もう気分は夏ですね。ここ数日は昼間で歩くのに躊躇する程の陽射し。先日の関西も30度を超えていて、歩いて廻るにはかなり厳しい陽気でした。明日からまた金沢に行くのですが、少しでも陽射しが和らぐことを願っています。
そんな慌ただしく暑苦しい日々が続く中、友人から虹の写真が送られてきて、何だか気分がゆるみ安らぎました。虹というものは何ともさわやかで、からりとしていい気分にさせてくれますね。

虹には大きなロマンがあって、希望が湧いてくるような幸せな感じがする一方、彼方という思考も湧いてきます。人生生きていれば、色々な事情で離れたり別れなければならなくなった人もいますし、現世を旅立って行った知人も多くいます。ちょうどこの7月頭は尺八の香川一朝さんが旅立ったこともあって、私にはそれら幾多の別れに、虹のイメージが重なるのです。此岸から彼岸までを繋いでいる虹の、この両端の果てしなく遠い、辿り着けない程の距離は、現世に生きる我々には乗り越えられない、いや乗り越えてはならない距離のように思えてしまうのです。
拙作「虹の唄」もそんな彼岸へと行ってしまった人達への想いが曲となって、す~~と心の中に降りてきた時に出来上がりました。そして何年も弾いている内にまた多くの想いが曲に乗り、自分の中でどんどんと意味を持つ曲となって行きました。あまたの別れの中にある未練や、悲しさ、感謝、希望・・・・等々あらゆる心の風景が、この曲に乗って私の中を巡って行くのです。
私は作曲する時にはいつも譜面を書きながら作るのですが、この曲だけはふわっと降りて来るように勝手に指が弾き出して、修正することも無くそのまま最後まで湧き出て来たのです。こんな曲は今迄無いですね。大概は構想を元にモチーフを作ったり、色んなパーツをくっつけたり外したりして、推敲に推敲を重ねて作るのですが、この曲だけは全くそういう作業がありませんでした。未だに不思議な感じです。
ルーテルむさしの教会にて
人間色々な時がありますが、自分がやりたい事をまともにやっている時は一番幸せを感じますし、周りにも幸せをもたらすのではないでしょうか。周りを見ても、心底自分に向き合い、やりたいものをやっている人は魅力的です。
私は琵琶で活動を始めた最初から先鋭的だと評され、自分自身でも先鋭的且つ最先端でありたいと願い、従来のルールが何であろうと、誰が何と言おうと自分のやりたい事をやりたいように実現して来たつもりですが、この所御縁がある灰野敬二さんのような超前衛を突っ走ってきた先輩と一緒に居ると、自分の詰めの甘さがよく見えて来ます。知らない内に色々なものに振り回され、本来の自分の生き方が歪んでしまっている部分があるのでしょう。だからこそ事あるごとに、更に更に自分自身であろうとする気持ちが旺盛に湧き上がります。言い換えれば、まだまだ自分本来の生き方には至ってないということなのかもしれません。
そんなことをつらつら考えていると、虹の彼方へ旅立つというのは、ある意味で自分の本来の人生へと向かう、一番解放された瞬間なのかもしれない、なんてことも思うことが多くなりました。

人は、何事も手が届かないからこそ求めるのです。これを業というのかもしれないし、宿命ともいえますね。私はいつも常に「もっともっと作曲しなければ」「もっと自分のスタイルを明確にしたい」と同じことばかり何十年も言い続けて今に至ります。聴いている周りの人はさぞかし迷惑だろうとも思うのですが、本当にもっともっとという想いが消えることはないのです。まあここが無くなったら音楽家としてお終いかもしれませんが・・・・。
上手かどうかなんてのは、私にとっては面白くないのです。そんな感覚はアマチュアと同じ視点でいるということです。舞台に立つ人間は圧倒的であり、それを舞台の上で具現化ですることが出来なくては舞台人とは言えないのです。出来上がっているスタイルの中で「お上手」にやっても、それはお稽古事という所から何も抜けていない。そういう感覚を捨てられない人は、せいぜい肩書き並べて、先生と言われご満悦なのでしょう。
今迄に無いものを創り出し、それを舞台の上で具現化しないと気が済まないのが、私という人間です。永田錦心、マイルス、ドビュッシー、ジミヘン、パコデルシア、魯山人、、、、私が憧れてやまないこういう人達は当時の世間の常識やセンスを飛越え、ぶち壊し、世に自分の創りだしたものを示し、それを認めさせました。だから次の時代が見えてきたのです。
私のような人間は、もっともっとと言い続けながら虹の彼方へと旅立ってしまうのかもしれませんが、こういう生き方も自分らしければ良いのではないかと思います。時に悲しいこともあるでしょうし、落ち着かない人生とも言えますが、スリルに満ちた日々は私をワクワクさせてくれます。
私が虹の彼方へと行く時がいつかは判りませんが、私は私の人生を淡々と歩んで行きたいですね。喜びも悲しみも包み込んで・・・。