春感じる日が多くなりましたね。春一番も吹き、梅も満開。桜、桃を始め、華やかな春の息吹が楽しみです。

先日、国立劇場で行われた、地唄舞花崎会の公演を観てきました。伴奏も私の知人がやっていましたので、久しぶりに彼らの演奏も聞くことが出来ました。
代表の花崎杜季女さんとの出会いは、ちょっと面白いのです。もう10年程前、私が渋谷のクラシックスというライブハウスで演奏していた時に花崎さんが来てくれて、初対面にも拘らずその場で「私のリサイタルで演奏して欲しい」という事を言われ、それからお付き合いが始まりました。それ以来、お互いの舞台に行き来しているのですが、必ずチケットを買ってきてくれて、高野山の演奏会にも足を運んでくれました。仲間と言ってはおこがましいのですが、こういうまともにお付き合い出来る舞台人はそう居るものではありません。招待状を送り合って、褒め言葉しか言わないような邦楽の世界で、しっかりと話が出来る貴重な方なのです。
花崎さんの舞台は日舞とはまた一味違って、もっと具象を超えて、能に近いような風情があります。例えば雪が舞い散る情景を表現するのに、手をひらひらさせるのではなく、舞い散る雪を見る人の心の情景を表現する、とでも言ったらよいでしょうか。それでいて心情をそのまま動きに出すのでなく、もっと秘めて行くので、その様は抽象性を帯び、どこか能に近くなって行くのだと思います。私は舞踊に詳しい訳でも何でもないのですが、その姿には余計なものが無く、実に凛とした佇まいを感じるのです。

今回は花崎流の精鋭5人が舞いましたが、なかなかにレベルが高く、古典から新作までじっくりと味わえる内容でした。花崎さんの美意識が全体に貫かれ、日本の美が溢れていました。花崎さん自身は海外公演にも積極的に出かけている
し、異ジャンルの方と組んで創作舞台にも挑戦している。こうしてどんどん自分なりの活動を展開している方は、たとえ目指す所が違っても、どこかに共感出来るものが必ずあります。嬉しいですね。
邦楽の保守的な世界の中で自ら代表となって、一派を立てているのは大変な事だと思います。時に色々と言われることもあるかもしれません。しかし何があろうと我々はとにかくこの身を晒してナンボです。周りには良いという人もあれば、今一つという感想の人もある。賛否両論あって良いし、またそうでなければならないのです。逆に何か言う限りはしっかりとした哲学や論理を持っていなければなりません。好き嫌いのような個人的感情でものを言っているようでは、自分のレベルの低さを披露しているようなものです。閉ざされた村の中ではいざ知らず、大きな世界では相手にもされません。表現活動をするという事は厳しいものです。

クラシックのトップクラスでは、たった一音間違えただけで下手と言われ、タッチを一つでもミスると未熟と言われます。間違えずに弾いたとしても、そこに独自の深い解釈が無ければ評価はされません。それは相手がバーンスタインだろうが、カラヤンだろうが容赦ない。演奏会翌日の新聞には辛辣な批評がでかでかと載ります。世界のトッププロはそれ位厳しい世界でやっているから一流の質を持っているのです。日本ではまだまだ当たり障りのない事しか言い合わないですね。自分の痛い所をつつかれるのが嫌だから、他人のそういう部分を見ても何も言わない、という何ともネガティブな状態が背景にあるのも確かです。海外では堂々と批判を論文で展開します。ブーレーズのシェーンベルク批判などは有名ですが、好き嫌いのようなレベルでなく、哲学や論理を持って議論を交わして行く、こういうハイレベルな所で話が出来るプロの世界が、邦楽にも成り立ってゆくと良いですね。

変わり行く世の中で「伝統」に携わって行くには、旺盛な創造力が必要です。現代という時代を感じ、この現代という中で、伝承されたものをどうやって舞台に表わしてゆくべきか、過去を学び、現代を知り、次世代を感じながらとことん考え実行出来なければ、魅力的な舞台は作れません。常に創造する事が継承に繋がって行くのです。近現代の音楽である薩摩琵琶も、今一番「創造力」が問われているのではないでしょうか。
私の周りにはジャンル問わず、花崎さんのように創造的で前向きな人がどんどん集まって来ます。
勿論離れて行く人も居ます。それでいいのです。ぬるま湯の中で慣れあっているようではいけません。クラシックでもジャズでも邦楽でも、トップを目指している人は黙っていないし、旺盛に活動しています。またしっかりとした哲学も持っているからその行動にブレが無い。人の意見もしっかり聴いて、変わるべき所があれば、即座に変えて行く柔軟な感性も持ち合わせています。プロとしてやっていれば、神経磨り減るような戦いも結構あると思いますが、そういうものをクリアして前に進んで行ける人だけが舞台に立てるのです。

是非日本の魅力ある文化を、良い形で次世代に伝えたいですね。それは我々世代の一番大事な仕事かもしれません。
これからの花崎さんの活動に、大いに期待したいと思います。日本の美しさを堪能し、日本の芸術舞台に想いを馳せた一夜でした。