歩む道は一つなれど果て無し

暫く間が空いてしまいました。作曲をしているとどうも頭の中が常に曲の事ばかりになってしまって、他の事が手につきませんね。
先日の保多由子先生のリサイタルは無事終わりました。今期は拙作「経正」と「Voices」の二曲を取り上げて頂き、この二曲を王子ホールで演奏出来たことが本当に嬉しかったですね。琵琶唄は歌と絃を分けて行くべきという事をずっと言って来ましたが、それが最高のシチュエーションで実現したのですから、今回は記念すべき演奏会になったと思っています。
「Voices」、「二つの月~ヴァイオリンと琵琶の為の」「東風(あゆのかぜ)」「君の瞳」は近年の私の代表作だと思っています。その中でも特に一押しの「Voices」が最高の場所と最高のメンバーとで上演できたことが本当に嬉しかったです。メジャーなものからは程遠いですが、自分のやりたい事をずっと続けてきて良かったと実感できる一日となりました。

Msの保多由子先生 photo 新藤義久

話は前後しますが、GWには日比谷野外音楽堂にて、かねてから一度ライブを聞いてみたいと思っていた「八十八か所巡礼」のライブに行ってきました。久しぶりに生きた音楽を身体の隅々まで堪能出来た最高のライブでした。スカッとしたね。

プログレッシブロックの系譜を受け継いでいるその音楽は、変拍子の多い複雑なリズムや凝ったアレンジメントが特徴で、歌中心のいわゆる売れ線のポップスとは全く違います。それゆえメジャーに乗る事はないですが、それでも日比谷野音がソールドアウトですから、しっかりファンを獲得して世に浸透しているという事です。会場には10代の若者から、私みたいな年代迄幅広い層が集う熱狂の夜でした。
彼らは自分達が気持ち良いと思う事、やりたいと思う事を只管20年やって、ここ迄来たと言っていましたが、とても共感しますね。もう世の中はメジャーレーベルからデビューしたとかヒットチャート1位になったとか、そんな所で活動する時代ではないのです。リスナーは全世界ですし、TVに出た、新聞に載ったなんて事しか頭にないようでは次の時代は生きられません。TVや新聞はもう報道の主流メディアという時代はとっくに終わっていると思っている人は私だけじゃないでしょう。

若者には、先ず自分がやりたい事をどんどん突き進んで欲しいものです。高円寺辺りのライブハウスには熱い想いをただ吐き出しているだけな人も多いですが、最初はそこからでもやってみなくては始まりません。次はそれを音楽にして創って行く努力をする。これが出来るかどうかが音楽家に成れるかどうかの分かれ目ですね。パフォーマーではなく音楽家なのですから、音楽としてレベルが高いかどうかは大事な事。派手なパフォーマンスで目の前の観客をびっくりさせても、音楽に魅力がなくては地元のライブハウスからは抜け出せません。八十八か所巡礼は、とにかくそのレベルがメチャクチャ高い。びっくりする位のアンサンブル能力で、各人のそれぞれレベルも超絶でした。そういう所も妥協せずやっているのが良いですね。正にプログレの魂を受け継いでいるなと思いました。それに右左という事でなく、結構愛国心があるのも好感が持てました。

私もやりたい事をずっとやって来ました。琵琶を手にした時から、ずっと自分のやりたい事をやって来ました。今年の暮れには10枚目となるアルバムの録音とリリースを予定していますが、自分の中から沸き上がるものを音楽で表現してこそ音楽家だと、年を重ねるごとに実感しています。その想いが湧き上がって来なければ、音楽を生業として生きる意味もないです。自分の演奏する曲には絶対の自信をもって舞台に立ちたいし、いつでもどんな所でも自分のやりたい音楽をやりたいですね。

世の中見渡せば、伝統邦楽の世界でも音楽より「売れたい」「有名になりたい」という自己顕示欲に囚われ、音楽が二の次になっているような人が溢れている有様。自分のやりたい事よりも先に自分を取り巻く社会と繋がりたいと思ってしまうと、人は自分を保証してくれる名前や権威におもね、へつらうようになってしまいます。
これからを生きる若者には、そんな小さな視野ではなく、本当に自分のやりたい事を突き進み、それを成就させるスキルを身に着けて欲しい。邦楽では先生と言われながら実は生業に出来ていない人がほとんどです。自分のやりたい事を成し遂げるには、それなりのスキルがどうしても必要なのです。そこから逃げてはいけないし、またやりたい事を捻じ曲げて稼ぎに走ったり、食って行く為の芸に陥ったらもう音楽家としては失格。自分の歩む道をしっかりと踏みしめて進んで行って欲しいですね。

Asax:Soon・Kim   Vn:田澤明子 両氏と 琵琶樂人倶楽部にて


自分のやりたい事をやりたいのです。八十八か所巡礼のように多くのファンは獲得できないかもしれませんが、それでも自信をもって自分のやりたい事をやりたいのです。最後迄。

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