年振りでしょうか。ゆうに5年は経っていると思います。須田先生、今井検校ともお話しする機会はこれまでありませんでしたので、貴重な時間を頂きました。
東京や京都の友人達も多数駆け付けてくれて、本当に嬉しかったです。推薦してくれた薦田先生には感謝しかないですね。

公演の前日、昼頃には豊田に到着していたので、周辺のお寺や神社をてくてくと歩き回ってきました。

    

何も無いといえば何も無いのですが、こういう所をゆっくり観て周っていると色々な発見があります。今回も面白かったです。こういう時間も旅の良さですね。私は車の運転はしないのですが、なるべく前後にこんな時間を作ってそれぞれの地を歩き回る事にしています。何処へ行ってもバスに乗って、てくてくと歩いていると、かえって色んなものが見えて来るのです。旅は面白いですね。

今年はまだまだ演奏会は続きます。今週は府中市民講座の第3回目、そして笛の大浦さんとの毎年定例 北鎌倉古民家ミュージアムでの演奏会があります。まだまだ気が抜けません。

道遥かではありますが、自分の道を歩いているという実感はなかなか良いものですね。自分のペースでしか歩けませんが、これからもずっと歩いて行こうと思います。

遠州路を行く~シルクロードミュージアム独演会

先日の日曜日は、静岡県の磐田市にあるシルクロードミュージアムで演奏してきました。シルクロードといえば私の出番。とにかくシルクロードと名の付くものには反射的に目が行ってしまう性質ですので、今回のお話は有難かったですね。こここそ私がやるべき会場と思えました。

どんな感じの所かと思いきや、場所はちょっと意外なこんな感じの所。

       42

天竜川にほど近く、緑に囲まれたとても風情のある古民家で、江戸時代から建てられているとの事でした。何だか来週演奏する古民家ミュージアムみたいだな~~と思いながら展示を見せてもらうと、シルクロード関係のコレクションがびっくりするほどあって、さすが名前に恥じない内容だと納得!!。更には何千年という時を経た、ちょっと洋風の趣のある石の仏像など「手で触って下さい」というではないですか。子供のころからのシルクロードオタクとしては感激の時間でしたね。この手でしっかり悠久の時を実感してきました。

今回の演奏は久しぶりの独演会。祇園精舎を薩摩琵琶と平曲で唄い分けたり、樂琵琶で啄木を弾いたり、経正を語ったりとヴァリエーションのあるプログラムでやらせて頂きましたが、皆さんとても熱心に聞いてくれてありがたかったです。1時間半近くやりましたが、とにかくやり方次第で琵琶もじっくりと聴いてくれますね。もっともっと良い形を作って、琵琶を聞いて頂きたいと思います。
楽器を上手に演奏することもとても大事なのですが、それをどう聞かせるかはもっと大事。この部分が出来ないためにプロとして活動がままならない人がとても多いと思います。是非師匠となる人やベテランの方々はそういう部分こそしっかり生徒や後輩に教えていって欲しいものです。

そして帰りには浜松楽器博物館に行ってきました。

1前々から一度行ってみたいと思っていたのですが、やっと念願かないました。色々な国の民族楽器は勿論、さすがに浜松だけあって現代の楽器も充実しています。ローランドやコルグの初期シンセに混じって、初代のギターシンセが展示されていました。

2

懐かしいですね。川崎遼やパットメセニーなどが盛んにギターシンセを使って活躍していた時期が、私の10代ぁら20代という青春時代(?)ど真ん中でしたので、最先端に憧れの眼差しを向けていた端くれとしましては、シルクロード同様、感慨深いものがありました。

150918-s_塩高氏

箱根岡田美術館にて

シルクロードの遺物や色々な国の民族楽器などに触れていると、私はとてもロマン感じます。このロマンを言葉で説明する事はなかなか難しいのですが、私は手が届かない古代の風にどうしても憧れがあり、また今を吹き渡る最新の風、そして次世代を吹き渡るであろう未来の風、それぞれに惹かれるようです。だから明治後期~大正時代辺りが最盛期だった薩摩琵琶は、楽器としてのの可能性をとても感じる反面、手が届かない程に古い訳でもないし、また現代、次世代に向っている風も感じられないので、流派の曲などに興味が持てなかったのでしょう。

