先日、沼津の牛山精肉店サロンでの演奏会をやってきました。

最初お話が来た時には、「お肉屋さんでライブ?」という感じで、全く事情もつかめなかったのですが、行ってみたら本当にお肉屋さんで、普段からお店で映画の上映会やライブ、講演会など色々と企画をしている所でした。大将は仕事に、肉に、確固たる拘りとプライドを持ったなかなかの御仁。おかみさん共々、暖かい素敵なお人柄で、美味しいお肉とともに、良い話もたっぷり聞かせて頂き、実に気持ちの良い演奏会となりました。また機会があったらやってみたいですね。
実は先日のイギリス館公演の後、どうにも体が疲れていて、特に右側に違和感があり、人生始まって以来の肩こりというものを経験しました。沼津に行く前に一日寝込んで、やっと何とか普通にいられるようになって、その状態で行ったのですが、肩の凝りはまだ収まらず、まあ何とかなるだろうと思っていました。現地について、楽屋で休んでいた所、そこへたまたま客様で来た、お坊さんが荷物を置きに来たのです。その時に私の姿を見て、すぐにただならぬ様子を見て取ってくれて、施術をしてくれました。肩は勿論、首も腰も随分とやられていたようで、もうボキボキと荒療治をしてくれたお陰で、演奏の方も上手く行きました。
帰りに寄った柿田川湧水 柿田川湧水公園内にある貴船神社前の碑「水五訓」演奏後そのお坊さんが、
「この琵琶も随分とこっているね」といってくれて、翌朝、琵琶の面倒も診てくれました。
「物には何でも命がある。まして琵琶は貴方の音楽を奏でる大事なパートナー。もっと感謝と愛情を持って声をかけてあげるといいよ」と言ってくれました。
私の演奏を見たことがある人は判ると思いますが、私は琵琶人では一番楽器を酷使する、超の付くヘビーユーザーです。世界中どこにでも持って歩くし、結構過酷な場所でもどんどん演奏をする。ひっぱたき、擦り、極限まで鳴らしきるのが私のスタイルなのです。琵琶製作の石田克佳さんは、私のそういうスタイルを判った上で、頑丈な私専用の特別モデルを作ってくれたのです。私は音に関しては誰よりも念入りに調整をするし、けっして妥協はしないのですが、楽器を労わるという発想は確かにあまりありませんでした。
私の琵琶は、普通の琵琶よりふた周りくらい大きく、重く、それはそれは鳴りも素晴らしく、いつも私の要求に答えてくれているのですが、あらためて姿を見れば、月型も割れて、滑り止めのゴムも破けていて、随分と苦労を重ねている風情になっていました。

お坊さんが布で琵琶をでさすりながら「この琵琶はしっかり者の大人の女性だね」と話してくれましたが、私は自分の考える究極のサウンドをひたすら追及するあまり、この琵琶が出来上がってから16年間、散々無理をさせていたのかもしれません。愛が足りませんでしたね。
東京に帰ってきて、身体も軽く、調子も上がってきたので、私の部屋にある10面の琵琶に、これから声をかけてやろうと思います。

琵琶部屋内部
自分ひとりでやっていると、なかなか足元は見えないものです。今回の演奏会も、きっと導かれたのでしょう。このところ本当に演奏会続きで、かなり身体に心に無理が来ていたように思いますが、とにかく自分の身体を過信しない事。そして琵琶という相棒のことも今一度見つめ直す。こんなことを教わる為に、きっと牛山精肉店さんまで導かれたように思います。
大将の話もお坊さんの話も、じわっと身に沁みました。自分の身体も琵琶も、自分に関わるものに対し、もっと愛情を持って接しなければ、良いものは出来ませんね。
私もいい年になりました。今後は少し余裕を持って、足元から「愛を語り、届ける」ことが出来るよう、今後の活動を豊かにしていこうと思います。