5月はぐっと暖かくなり、毎年仕事も活発になって行く月なのですが、今年はこのさわやかに晴れた空に樂の音は響きそうにないですね。世界中がこんな状態というのは、人類史上例がないのではないでしょうか。皮肉なことに、コロナウイルスの蔓延で人が動きを止めたとたん、ガンジス川の水が透明になり、各大都市の大気汚染が改善されて、インドではヒマラヤがよく見えるようになり、ヴェネチアの水路の水質が向上しクラゲが現れたりと、人間が活動を止めると同時に、環境が本来の姿に戻っているようです。

日の出 アゼルヴァイジャン バクーにて
人間は無理をして来たんでしょうね。地球ももう限界で、人間自体もキャパを超えて働き過ぎなのだと思います。先進国が追及してきた右肩上がりの「成長」は、結局誰かを、何かを犠牲にしなくてはありえない「幻想」であって、この地球に於いては間違っていたということです。資本主義経済は物の豊富さや、目先の便利さを目の前に具現化しましたが、決して人間本来の豊かさはもたらさなかった。それは人類を滅亡に追いやる魔術だったという事を、このコロナウイルスが証明し、また教えてくれました。
実は大気汚染が原因で亡くなる人はコロナどころではなく、毎年もの凄い数に上って
いますし、交通事故で亡くなる人も数知れない。ジャンクフードのお陰でどれだけの人が体と心を病んで死んでいるか・・・。資本主義経済活動の陰で考えられないほどの犠牲を払って生きているのが現代人です。それでも「成長」というカルト教団のような「教え」に憑りつかれて、それを信じて、顧みようとはしない。
今現在、中国はいち早く経済活動を再開し、他国に先んじて、ここぞとばかりにまた元のような大量生産を始めているようですが、すぐに欧米諸国も負けじと追随するでしょう。こうした世界の動きを、皆さんはどう感じますか。

敦煌莫高窟の壁画に描かれた楽人達
音楽にも同じことが言えるように思います。クラシックをはじめとして、ジャズもロックも、アスリートの様に技術を極めることが美徳とされ、凄い事ととされてきましたが、それで音楽は「豊か」になったのでしょうか。コンクールを勝ち抜き、音楽がショウビジネスへと急加速で変化して行き、「売る」ことにがつがつと熾烈な競争を繰り返している現在、音楽は大事なもの、大切なものを置き忘れ、その土壌を自らどんどんと破壊しているのかもしれません。
芸術家音楽家は、次に来る新たな時代に、何を創り奏でて行くのでしょうか。そして我々人類は次世代の哲学を創り上げ、次のステップへと踏み出すことは出来るでしょうか。今全世界が問われていると思います。
私は少しづつ出来そうな演奏会を始めて行こうと思っています。ネット上でライブ配信をしている人も沢山居て、皆さんそれなりに模索しながら頑張っていると思いますが、私に出来るのはやはり生演奏だと思います。今の所来週の琵琶樂人倶楽部は難しそうですが、出来る限りやって行こうと思っています。

鎌倉 其中窯にて photo 川瀬美香
もしかしたら資本主義というのものが、人類に沸いた強力なウイルスではなかったのか?。今私はそんな風に感じています。資本主義を推し進める人をエリートとして階級社会を形作って行ったことこそが、そのウイルスの蔓延であり、人類の過ちではなかったのか?。コロナウイルスも資本主義というウイルスのもたらした新種かもしれません。この期に及んでまだ全時代の大量生産大量消費の方向に先を争って再開しようとしている破滅的な現実は、第二第三のコロナウイルスをまた生み出すような気がしてならないのです。
大変な時代に出くわしました。それでも創り奏でるのが我々音楽家の宿命というものだと思っています。
樂の音が響き渡る世になって欲しいものですね。