逆に古代方ずっと受け継がれている樂琵琶を弾くのは正に私にとっては必然。樂琵琶を触れずして私の音楽はありえません。そして何よりも大切なことは、古代の再現をするのではないということです。古代のものを現代の社会や現代人の感性に向かってその音を響かせてこそ、古代の楽器や楽曲に命を吹き込むことだと思っています。そこに創造が無くては意味がありません。形をなぞった器だけの復元は資料以上のものにはならないと考えています。あくまで音楽として響かせる。ここの部分を失ったらもうその楽器の命は終わりです。だからこそ過去をしっかりと知り、勉強し、研究し、過去からの歴史を持受け継ぎながら、且つ現代という時代に根ざし、現代に、次代に向かって響かせるのです。それでこその命です。途切れたものでなく、ずっと継承されてきた命として、その最先端に私が居るのです。それが私の役目です。薩摩琵琶も同様、過去に囚われず最先端のスタイルを作り上げたいですね。

想いは古代へのロマンに乗って、次世代に向って何処までも飛んで行くのです。

風情というもの~TOWER OF FUNK Japan Tour

行ってきましたよ。オーネット・コールマントリビュート「TOWER OF FUNK Japan Tour」 !!

モノホンです!!正にモノホン!!!!凄まじいリズム感と、スリリングな展開、圧倒的なパワー、全てに桁が違います。その音場で我らがSoon Kim兄が縦横無尽に吹きまくるという構図。勿論ただ吹きまくるだけではありません。そこには歌があるのです。叫びが、想いが・・・様々な起伏が表現されています。いわゆるフリーキーな格好をまとった、なんちゃってフリージャズとは全然違うのです。

クアトロ7Soon Kim兄

キムさんは20代前半からNYに渡り、オーネットの元で内弟子のような形でくっ付いていたので、体全体にジャズの風情というものがあるのです。そこを身に付けているというのがとにかく素晴らしいですね。今回はDsにカルヴィン・ウエストン、Bはアル・マクドウェル、Gがヴァーノン・リードという超の付く世界の一流ミュージシャンとの共演でした。キムさんも他3人の方々も皆さん勿論凄いレベルなのですが、上手いとかどうとかということでなく、姿がそのままジャズなんです。曲調はジャズというよりロックだったり、ファンクだったり自由なのですが、姿も音もそのままがジャズなのです。そこには何の無理もない。いつも話していることをそのまま話しているだけ。そしてそのレベルが桁外れに高いだけなのです。

メンバーはこんな感じ

キムさん以外は3人共黒人ミュージシャンですが、旧知の仲間とはいえ東洋人のキムさんが何の違和感も無く一緒に演奏しているのがいいですね。ジャズは本当にグローバルな音楽だということを実感します。そして同時にグローバルになってもジャズの風情はずっと受け継がれているというのが、素晴らしいじゃないですか。形はどんどん変化していますが、その風情は何も薄まっていない。邦楽器でポップスバンドやっている人達に聴かせたいですね。
私がどれだけ言葉を尽くしてもしょうがないのですが、とにかくこのサウンドを一度聞いて頂けたら嬉しいです。

http://www.toms-cabin.com/TOF2015/index.html

これから大阪名古屋を回るようです。お近くの方是非行ってみて下さい。一聴の価値ありですよ。

啄木ソロ

実は最近、私の周りの仲間と、この「風情」ということがよく話題になっているのです。それは特に邦楽についてなのですが、近頃の邦楽は邦楽ではない、という意見を多く聞きます。それは私自身も常に思っている事なのですが、歌を聞いても、明治生まれの名人の歌と昭和生まれの先生方の歌はまるで違うのです。「ふるえ」とも「ゆれ」とも言って良いと思うのですが、、そういう「色」が昭和生まれの方には無いのです。確かに音程も良いし、琵琶も上手だし、声も出ているし、文句はないのですが、とにかく明治の名人達の歌とは違う。今、あの邦楽の風情を感じるのは山下晴楓先生くらいでしょうか・・・・。残念ですが、なかなかあの風情を感じる人が居ないのです。

