今季のMet初作品「イル・トロヴァトーレ」を観て来ました。この作品はMetがライブビューイングを始めて10年目となる今季の第一作目ですから、大いに期待していましたが、その期待の上を行く素晴らしい感動がありました。

今回は、絶好調のネトレプコもさることながら、なんといってもディミトリ・ホロフトフスキーこそ観たかったのです。ホロフトフスキーはこの夏、脳腫瘍であることを発表し、それを克服しての舞台がこの作品だったのです。
先ず彼が登場してきた時の観客の惜しみない拍手が忘れられないですね。役ではなく、ホロフトフスキー本人の登場に割れんばかりの拍手が鳴りやまなかった。その歓迎に先ずは会釈で軽く答え、それから役に入って行くという、今まで観たことない始まりでした。愛されているんですね。
そして勿論ネトレプコが素晴らしい。完璧な程の歌唱を聞かせてくれました。まぎれもないトップ歌手としての貫録を見せつけてくれましたね。本当にびっくりする位凄かった。華があるとは正にこの事です。
ホロストフスキーのあの声も相変わらず太く、深く鳴り響いていました。好きだな~この声、そして彼の揺るぎない姿。私も声を使う音楽家ですから、彼の声には憧れ以上のものを感じますね。
この二人はロシア出身のスターであり、ネトレプコが初めてMetに出た時も二人の共演だったそうです。絵になる二人ですね。

ヴェルディの作品なので、いつもの「濃~~い」人間ドラマなのですが、共演のヨンフン・リーやドローラ・ザジック,ステファン・コツァンも素晴らしく、じっくりと楽しめました。全編に渡りぐぐぐぐ~と作品の中に入って行けました。
最後のカーテンコールはもうホロフトフスキーへの歓声が鳴りやまず、オケピットからも花が投げられ、世界中のオペラファンが彼の復活を信じ、世界中から祝福の拍手が沸き起こっているかのようでした。ちょっと涙が出て来ましたよ。これがスターというものなんですね。ちょっと人気だとか、売れているだとかではないのです。

邦楽でもオペラでも、通やコアなファン(というよりオタク)のような方々は、「この作品は最悪」だの「○○は下手」だのと通ぶって、個人的感想文を得意になって発信しますが、以前にもこのブログで書いたように、そういうマニアがジャンルを潰すのです。自分達の気に入るような舞台であって欲しい。それ以外はこき下ろすというようではオペラも邦楽も育ちません。ちゃんと評論を書いて欲しいですね。批判的な記事も、必ず根底に愛を持って書いて欲しい。更には批判記事を=誹謗中傷のように捉える人々も情けない。自分と違う意見を言われ、誹謗されたと言いふらすような低レベルの感性がまかり通っているでは、全体のレベルが上がりようがないのです。書く方も書かれる方も、常に謙虚な姿勢で意見を聞くようでなくては・・・。
今邦楽にもピーター・ゲルブのようなプロデューサーが必要です。実はもう20年近く前から言っているのですが、残念な事にそういう方は出て来ませんね。まあ現状では商売にならないし、私のような個人経営でやって行くのが精一杯でしょうが、邦楽でもクラシックでも働く必要の無いやんごとなき人しかやっていないような状況で、まともなレベルの音楽が出来上がるでしょうか。如何でしょう。

Metを観るといつも元気が出ます。視
野も広がり、自分の成すべきことも、観る度に明確になってゆくのです。同じように私の演奏を聞いた人が、希望に溢れ、愛に満ちるようにどんどんクオリティーを上げて行きたいですね。

さて、今週末は秋の恒例、北鎌倉古民家ミュージアムで、笛と琵琶のデュオReflectionsの演奏会です。今回は前半が古典雅楽曲、後半がシルクロードを感じさせるReflectionsのオリジナルという構成になっています。是非是非お越しくださいませ。