失われた季節

おおぶ交流の杜こもれびホールにて 能楽師 安田登先生、浪曲師 玉川奈々福さんと
西の方ではもう6月頭には梅雨入りをしたそうですね。今年は梅を愛でることなく、桜花の下での宴も無く、新緑さえも味わう暇も無く、季節の風情を何も味わう事の無い年になってしまいました。毎年、年明けからのこの華やかな、生命の輝くような「うつろい」は、私にとっては一つのエネルギーともいえるものなので、今年は何もエネルギーチャージをしなかったともいえるかと思います。
仕事の方は、年明けには愛知県の大府にて素敵な演奏会をさせて頂き、2月にはギャラクシティープラネタリュウムでの自分のルーツを辿るような嬉しい会もあり、幸先は良かったのですが、あれよあれよという間に、なすすべもなく梅雨の湿気の中に放り込まれているこの現実をどう受け止めてこれからを生きてゆけば良いのやら・・・。
とにかくこの状況の中で動けるところは動いて行こうと思いますが、先ずは何といっても私のライフワーク琵琶樂人倶楽部です。今月10日は150回目という節目でもありますので、ここからまた仕切り直しです。今月は歌唱を伴う曲がまだちょっとNGなので、Viの田澤明子先生を迎えて器楽曲を聴いていただきます。
実は今月の日本橋富沢町楽琵会に田澤先生を迎える予定でした。また3月の頭には神奈川のお寺にて田澤先生とのデュオによる演奏会を予定していました。しかしそのいずれもが中止になってしまいましたので、今回急遽、琵琶樂人倶楽部の方にお呼びした次第です。田澤先生は今年CDをリリースしたばかり。そのタイトルも「Duo Recital」。ヴィスコンティの映画 「ベニスに死す」で使われた、マーラーの5番アダージェットも入ってます。いつもコンビを組んでいるピアノの飛松利子さんとの素晴らしいアルバムです。お寺の演奏会ではたっぷりとViのソロを弾いてもらう予定だったのですが、せめて今回はCDの紹介だけでもさせてもらいたいと思います。

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両側:田澤先生のCDジャケット。中:私の8thCDレコーディング時のショット
私は30代から琵琶で演奏活動を色々とやっていましたが、元々フルートやチェロなどの洋楽器と組んで前衛的な現代作品を創りライブハウスを中心に活動していました。また舞踏やダンス系の方々とのコンビネーションもその頃から積極的にやっていまして、即興演奏などもも、暴れるようにやっていました。1stアルバムではそんな最先端の現代邦楽作品群を中心に収録し、ジャズの雑誌などでも取り上げてもらいましたが、一昨年の8thCD「沙羅双樹Ⅲ」でViとの現代作品を発表してから、また洋楽器との共演を積極的にやっています。現代曲からシルクロード系の曲迄、随分と演奏の機会がありました。いわゆる邦楽スタイルでのお寺のコンサート等もずっと続けていますが、ネット配信などで世界に向けて発信していることを考えると、今後は洋楽器とのコンビネーションがどんどん増えて行くと思います。器楽としての琵琶樂を掲げている私としては、1stCDの頃の元々のスタイルに帰って行くのは、一番無理の無い、自分らしい姿になって来たとも言えると思います。
洋楽器のプレイヤーは、基本的にアンサンブル能力が高いです。その上で日本音楽の事を知って、「間」の感覚や、無常観のような感性を感じてくれる人だと、邦楽器よりも、かえって洋楽器の演奏家の方が面白いコンビネーションが築けることが多いですね。勿論ただの上手なだけの人はあきまへん。日本人として日本音楽・芸術に対する関心や感性が無いと、日本音楽は創れません。邦楽器の演奏家でも、楽器だけお上手に操って、ろくに源氏物語も和歌も知らいないような人では、何も生まれて来ませんね。単なるコスプレで終わってしまいます。
田澤先生、そして最近ではフルートの神谷和泉さんなど、日本人の感性を持った洋楽器のプレイヤーと組む機会が増えてきましたが、とても世界が広がり嬉しい限りです。和風というカテゴライズされた小さな世界や、似非伝統のような上っ面のエンタテイメントに囚われることなく、どんどんと次世代の日本音楽を創るつもりで、新たな世界を切り開いて、それを世界に発信して行こうと思っています。

日本橋富沢町楽琵会にて photo 新藤義久

その為にも、これからの音楽活動については色々考えるところがあります。前回少し書いた環境の事も含めて、自分の音楽を全うするには、今後の舵取りがとても重要になって行くだろうと思っています。コロナの影響もあって、自分主催の演奏会を張って行くのは、今後かなり大変になって行くでしょう。人が多く集まるという事に関し、世の中の人の感じ方が今後変わって行くと思いますので、今迄のようなやり方ではもう通用しなくなるでし
ょうね。
私の音楽はエンタテイメントではありませんので、売る、売れるという事を軸には考えられません。私は自分の音楽の発表を主軸にして、その他レクチャーをやったり、演奏のお仕事などをやっていますが、技や知識の切り売りは一切しないので、自分の音楽活動と直結していないものはやりません。自分の可能性を広げる意味で、色んなものに常にチャレンジしているものの、自分がやるべきではないと思ったら、丁寧にお断りしています。とりあえず今は良い方向には向かっていると思います。とにかくこれからは世のシステムも変わって行くだろうし、音楽の在り方も変わって行くでしょう。どんな社会になって行くのか、私には予測がつきませんが、その与えられた中で、自分の納得のいく活動を、今にも増してやって行くしかないですね。

幸い琵琶樂人倶楽部は順調に続いています。ここでは収入を当てにしないという事もあり(大した赤字にもならず)、毎回がある意味実験の場でもあり、そんな所が長く続く理由でしょうね。よくまあ13年、150回続いたと思っていますが、何の気負いも無くやっているので、多分200回目を迎える時も同じようなことを書いていると思います。
6月10日(水) 第150回琵琶樂人倶楽部「洋楽器と琵琶による共演」
場所:名曲喫茶ヴィオロン(JR阿佐ヶ谷北口徒歩5分)
時間:19時30分開演
料金:1000円(コーヒー付)限定15名要予約
出演:塩高和之(薩摩琵琶) ゲスト田澤明子(Vi)
演目:「二つの月~Viと琵琶の為の」「君の瞳Eaynak」「風の宴」「花の行方」他
問合せ:Office Orientaleyes  orientaleyes40@yahoo.co.jp
今年は命の輝く季節が失われてしまいました。しかしルーテル大阪教会の大柴牧師が言われたように、是非この自粛していた時間を大切なものとして、これからに生かして行けるように、今後の活動についてもじっくりと考え、取り組んで行きたいと思っています。これからが私の実力が試される時であり、私の音楽が出来上がってゆく時期です。しっかりと努めたいですね。

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