舵をとる

この所良い天気が続き、春の陽差しを感じることが多くなりました。既に桜の気配という感じですが、梅花派の私としてはもう少し梅花を求めて出歩きたいですな。
現代の日本は、自己主張の塊のような言葉や情報が溢れかえり、どこに居ても突き刺さるように追いかけられますが、こんな世の中にあって、まだ肌寒い陽の中で、つつましく微笑を向けるように咲く梅花は、現代人に残された唯一のオアシスかもしれません。私のように都会に居ながらも、都会とは一定の距離をもって生きている人間は、梅花に惹かれずにはいられませんね。

2012年吉野梅郷

今、自分は変わり目に来ているという感じがとてもするのです。やはり肉体と心は連動しているのでしょう。年齢を重ね肉体が衰えてくると、力を入れてもどうにもならないので、結果的に力を抜いて、持続可能な方向にならざるを得ません。思い通りに体が動かなくなって、始めて技が冴えるとよく言われますが、やっとその言葉の意味を体感できる年になりました。
とにかく何事に於いても無理をするより、自分らしい形になってゆくし、思考自体も余計なものがそぎ落とされて、本来の自分に近い方向に向いて行きます。特に私の場合は流派やら団体やらのお付き合い的なしがらみが無いので、何の遠慮もなく自由自在に自分のやりたい方向に自然と舵を取って行くようです。

ジャケットトップ「The Ancient Road」を出した2014年末から2015年の頃と比べると、昨年から今年にかけてのこの一年間は、明らかに自分に大きな変化がきていたように思います。昨年は調子よくやっていただけで、あまり自分では変化を感じはしませんでしたが、今になってみると、この変化は既に昨年から始まっていたとはっきりと実感します。

考えてみれば、昨年は即興演奏がかなり多かったし、ダンサーとの共演もいつになく多かったのです。これは私が琵琶で活動を開始した20年前の状況とよく似ています。元に戻ってきていると言えるかもしれません。私は紆余曲折を経ながらも、自分がやりたいところに戻って来ていたようです。20年前と違うのは、樂琵琶を弾く事ですね。私にとって薩摩琵琶は凛とした心の風景を表す楽器。一音成仏の世界とでも言いましょうか。愛を土台としながらも内に秘めた厳しさと激しさを持った楽器であり音楽です。いわゆるコブシを回して七五調で声張り上げてご満悦しているようなものは、私にとっては薩摩琵琶ではないのです。
一方樂琵琶の方は、メロディーそのもの。そこには歌が溢れ、日々の営みの中の様々な心の風景が、絃によって奏でられ、旋律が溢れ流れ出てくる楽器です。癒しの楽器といってもよいですね。樂琵琶が自分の楽器となったことで私の音楽は大きく広がり、自分の隠れていた感性が顕在し、世界がより明確になってきました。

2015年岡田美術館、尾形光琳「菊図屏風」前にて

とにかく器楽としての琵琶楽の確立。これこそが私に与えられた使命です。独奏曲、デュオ等、どんな形に於いても琵琶の音色が十二分に感じられる作品を作ることが急務なのです。この春は独奏曲2曲を完成させます。そして笛または尺八とのデュオ曲を2曲。更に今年いっぱいの期限付きで、薩摩・筑前の琵琶二面によるデュオ曲を構想しています。こちらは歌も入れて、掛け合い的なものにしてゆく予定で、12月の日本橋富沢町樂琵会でお披露目が決まっています。

2016年兵庫県立芸術文化センターホール
これらの創作活動も、今後の演奏活動も、自分の音楽というものがあって、その上に立ってこその活動です。ただ動き回って喜んでいるのでは何にもならない。明確な哲学と思考、そしてヴィジョンがあってこその音楽です。お上手を目指したり、肩書きを追い求めたり、目の前の面白さに振り回されたら、それはただの賑やかし。いや賑やかしにすらならない。

今私は、琵琶樂人倶楽部そして日本橋富沢町樂琵会という二つの定例会を主催していますが、この二つが良い感じで軸足になっています。色々なゲストも呼びますし、日々琵琶楽のあらゆる面を実践する場になっているので、視野も広がり、いろんな視点で自分を見つめる事が出来ます。ちょっとした「離見の見」ですね。こういう場が毎月あることで、自分の音楽を常に振り返り、自分がやってゆくべき道がよく見えてきます。

これからもっと自分が」行くべきところに舵を取って行くでしょう。自分自身にどこまで成りきれるのか。そこが今後のキーワードだと思っています。

さて、福島の「3.11祈りの日」のことは何度もお知らせしてきましたが、その前の土曜日3月4日に、和久内明先生が毎年主宰している追悼集会を、いつものルーテルむさしの教会でやります。

       11

今年も折田真樹先生率いるオーソドックス合唱団が歌ってくれます。是非お越し下さい。3月4日(土)午後6時からです。是非お越し下さい。

春陽と梅花が、私に変化を促してくれました。それは本来の私自身の姿を取り戻し、新たな時代へと踏み出す一歩となるでしょう。梅花の微笑を忘れない音楽を創りたいですね。

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