舞台こそ人生2016夏

蒸し暑い日が続いていますね。台風もまた上陸するような勢いですね。国際情勢からオリンピック、日々の日常まで、世の中というのは留まる事を知りませんね。
そんな中で先日は毎年夏の恒例SPレコードコンサート、そしてキッドアイラックアートホールにて「ヒグマ春夫のパラダイムシフトVol.80」をやってきました。

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ヴィオロンにて photo mayu

毎年琵琶の名人達の演奏を私の解説で聞いていただいているのですが、今回は一昨年やった「女流の時代」が好評でしたので、もう一度プログラムを練り直してやってみました。山田旭嶺、田中旭嶺、水藤錦穣各師の演奏をかけたのですが、昔の人は本当に弾法といい歌といい上手いですね。弾法だけ聞いても、現在これだけの技術で弾き切れる人は誰一人として居ません。筑前はピアノと合わせているSPも多いですが、音程もリズムも全く狂っていません。脱帽です。今は皆さん歌ばかりに気を取られている方がほとんどですが、琵琶奏者と言う以上、弾きもしっかりしなければ聴いてはもらえません!!。
SPレコードで聴く琵琶の演奏は皆凄い気迫を持っています。やり直しの聴かない一発録音という事もありますが、レコードに吹き込むことの出来る機会を得るという事は、その当時のトップクラスであたっという事です。その位ノイズの向こう側から、人生の全てをかけているんだろうな、と思わせるような勢いが伝わってきます。とにかくそのレベルは現代の演奏家の比ではありません。是非一度じっくりと聴いてみて下さい。

photo 薄井崇友
そして「パラダイムシフト」ではヒグマさんの映像、Soon・kimさんのサックス、牧瀬茜さんのダンスと私というチームでのパフォーマンスだったのですが、会場の密度がかなり高く、面白い空間となりました。ヒグマさんが福島で撮影した海の映像が全編に流れていたので、私は先ずスリで波の情景に同化しようと思い、そこからパフォーマンスを始めました。サックスは音色的には尺八のようにすんなりと調和しないので、そこを逆に利用して、お互いのの距離感を遠くしたり近くしたりしながらアンサンブルしてみましたが、さすがにキムさんは心得ていて気持ち良かったです。レベルの高いミュージシャンはやはり違います。邦楽人ではこんな音楽性を持っている人はいないな~~~。

また牧瀬さんとは初共演で、そのダンスは今迄私が共演したことの無いタイプのものだったのですが、違和感なく溶け込むことが出来ました。以前彼女の舞台を観て、いける!と感じましたが、同時にその姿勢にも感じるものがあり、今回の共演は何も心配していませんでした。勿論期待を裏切らないパフォーマンスでしたね。
前半最後に一度ダンスが舞台から消えて行く所は、大きなポイントだと感じたので、3人の距離をぐっと縮めてぐっと盛り上げてみたのですが、思いがけず濃いドラマが生まれ、素敵な瞬間を創り出せたと思います。

1s左端がヒグマさん、中央の女性が牧瀬さん
SPレコードで聴く往年の演奏家もそうですが、今回共演した方々も皆、音楽やダンス映像それぞれがその人の人生になっている。経済はなかなか厳しいのかもしれないけれど、演奏する事、踊る事、作品を創る事と生きることが一致している。だから共感し合えるのです。
人生となっているというのは、簡単に言えば、自分のやることが社会と関わりを持っているかどうかという点に尽きます。私はいくら上手でも偉くても、音楽が人生となっていないと感じる人と
は一緒に演奏しません。人間は社会の中に在ってこそ生きることが出来るという歴然とした事実を思えば、その人間が創り出した音楽もまた同じでなくてはおかしい。音楽家はその紡ぎ出す音楽がいかに社会と関わっているか、そこがとても重要。社会と関わらず演奏しているのは趣味としては楽しいし、仲間も増えると思いますが、私はそうはいかないのです。

私は20年程琵琶で活動させてもらっています。この20年で何を学んだかと言えば、芸術家としての心の持ち方なのです。技術や経験も勿論なのですが、どういう心で居るか。どこを見ているのか、それが全てだと言いきってもおかしくない位に、心が全てを左右すると思います。音楽や芸術が人生になっている人は、好奇心も旺盛だし、自分の専門以外のものとどんどん関わり、自分の知らないものも柔軟に受け入れて行く。だからどんなジャンルの人でも話が出来るし、自分の世界もどんどんと広がり豊かになって行きます。

趣味で音楽を楽しむのもとても素晴らしいことです。ただ舞台人として生きて行くにはそれなりの心構えが必要ですね。自分の興味の無い所に価値を見出し、感性を柔軟にし、自ら色々なジャンルの人とコミュニケーションを取るようにしないと、小さな世界に留まってしまいます。生業とするならばその心では舞台には立てません。社会の中に在る多くのものや人を出会い、関わり、大いに刺激をされ、そういう世の中の浪騒の中に居るからこそ、色々な視点を感じ自分の感性も豊かになる。またどんどんと深化して行くのです。

方丈記公演にて

今琵琶人で、琵琶を弾くことがそのまま人生になっている人がどれだけ居るでしょうか。趣味でやる人もあれば第一線のプロを目指す人も居るでしょう。
居心地の良い所にだけ居て、お好みのものしか手にしないのは、楽しいだろうし、ストレスも無いかもしれませんが、SPレコードで聞く往年の演奏家のように、これで生きて行くんだという気迫を感じる人は、今少ないですね。偉い人は星の数ほどいますが、残念ながら人は学歴や受賞歴で音楽を聴かないのです。あくまで音楽に魅力ななければ聴いてくれない。人を惹きつける魅力があってこそ舞台に立てるのです。

でもまだまだ捨てたもんじゃないですよ。年齢ジャンル関係無く、音楽や芸術家には想いに溢れて、表現活動を自分の人生として生きている人が沢山いるのです。趣味人でも、柔軟に視線を向けてくれる人もそれなりに居るものです。そういう人とどんどん繋がって行きたいですね。
久しぶりに熱い夜を過ごしました。

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