響き合うもの

夏の暑さのピークももう過ぎた感じですね。我が町の隣では夏の終わりを告げる阿波踊りが盛大に開催され、しっかりその熱気を味わってきました。
この夏は、色んな人に会ったり、数々のリハーサルをやったりして、先日は夏の恒例SPレコードコンサートもやってきました。夏はいつも演奏の機会が少ないのですが、有意義な時間を過ごさせていただいてます。

ヴィオロン2
ヴィオロンにある蓄音機「クレデンザ」とても基調なものです

先日のSPレコードコンサートでは、昨年に続き第一部は永田錦心の特集をやったのですが、毎度SPレコードを聴いていると、そのレコードが出回っていた時代に想いが飛んでゆきます。当時は音楽が社会の中に響いていたんでしょうね。今は音楽が街中どこにでも溢れているけれど、音楽が人生の中で喜びや糧となっていた時代とは程遠く、日々消費されているだけのように思えてなりません。残念です。

フラメンコギター:日野道夫、ウード:常味裕司、樂琵琶:私
音楽に限らず、物事は皆「響き合って」います。人と人は勿論の事、自然、社会、時代、物・・・一見関係ないようなものでも、あらゆるものが何かの関係性を持ち、響き合って存在しているのです。少なくとも同時期に存在するものは、どこかに何かしらの共鳴関係を持っていることでしょう。仏教ではこれを「縁」というのでしょうか。その響きが悪ければ世の中も悪くなるでしょうし、複雑になれば、その関係も複雑になります。現代音楽が複雑になって行ったのも、まさに時代を示していたということなんでしょうね。

川崎アートフェス ダンス:牧瀬茜 ASax:Soon KIm
琵琶:私 photo:薄井崇友

そもそも物事でも人間でも「留まる」ということはないのです。ヘラクレイトスの言うように「万物流転」なのです。勿論自分の肉体も止まるという事はありません。動いているからこそ響き合うし、その響きも変化して行きます。命は動き続けてこそ命。止まってしまえば、それは命とは言えません。
そんな風に思うと、現代人の生活様式は自ら有している豊かなその響きを、自ら止めようとしているように思えるのです。まるで自分で自分の命を削り取っているよう。ひたすら便利さを追い求めるあまり物に依存し、肉体も脳もろくに使おうとしません。これでは穏やかで豊かな響きが生まれる訳がありません。
そして今や個人の肉体レベルではなく、社会全体がマヒしているようにも思えます。今の世の中の現状を見るにつけ、豊かな響きは感じられませんね。

こんな時代にこそ、今一度響き合うことを確認するのは大切なことだと思います。自然と人間の関係もこのままでは、お互いを破滅に導いてしまいかねません。まずは自分一人の所から響きを求めてみませんか。勿論素晴らしい音楽と共に。現代では目の前を楽しませてくれるエンタテイメントは溢れています。楽しむことも大事ですが、与えられた楽しさだけでなく、自らが求めて、何かを感じ、深く深く探ってみると、そこにはきっと豊かなものがあると思いますよ。そして今まで聴こえて来なかった音楽も響いてくるはずです。世の中にはそんな素敵な音楽が沢山あるのです。ただ気が付かないだけ。

安田登先生と「みずとひ」にて

命が躍動するような響きを持つ音楽は、激しいリズムや力強い大きな音よりも、小さなささやきやPPPの弱音なんかの方が多いかもしれません。癒し系のヒーリング音楽という事ではありません。一見地味だったり、渋かったりして、今までは気にも留めなかったものが、求める心の導きによって、きっと響いて来るでしょう。昔から「琴線に触れる」という言葉がありますが、心に満ちるその感覚こそ命の躍動であり、響きだと思います。
日本橋富沢町楽琵会にて Photo 新藤義久

今、響き合うものを感じていますか。自分に共鳴してくるようなもの。例えば故郷の山や海、家族、相棒、そして自分の心に届く音楽・・・。色々あると思います。また気持ち良いだけの響きではなく、時に厳しい響きも感じるでしょう。しかしそんな響きを感じることもまた縁であり、あなたにもたらされたのです。そこにも何か学ぶべきものがあるのでしょう。社会の中に生きるという事は、心地よい響きだけでなく、不協和な響きも感じることでもあるのです。私はこの現代に豊かな響きを創りたいのです。気持ち良いとか、癒されるといったものではなく、心が惹きつけられ、また掻き立てられて、新たな世界に目が開けてゆくような、響きのあるそんな音楽を創りたいのです。しなやかで、且つ力強く、繊細で、且つ現状に胡坐をかかない大胆さを持ったプレロマスな音楽を、琵琶と共に創り出して行きたいですね。

そろそろ夏休みも終わり。エンジンが徐々にかかってきました。

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