音の風景2015

先日、筝の中島裕康君がやっている邦楽四重奏団の演奏会に行ってきました。

邦楽4重奏団

彼らは年に2回、すみだトリフォニーの小ホールで、現代邦楽の演奏会を開いています。若手作曲家に新作を委嘱したり、ベテラン作曲家の現代曲を再演したりしていますが、今こういう活動を定期的且つ真剣にやっているグループは彼らだけだと思います。
今回は、山根明季子作曲「水玉の愛の中に消える」、松本直祐樹作曲「Mistic Focus」、吉沢検校作曲「冬の曲」、丹波明作曲「音の干渉 第一番」、廣瀬量平作曲「雪綾」というプログラム。古典の一曲を除き、若手の作品二曲、ベテランの作品二曲という内容でしたが、どの曲からも色々なアイデアを頂きました。

5中島裕康君
演奏家としての彼らの姿勢は実に真摯です。古典は全て暗譜ですし、現代曲の解釈も研究の跡が良く伺えます。勿論若さゆえの部分も多々あると思いますが、演奏レベルはかなり高いですよ。あれだけのプログラムをこなすにはかなりの練習量も必要でしょう。手慣れた技で弾けるようなものではありません。こういう演奏会を年に2回やっているという事は、人生の全てを音楽に掛けているという事だと思います。彼らの姿を観ていると、自分自身も元気が出ますし、背筋も伸びますね。

                             

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郡司敦作品個展にて中島君、田中黎山君と

今、30代40代の演奏家がポップスに行ってしまう例が多い中、20代の若手が現代日本の芸術音楽を真摯に追求しようとする姿勢には、実に頼もしいものを感じます。エンタテイメントばかりでなく芸術音楽に人生賭けて取り組む人がもっともっと居て良いと思います。ポップスが悪いという事ではないですが、売れる事ばかりが頭にあって、「人気者になりたい、有名になりたい」という連中ばかりではクオリティーは上がって行かない。派手な化粧や恰好をし、誇大な宣伝をして「売る」事に執心し、パフォーマンスばかりに気を取られているようでは、音楽はいつまで経っても磨かれない。舞台人としてそういう部分が必要な事はよく判りますが、先ずは音楽。音楽が何よりも優先して行かなければ、良いものは創れません。邦楽四重奏団にはこれからも期待したいですね。

さて、ここからは作曲家としての視点。

           黛敏郎武満徹2
現代邦楽を聴いていて思うのは、作曲家の質です。現代日本の作曲家は、皆西洋クラシックの勉強を子供のころからやってきた人達が、大人になってから邦楽器に取り組んでいる。だからその発想や様式、哲学等は洋楽のままというのが残念でならないのです。あの発想ではいつまで経っても「春の海」のような新時代の日本音楽は生まれて来ない。グローバリズムの時代ですから、色々な音楽のミクスチャーがあってしかるべきだと思いますし、邦楽に対し色々なアプローチもあって良い。しかし彼ら日本人作曲家に盤石な西洋の文化基盤があるとは思えないし、日本の文化基盤もろくにも無い。コスモポリタンと言えばそれまでですが、人間はそんなに器用ではありません。誰しも親族や生まれ育った地域風土というものを持ち、そこにアイデンティティーを見出してこそ、人として成り立つのではないでしょうか。文化というものを持たない人間には文化は創れない。彼らが、土台となるべき自国の文化をろくに知らないという所に、大いなる疑問を感じるのです。

こういう部分は武満さんや黛さんもかなり考えたのではないでしょうか。ただ二人の生きた時代には、まだ邦楽というものが世の中にわずかにありました。しかし現代には社会の中に邦楽というものが全く無い。せいぜいお正月にどこかでお筝を聴くのが関の山でしょう。今回の演奏会で出品した二人の若手作曲家も、邦楽が土台に無い事は明らかだし、一人は、「邦楽は中東のマカームやガムランよりも遠い存在」と書いています。

鷹姫全く違う所からの視点や発想は大いに歓迎なのですが、それは往々にしてアイデアという所で止まってしまう。やはり文化というものにはアイデンティティーが無くては文化たりえません。日本には日本のアイデンティティーがあってこそ、日本音楽の最先端となるし、現代邦楽というものになって行くと思います。
今回の作品は、どれも大変アイデアに富んでいて参考になりましたが、もし邦楽四重奏団が弾かずに、洋楽器の演奏家がやっていたら、「邦楽」という音の風景は感じられなかったかもしれません。

若手の作曲家にはもっともっと文化や風土、歴史等日本とは何か、日本人として作曲をやって行くとは何か、邦楽器作品を発表して行くとは何か、深く考えて欲しい。全然考察が足りない。現時点で彼らにとって、結局邦楽器はただの一民族楽器であり、飛び道具でしかない。

若き才能を聴きながら、現代に於ける邦楽の存在に想いが広がりました。

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