
今回は収録した曲の解説を載せてゆきます。
「まろばし~尺八と琵琶の為の」
この曲は私の1stCD「Orientaleyes」の第一曲目でもあります。同時に私がプロの演奏家として、やってゆくに当たって、そのスタイルを宣言した曲であり、私の一番の代表曲です。
「まろばし」とは剣の極意のこと。まさしく剣術の立会いのような場面を想定し、理論や技術を越えた、音と音との究極の一瞬を生み出すような作りになっております。
1stではスウェーデン人のグンナル・リンデルさんに吹いてもらいました。その後、若手からベテラン迄かなりの数の尺八奏者、能管の演奏家たちと共演を重ねてきました。ウズベキスタンのイルホム劇場では、アルチョム・キムさん編曲により、ミニオーケストラをバックにネイの奏者と私がフロントになって、平成のノヴェンバー・ステップスのような形でも演奏したことがあります。今回は若手の吉岡龍之介のフレッシュな感性で対峙してもらいました。
「西風~琵琶独奏の為の」
読み方は「ならい」と読みます。東日本の海沿いの地で冬に吹く風の名前です。向きはその地方で色々なのですが、琵琶が西からやってきたことを踏まえて「西風」と表記しました。
シルクロードを渡って日本へと辿り着いた琵琶は、日本の文化の土壌で、薩摩琵琶という新たな琵琶を生み出しましたが、その中にはシルクロードを渡る風が失われること無く残っていて、日本の他の楽器とはまた違った独自の楽器として日本音楽の中に存在しています。ただの弾き語りの伴奏楽器ではない、楽器本来の音色を日本の土壌で花開かせたい、そんな想いからこのメロディーと力強いリズムが生まれでました。
「二つの月~Viと琵琶の為の」
この曲も1stCDに収録した曲です。曲は9.11のNYでのテロに衝撃を受けて作曲したもので、二つの相反するものが出会い、探り合い、反発を繰り返し、最後にはお互いの違いを認め合って共生の道を辿る、というストーリーになっています。
1stではチェロの翠川敬基さんとのデュオでしたが、あれから16年以上経って自分の中でも色々な想いがが出てきましたし、世界情勢も刻一刻と変わってきていることもあって、大幅に手を入れて、今回はViとのデュオにしました。Viと琵琶で音色が合うか、バランスが取れるか心配しましたが、名手 田澤明子さんの素晴らしい演奏で、見事に新たな命が吹き込まれました。これは「まろばし」と共に私の代表曲になって行くと思います。
「彷徨ふ月」
この曲は「二つの月」で使われるモチーフを別の形で発展させた曲です。「二つの月」のようなストーリー性は無く、もっと抽象的な作品になっています。
9.11以降、世界は戦争へと進み、その後の難民問題など出口の見えない状況が各地で続いています。我々はどんなヴィジョンを持てば明日を生きることが出来るのか???。政治や経済のことはよく判らない私ですが、こんなことをつらつらと思っていた時に降りてきた音を、そのまま琵琶に移してみました。
「祇園精舎」
解説は必要無いと思いますが、今回は従来の都節とは違うチューニングと節でやっています。実はもう何年も前からこのスタイルでやっていたのですが、13年前に出した「沙羅双樹」シリーズの一番最初にも祇園精舎を入れていましたので、なかなか新しいヴァージョンを録音しないままになっていました。私は大体が都節特有のしゃくりあげる歌い方が好きではないし、なるべくコブシを入れないように歌おうと思っていますが、別に邦楽とは別物にしたいという訳ではありません。あくまで近世邦楽独特の大衆音楽的「けれん」や、意味の無い因習などの垢の無い、魅力を持った邦楽にしたいというだけです。あのチューニングにはオリエンタルな香りがするという方もいらっしゃいます。
「壇の浦」
「壇ノ浦」はとてもドラマチックで、色々と語るべきテーマもあり好きな演目ですので、普段からよくやっているのですが、いわゆる琵琶の弾き語りからはもうそろそろ卒業しようと本気で思っています。この「壇ノ浦」がいわゆる琵琶弾き語りの最後の収録になるかも・・・・という気がしています。今後創る作品はもっと違う形で声と琵琶を合わせてみようと思っています。今回はオペラのようにドラマを歌い上げるというつもりでやってみました。また歌詞については、旧来の薩摩筑前の琵琶では結構変えてあるものが多いのですが、今回は原文をなるべくそのまま入れるようにしました。15年前に2ndCDで入れた時とは随分と変わっています。弾法は一聴するとT流っぽい雰囲気を持っていますが、私らしい形にオリジナルに変えてみました。

「沙羅双樹Ⅲ」録音時レコーディングスタジオにて
私は表面を真似することは伝承でも何でもないと常々思っております。先生と同じようにコブシを回せても、流派や協会などの小さな世界では褒められるかもしれませんが、そんなお上手さを追いかけていても音楽にならないと思っています。現在はCDを出したとたんに世界がマーケットという時代です。日本文化の感性や本質を日本のみならず世界の次世代に届けるためにも、表面上のお上手さや余計な衣はどんどんと剥ぎ取って、その魅力を海外に向けて響かせたいのです。

いろんなやり方があってよいと思いますが、既成の洋楽ジャンルを邦楽器でやることよりも、出来ることなら日本から新しいジャンルを世界に向けて発信して行きたいですね。
発売記念演奏会は、2月15日(木)の日本橋富沢町樂琵会にてやります。ゲストは勿論尺八の吉岡龍之介君とヴァイオリンの田澤明子さんを迎えます。こちらも是非宜しくお願いいたします。
これからがまた面白くなってきました。是非CDをお聴き下さい。ネット配信は2月14日より各社で取り扱いが始まります。宜しくお願いいたします。