春に想う2017 Ⅱ

この正月は本当にのんびりしました。本を読み、音楽を聴き、なかなか普段出来ない事が出来て良かったです。
正月休みの最後、7日には六本木のストライプハウスギャラリーで舞踏駅伝という企画があって、昨年から色々とやり取りをしている坂本美蘭さんが出るというので、彼女の舞台を観てきました。

舞踏駅伝

彼女の舞台は以前にもちょっとだけ観ていたのですが、舞踏とか身体表現という小さな枠に留まらず、何ともいえず独自な世界があって、それがなかなか魅力的なのです。舞台全体に彼女独特のラインというか、ある種の型のようなもの、いわば美蘭スタイルというものを感じます。またバックの音楽(音響)も、彼女自身が放つ詩(言葉)も全て自分で創っているので、そんなところが私の共感するところです。彼女はジェンダーということが大きなテーマになっていて、今回も「オレンジのジェンダーアイデンティティ」というタイトルの作品で、勿論音響及び作詞も自作で創られていました。いつか共同で何か作品を創ってみたいですね。

                

坂本美蘭 photo by  坂田洋一

ダンスでも音楽でも勉強する事はよいのですが、ともすると習ったがゆえに多少の知識や経験に振り回され、「こうでなければ」という硬直状態に陥ってしまう例が多いですね。色んな舞台を観に行きますが、妙に「上手」が見えてくるようなものに出くわすとがっかりします。アーティストは既成の常識や概念から精神を開放して、上手なんて価値観からはとっくに開放されて、何かを創り出してこそアーティストであり、観ているこちらの感性の枠を破るくらいでなくては。
お稽古したお上手な技をひけらかしたいのであれば、無料のおさらい会でやれば良いのであって、そういう趣味のお稽古事と、アーティストの舞台を一緒にしてはいけないですね。邦楽も今後どれだけ舞台を創る人が出てくるかな~~?尺八でロックバンドの曲をカバーしたり、ポップスやっているのが注目の若手じゃあね・・・・。何とも情けない。

かわさきでアート2016 ダンサー牧瀬茜さん、映像ヒグマ春夫さんと photo by 薄井崇友
現代という時代に向かってどんな内容のものを、どんな気持ちで歌い、演奏するのか、どんな世界を創ってゆくのか、そこが我々舞台人に問われているところだと思います。小さなこだわりや、目先の格好良さに思考が留まって、お仲間にちやほやされて喜んでいるようでは何も創りだせません。それは社会と深く関わる事をしないで、自分が気持ち良くいられるお花畑に安住しているという事です。ぜひともそういうものから抜け出して、現代という時代の中からほとばしる音楽、舞台をやって欲しいですね。

従来の価値観に於いて「お上手」だろうがなんだろうが、そんな事は芸術作品に於いてはどうでもよいこと。言い換えるとそこを気にしているというのはお稽古事のレベルに意識があるということです。例えば琵琶語りだからといって大声張り上げてこぶし回したり、流派の節を上っ面だけ守るなんてことは、芸術という視点でいえば全く意味は無いのです。むしろそういう風に囚われているような心では、新たな時代の新たな音楽は創りだせません。こういう芸術的創造は、琵琶では既に100年前に永田錦心が正にやってみせたことなんですがね・・・・。

どんな分野でもそうですが、偉大な先人の創り上げたものの表面の形だけさらって、「伝統を守る」というような美辞麗句で飾り立て、一番大事な創造的芸術的感性を忘れ、優等生よろしく感性が凝り固まってしまったら、もうそこには音楽や芸術は現れることは無いですね。これは社会全般に於いてもに於いても同じことが言えるではないでしょうか。時代の最先端を切り開いて新たなスタイルを築き上げた先人は、さぞや嘆いている事と思います。

私の周りには高円寺辺りでライブをやっているバンド系の知り合いが沢山居ますが、皆独自のサウンドや世界を創ろうと必死にやっています。中には歌はものすごい音痴だけど、そこもまた魅力の一つになって独自の世界を創り上げ、結構な支持を得ている友人も居ます。何よりも彼の作り出す世界が素晴らしいから人が集ってくるのです。技術ではないのです。

戯曲公演「良寛」より 手前津村禮次郎氏

私は先ず第一に自分の創ったものを聴いてもらいたいのであって、先生に習った事を舞台で弾きたいなどと思ったことは、ギターを手にした小学生の頃から一度も思ったことがないですね。そんなことを舞台でやるようになったらもう終りだ、とさえ思います。自分のやる曲を自分で創るのは当たり前であり、カバーをやるなら「俺がやったらこうなるぜ」というくらいの気持ちで、自分の感性でアレンジでもしてやるのがアーティストなんではないのでしょうか・・・?。宮城道夫も、永田錦心も、鶴田錦史も、水藤錦穣も皆そうではないですか。
文学でも美術でも皆芸術作品はその人独自の創作であるからこそ尊いのではないですか?。古典ものを自分の舞台で取り上げることに関しても、明確な意思と哲学を持って、古典に新たな光を当ててこそ意味があると私は思っています。

美蘭さんの舞台を観ながら、自分の世界を明確に表現してゆく事の大事さをあらためて想いが広がりました。

さて、今日は新春の琵琶樂人倶楽部恒例、薩摩琵琶三流派対決です。今年も琵琶制作者であり演奏家としても活動する石田克佳さんをゲストに迎えて開催します。

1月11日(水)
場所:名曲喫茶ヴィオロン(JR阿佐ヶ谷駅徒歩5分)
時間:19時30分開演
料金:1000円(コーヒー付)
出演:塩高和之(薩摩五絃)古澤月心(薩摩四絃)
   ゲスト 石田克佳(薩摩正派)
曲 :観音華 屋島の誉 吉野落二段


尚、今年一年間のスケジュールは以下の通りです

1月11日:薩摩琵琶三流派対決 ゲスト 石田克佳
2月8日 : 平家琵琶特集 ゲスト 津田文恵
3月8日:独自の展開をする琵琶人達
    ゲスト 岡崎史絃  尼理愛子
4月12日:樂琵琶と平安文化
5月10日:薩摩琵琶と筑前琵琶聴き比べ ゲスト平野多美恵
6月14日:琵琶と文学シリーズ〔14〕
7月12日:語り物の系譜〔10〕
8月20日:SPレコードコンサート
9月13日:薩摩琵琶の歴史的変遷
10月11日:次代を担う奏者たちⅤ ゲスト未定
11月8日:樂琵琶特集~シルクロードから日本へ
12月13日:年末恒例掛け合い琵琶

本年もよろしくお願い申し上げます。

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.