初心忘るべからず2016

この春は震災もあり、何時もの春とは気分も随分と違いますが、新緑もまぶしい季節となり、演奏の機会が活発になってきました。先週は第二回日本橋富沢町樂琵会、そして高久国際奨学財団の認定式での記念演奏があり、週明けにはキッドアイラックアートホールで行われたヒグマ春夫さんのパラダイムシフトVol.77で演奏してきました。

日本橋富沢町樂琵会にて、
ゲストの平野多美恵さんと、ここのオーナーで色々と応援を頂いている小堺ひとみさん

まあ自分でもこれだけ幅広く演奏する人も珍しいだろうと思う位に、同じ薩摩琵琶でもアプローチから内容まで全然違う演奏をやっています。どれもが私であり、正に多面体がそのまま音楽になったようなもの。これに樂琵琶が加わると更にバリエーションが広がって、結果的に色々な所に出没するということになるのです。自分の知らない所に呼ばれ、多くの様々な方々に出会うというのは実に楽しいものです。音楽家冥利に尽きますね。

ヒグマさんのパラダイムシフトで演奏したキッドアイラックアートホールは、いつかここで演奏してみたいと思っていたホールですし、ヒグマさんとは是非組んでみたいとも思っていたので、願ったりかなったりでした。ヒグマさんの映像作品をバックに尺八の田中黎山君、ダンスの小松睦さんと3人でやったのですが、久しぶりに大型琵琶を存分に弾き倒し、琵琶を最初に手にした時のあの感触が甦りました。
琵琶で活動を始めた頃は、常にあの大型琵琶を背負って全国に出かけ、弾き語りから即興まで、様々な楽器の演奏家やダンサー達と演奏会に明け暮れていました。月に5本10本のライブは当たり前でしたね。まあ本当に色んな人が居ました。思い返しても面白い体験を沢山させて頂き、今となっては貴重な体験だったと思っています。あれが私の原点なのです。このパラダイムシフトでは、あの頃同じワクワクするような、躍動するような、血沸き肉躍るようなあの感触が甦り、古巣に戻ってきたような気分になりました。

   

私は活動の最初からいつもダンサーと一緒にやることが多く、色んなジャンルのダンサー達と本当に沢山共演してきましたが、ここしばらくは樂琵琶でダンサーとの共演することがほとんどで、薩摩琵琶のあのスリリングな感触は本当に久しぶりでした。それがキッドアイラックアートホールで封印を解かれたかのように甦ったのです。あの場所こそ私の帰る所だったのです。

ここ4,5年樂琵琶に随分と時間を割いて来ましたが、樂琵琶ではCDも3枚作る事が出来、作品も色々と出来て来ましたので、今年からは今一度薩摩琵琶の作品作りにシフトして行こうと決めていました。だからこの機会は実に良いタイミングだったのです。とにかく私は樂琵琶も薩摩琵琶もその音色に惚れ込んだのです。音色を前面に出したい。音色が充分に届く音楽をやりたいのです。

弾き語りも素晴らしい文化であり、琵琶楽の大切な部分だと思います。平家琵琶から始まる日本の琵琶楽では弾き語りこそが琵琶楽ですから、そこは外して接する訳にはいかないと思います。しかし現代の日本社会は、古代から続く文化の伝統を一度は明治に、2度目は昭和の敗戦後に断ち切ってしまった、と私は感じています。今の日本の文化はこうした断絶の上に成り立っていると思うのですが、そんな意味では、私は断絶の申し子のようなもので、日本の伝統文化を後追いで体験しているのです。特に琵琶に関しては、全くと言っていいほどに何も知らず、とにかくその音色に惹かれて弾き出したのです。弾き語りをする物という感覚も無く、ただその音色、それだけに魅せられたのです。

現代では和服でも芸能でもなんでも、もはや伝統の延長線上には無いのではないでしょうか。逆に新しいものとして日本の伝統文化に接する。これが今の現代人の伝統に対する素直な感覚ではないかと思います。着物の季節ごとのしきたり等関係ない。格好良いと思うようなファッションとして着て楽しんで良いじゃないですか。そこを入り口として、伝統文化の素晴らしさに目が向いて行く、という形があっても良いじゃないですか。琵琶も同じだと思います。あくまで今の感覚として琵琶を捉え聴く。私はこれで良いと思います。
旧来のお稽古の仕方で「琵琶とはこういうものです」と押し付けるのではなくて、まずは自由に琵琶に接する所から始めて、やって行きながら、それぞれ自由なやり方で伝統の形をやりたい人には、そちらも教えて行くようにすれば、もっともっと琵琶の愛好者もプロ演奏家も増えて行くと思っています。現在はステレオタイプの人が多過ぎるし、そういう教え方をしない所に大きな問題があると思えてなりません。門戸を広げ、新しい感覚を持った人をどんどん受け入れて行けば、私のようなタイプの奏者も珍しくはなくなるでしょう。

私は今回のこの演奏で、自分が琵琶を手にした最初の感覚をあらためて手に入れました。これはもう逃さない。人はどうであれ、私は琵琶の音色を世の中に響かすのが仕事であり、使命だと感じています。弾き語りも含めつつ、器楽分野をどんどんとやって、琵琶の音色の素晴らしさを聴いてもらいたい。唄ではないのです。あくまで琵琶の音色なのです。
芸術に携わる多くの先輩や仲間とこの夜を過ごせたことに乾杯!


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