熱風~Sirocco

先日やっとパコ・デ・ルシアのドキュメンタリー映画「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」を観に行ってきました。下高井戸シネマでやっていて良かった!。会場では旧友にも遭遇し、一段と盛り上がりました。

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映画を観ていて、私の音楽家としての一つの原点を想い出しました。色んな体験から音楽家になることを志したのですが、中でも高校生のとき初めて聞いた「Mediterranean Sundance」こそがギタリストへの道を示してくれた作品だと確認しました。この曲は世界に衝撃を与えたと常にいわれ続けていますが、確かにあれほどのインパクトは、ジミヘン、ヴァンヘイレンの登場の他に見当たらないですね。
またこの映画を観て、私がパコの何に惹かれたのかも良く判りました。パコ・デ・ルシアはまさに永田錦心やピアソラと同じ質を持っている。永田錦心と同様、お決まりのように時代を突き進む者は伝統組からは散々批判されましたが、最後はもう認めざるを得ないというところまでやってのける。この質が私を強烈に突き動かすのです。感動するとはこういうことですね。
75年にフランコ将軍が亡くなり、スペインが一気に自由主義に傾いた正にその時期にパコ・デ・ルシアは世界に打って出ました。既にフラメンコの世界では知らない人が居ないほどの天才振りを示していましたが、そんなところに留まらないのが素晴らしいですね。ほとんどの人が目の前の成功に安住してしまう中、更にその先に視線が向く人だけが、次世代スタンダードを作り出すのです!!。当時のスペインの社会的な雰囲気や盛り上がりも後押しした事と思います。そしてこれは、急激に西洋文化が流入した明治期に永田錦心が現れたのと同じ。まさに時代が求めた天才という事ではなかったのでしょうか。

         

これは初めてパコ・デ・ルシアが世界にその音を響かせた「Mediterranean Sundance」です。ジャズ系のギタリスト アル・ディ・メオラが77年にリリースしたレコードの中の一曲です。まだ聴いたことの無い人はぜひ聞いてみてください。大きな音で!!

フラメンコの世界では実力も認められ、若き天才として知られていたパコが、地元TV局のインタビューで「何故フラメンコでこれだけ有名な方が、世の中で知られていないのでしょう?」というと問いに「フラメンコを聞く人は少ないからね」とパコは答えていましたが、私はこの認識にぴんと来ました。このインタビューの後パコは世界に飛び出して行ったのです。それもフラメンコではなくオリジナルな音楽をやりました。決して伝統に胡坐をかくことなく、他ジャンルの世界の一流と組んで演奏し、世界中の人を魅了し、それが次世代の最先端のフラメンコとなっていったのです。

永田錦心邦楽もいくらその小さな村の中で、村人に向けてやっても世の中の人は誰も聞いてはくれないのです。モダンスタイルを創った永田錦心は若き日、命の危険まで感じるほどに批判されましたが、その音楽は今やスタンダードになっています。しかし残念な事に永田が目指した世界を突き進む者は現在誰一人としていません。永田自身が組織した錦心流が琵琶界一の保守に成ってしまい、永田の作った「形」を守ろうとし、時代に対し挑戦する者が錦心流の中に居ないというのは納得いかないですね。何故あの志を受け継がなかったのか・・・・?。
永田錦心は「琵琶の世界化」という言葉を使って、その視野は既に世界に向いていました。「学ぶべきは西洋音楽であり、洋楽の知識を持ったものが新たな琵琶楽を創造するのを熱望する」と言いました。洋楽云々は当時の感覚ですが、現代の言葉と感性に置き換えて、永田錦心のこの発言をもう一度肝に銘じたいですね。

パコデルシア 4

永田錦心は琵琶を改良し五柱の琵琶を開発しました。パコもギターをコンサートホールで弾けるように改良しました。それは自分がこの先行くべきも所が判っているからです。そのために、それに対応する楽器が必要だったのです。そして2人ともとにかく音楽に関してはストイックだった。パコは内省的であり、永田錦心はなかなか言動も激しかった。その性格は違えども、目指す世界は一緒だったのではないでしょうか。フラメンコをアンダルシアの民族音楽から世界の人々が認める芸術音楽にまで持って行き、世界中を魅了したのは誰もが認めるところでしょう。永田錦心も琵琶を芸術音楽にし、世界化したいと熱望していた。

自分の人生の中にこういう天才達の軌跡を感じることが出来たというのは本当に幸せです。私は2人には及ばずとも、こうした目標となる先人が居るだけで、勇気が沸いて来ます。
私はまだまだ考える事もやる事もたくさんありますが、何よりも自分のヴィジョンを見据えて進んで行きたい。

血沸き肉踊るひと時でした。

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