アディロンダックカフェ2アディロンダックカフェにてキムさんとデュオ
生活習慣も食べ物も戦前の日本人と今の日本人では全く違うから、変わって当たり前とも思えます。しかしあの邦楽の「風情」が無くなって良いのでしょうか。それで邦楽は邦楽足りえるのか??。かつてアストラ・ピアソラがタンゴをモダンスタイルに改革し、世界へと発信して行きましたが、タンゴの風情は失わなかった。それどころか、クラシックやジャズのトップミュージシャンを魅了したのです。フラメンコのパコ・デ・ルシアもそうだった。グローバル化=薄まるということは幻想です。モノホンはその風情を失わない。失うとしたらそれだけのものだったということです。どんな場にあっても、本物ならその風情は確実に伝わる。だからこそ世界が魅力を感じるのではないか、と私は思います。

私は異ジャンルをずっとやってきたので、いわゆる邦楽人とは違うと思いますが、あの邦楽の風情はぜひとも持っていたいと思います。それが最大の私の課題のように思っています。

キムさんの演奏を聞きながら、音楽の底力を感じました。

祭りは続く

昨日、第二回目の府中市民講座「琵琶の奏でた日本のこころ」をやってきました。

府中市民講座1

今回は中世~近世の話でしたので、割と得意とする所でしたが、逆にネタが多すぎてなかなかまとめるのが大変で、話がちょっと散漫になってしまいました。まあ学者ではないので、私の話を聞いて琵琶に興味を持ってくれる方が増えてくれればそれでいいのですが、まだまだ講師としては精進が足りませんな。来月は第3回目の講座を6日にやります。今度は近世から現代がテーマですので、ばっちり語りますよ。演奏もたっぷりしようと思っています。ご興味のある方は府中生涯学習センターまでお問い合わせください。

2そしてこの日は、我が街阿佐ヶ谷の秋のイベント 阿佐ヶ谷ジャズストリートでした。昨年に続きいつもお世話になっているLast Guitarさんの企画に乗って、性懲りも無く参戦してきました。今回もフルート吉田一夫君 ベース川原淳君と共にスタンダードをやってきたのですが、さすがにギターを弾くのは年に一度しかないので、もう指は廻らないし、リズムには乗れないし散々でした。しかし今年は超強力なゲストが来てくれて大いに盛り上げて頂きました。

阿佐ヶ谷ジャズストリート2015-1

この所時々お付き合い頂いているSoon Kimさんにお願いしたのですが、これが期待以上のパフォーマンスで、お客様も大満足。やはりその道の一流のプロは違いますね。上手いとか何とかではなく、もう音そのもの、姿そのものがジャズに成っているんですよ。オーネット・コールマンの薫陶を若い時から受けてきただけに、一流のものを身に付けていますね。欧米で長年活動してきた彼ならではのテンポの良いトークとトップレベルの演奏。我々をリードして会場を最高潮に盛り上げてくれました。素晴らしい!未だお上手なんてものを目指している邦楽人に是非聴かせたいです。
26日からは今年亡くなったオーネット・コールマンのトリビュートツアー「TOWER OF FUNK」のジャパンツアーが始まるそうです。超一流のメンバーでの演奏は見逃せないですね。(ギターはなんと、あのリヴィングカラーのヴァーノン・リードですぞ!!)勿論私も馳せ参じます。
http://www.toms-cabin.com/TOF2015/index.html

P2069455

最近は毎日がこんな感じで刺激がいっぱい。ありがたいことです。今後も色々とお仕事を頂いているのですが、とにかくやりたい事がいっぱいあるのです。仕事もどんどんやって行きたいですが、音楽的にも追及したい事、実現したいことが山ほどあります。だから歩みが止まる事は考えられないのです。

たまにはお祭りを休んでのんびりする事も必要だと思うのですが、明日25日も静岡県の磐田市にあるシルクロードミュージアムで独演会です。まだまだのんびりしている暇はありません!!まだまだ続くのです。

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.