樂琵琶宣言2015

今月は刺激的な演奏を何度も聴かせて頂いたせいか、何だか気分が興奮気味だったのですが、やっと魂が落ち着き(?)家でゆっくり琵琶を弾けるようになりました。今月は灰野さん、中島さんのコンサートの他に、箱根のサロンコンサートも面白かったし、手妻の藤山新太郎師匠の公演にも毎週参加しましたが、本当に刺激の多い半月間でした。
良いものを聴くのは素晴らしい事ですが、興奮状態では自分の仕事が出来ません。落ち着いて我が身を振り返り、自分のやるべき事をしっかりと見据えないといけませんね。

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先日、樂琵琶の事で取材を受けたのですが、その時に主に話したのが、樂琵琶に対する私の視点です。私が見ているのは雅楽の琵琶という事でなく、もっと汎アジア的な弦楽器という所。記者の方は充分に判ってくれたようなので嬉しかったです。私は雅楽もそれなりにやるけれども、雅楽師ではないのです。現行の雅楽も含め、樂琵琶はその歴史にアジア全般を背負っています。私は樂琵琶やそれ以前の弦楽器達の辿った歴史に興味がありますので、雅楽という限定された中で樂琵琶を見てはいません。

以前からシルクロードを視野に於いて樂琵琶を弾いて来ましたが、樂琵琶で秘曲や、古典曲のアレンジ物などオリジナルのCDを3枚出してみて、更にその想いは強くなったと思います。薩摩琵琶は日本で生まれたものですから、現代日本の音楽を高らかに歌い上げるべきだと思いますが、樂琵琶はどんどん国境を超え、時代を超え音楽を奏でるべきと思っています。

やっとゆっくり琵琶を向き合う時間が訪れ、ここ数日は改めて琵琶楽に対するアプローチを考える良い機会となりました。
私が樂琵琶に取り組むきっかけとなったのは、「殿上人の秘曲」というCDです。多忠輝さんの演奏する「啄木」をじっくり聴いてみて、やっぱり「これだな」っとあらためて頷いてしまいました。この演奏は家元や樂家に良くある、「確かに間違いのない伝承だけれども、どうも腑に落ちない」という所を全く感じない。弦楽器をあるべき姿に豊かに鳴らし、歌わせている。多彩なタッチも素晴らしい。実は私が、雅楽や邦楽で一番腑に落ちないのが、ぶっきらぼうとも言えるヴァリエーションの無いタッチなのです。そこに豊かな感性は感じられないですね。
この多先生のタッチは実に繊細で、表情がある。樂琵琶を大きく歌わせている。もしこの演奏に出逢わなかったら、私は樂琵琶を弾いていなかったでしょう。機会は無いと思いますが、一度多先生にお目にかかってみたいものです。

中でも「啄木」は今聞いてもモダンな感じで、古臭いという所がみじんも無いですね。一番好きな曲です。おおらかで明るく、大陸の風を感じます。樂琵琶の音色は全体にこのイメージがあるのですが、「啄木」は特にこうしたイメージを喚起させますね。薩摩琵琶は逆にあの何とも言えない湿った暗さが一つの魅力なのですが、携わる人の感性が変わると、同じ琵琶でもここまで変わるんですね。

また「啄木」が時代を超えて魅力を放つのは器楽という所が大きな要因だと思います。例えば新古今のような和歌だったら、古風な言葉でもその感性は今でもそのまま通じるものがありますが、歌詞の入った曲は、時代が変わってしまうとどうにも感覚的に判らないというものも少なくないです。特に近代の曲は時代が近いだけにかえって判らないものが多いような気がします。例えば「石堂丸」や「戦艦大和」等はどうにも解せない部分が多々あります。明治以降、時代と共に人々の感性が大きく変化したのですから、これは致し方ないですね。
「啄木」は器楽だからこそ、色々な時代の感性に晒されても、魅力を感じてもらえたのではないでしょうか。筝曲の「みだれ」もそうですが、現代音楽とも言えるようなモダンを感じます。武満徹は「音楽には国境がある」といいました。確かに武満の言葉は十二分に頷けるものがありますが、私はそれを判った上で、あえて音楽は時代も国境も越えると言いたい。

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そして改めて感じたのは伝統を守る最前線にいる人と、次世代の日本音楽を創ろうとする私とでは、同じものを同じように弾いても違うんですね。表面上は同じです。そっくりそのままコピーしましたから、さらっと聞く分には同じに聞こえるかもしれませんが、確かに違う。その違いは是非先入観を取り払いお聴きになって感じて頂きたいと思います。

しかし継承という部分と、ある意味真逆な創造という二つの両輪が「啄木」という曲で繋がっているというのは面白いじゃないですか。それだけこの曲には大きな器や懐の深さがあるという事だろうし、だからこそ今聞いてもとても新鮮な魅力が溢れていると思います。

樂琵琶の魅力をどんどん聞いてもらいたいですね。

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