熊本の地震は大変な被害となってしまいました。とにかく今はあらゆる支援が迅速に行き渡ることを祈ってやみません。昨日になって知り合いと連絡が取れましたが、5年前の東北の震災に於いても、今回も報道やネットの情報が入り乱れ振り回されて、結局は何も出来ず鬱々とするばかりでした。音楽は直接的には無力かもしれませんが、こういう時こそ先ず我々が普段の日常を取り戻さなくてはと思います。私はいつものように素晴らしいと感じられる音楽を奏でること。これしかないだろうと思います。一日も早い復旧を祈るばかりです。

そんな中、先日は打ち合わせも兼ねてクリスタルデュオブレイズのお二人とゆっくり話をしてきました。その結果12月1日に近江楽堂で演奏会をやる事になり、私も微力ながら参加することになりました。詳細が決まりましたら、改めましてご報告させて頂きます。
この日は昼間時間もありましたので、かねてから行きたかった、馬の博物館で開催されている山口晃さんの作品展「馬鑑」に行ってきました。

山口さんとは、カリブ海のクルーズで偶然一緒になったのですが、話していると以前私がお世話になった方と繋がっていて不思議な縁を感じていました。
作品はとてもユーモアに富んでいて、過去と現在が混在する楽しい作品が並びました。こういう自由な発想は、ありそうでない感覚で、見ている此方側の心を解放してくれます。添えられている言葉も片意地張らず、ふんわりとしてとてもいい感じでした。それにしても画力の高いこと!。
こんな時期ということもありますが、山口さんの時間を超越した作品を見ていて、「而今」という言葉が浮かんできました。「而今」とは今この時という意味で、道元禅師の正法眼蔵に出て来る言葉です。哲学的な言葉なので、私ごときが解説する訳にもいかないのですが、今この時を大事に生きるということは、今、現代社会の中でとても大切なことではないかと思います。
これだけ複雑で、且つ快楽を極端なまでに刺激し続ける社会は人類史上他に無いと思います。ネットをはじめあらゆる情報が飛び交って、もはや個人のレベルでは判断が付かない状態になっているような事は、これまで人類が経験していないのではないでしょうか。簡単に言えば人間がメディアに振り回されて生きているということです。
未来へのヴィジョンをしっかりと持つことはもちろん大事ですが、こういう時代こそ、自分を見つめ、今自分がなすべきことをしっかりと把握しないと訳わからないままに流されてしまいます。とにかく自分を取りまく物や情報から自分を守らないと!。私がいつも書いている肩書きやら格やらという幻想も同じく、自分の本来の動きを止めてしまうぶ厚い鎧でしかありません。
これからを担える若い世代がそういうもので目隠しをされ、振り回されている姿を見ると何とも心苦しい。またそんな中で頑張っている自分に酔ったり、褒められて有頂天でいたりしているのも、その場では気持ち良い快楽の中に居るのかもしれませんが、振り回されて自分を見失っているのと同じです。今を大事に生きる為にも、鎧も衣も脱ぎ捨てて、何物でもないあるがままの自分自身と向き合うことが大切ではないかと思います。

世の中天災人災あらゆる危険が常に隣り合わせ。何が起こるか判りません。被災地でも地震後に様々なことが起こっているようですが、人間とは残念ながら善意なだけではないのです。今回でも先ず支援を申し出る国もあれば、この機に乗じようとする国もあります。これら世界中からありとあらゆるものが押し寄せ、溢れる情報や物と共に自分を取り巻き、自分の歩くべき道がなかなかすっきりとは見えない。そんな時代に我々は生きているのです。現代社会では国内は勿論、海外からでも直接色んなものが飛び込んでくるので、小さな世界にのんびり居ようと思っても居られないのです。この社会情勢も何も、全て自分自身で判断し取捨選択をしなければなりません。何と煩わしいことか!!
道元禅師は後の世のことが見えていたのかもしれませんね。この多くのものに取り巻かれ、本来の自分を見失いつつある現代という時代を・・・・。でも私達はその中を確実に生きて行かなければならない。私は「今」を生き抜くことこそ現代の一番のキーワードのように思えるのです。
さて、この混迷の時代に琵琶の音をどんどん響かせるのが私の仕事。今週は21日に「日本橋富沢町樂琵会」の第2回目演奏会があります。今回は薩摩vs筑前~敦盛対決。筑前琵琶の平野多美恵さんをゲストに迎え、弾き語りをたっぷり聞いていただきます。
そして25日の月曜日には方丈記でも御一緒させてもらっている、映像作家のヒグマ春夫さんの「パラダイムシフトvol.77」で演奏します。今回は尺八の田中黎山君も緊急参戦となりました。
ここ5年程で樂琵琶ではそれなりに作品も残すことが出来ましたので、今年から薩摩琵琶に舵を切って行こうと思っています。今回は久しぶりに大型琵琶を手に初心に帰って、あの「Orientaleyes」の世界観でやろうと思います。
今を生き、そして次代を生きる。それは生涯変わらない私の指針なのです。これからが楽しみです。