熱狂的声楽愛好のススメXVI~「アイーダ」

先日、Met Live viewingのアンコール上映で、「アイーダ」を観てきました。

神殿

アイーダはグランドオペラの代表として有名ですが、結構な長さでもあるので、なかなかっゆっくりと見ている時間も取れず、昨年の上映時はパスしていたのです。しかしMet作品の番宣の中で、アイーダ役のリュドミラ・モナスティルスカを観て、その声にびっくりしてしまいました。これは絶対に観逃す訳にはいかない、という訳で何とかスケジュールを合わせて行ってまいりました。

モナスティルスカこちらがそのモナスティルスカ。ウクライナ出身で、まだ英語のインタビューも通訳付きでないとこなせないほどの新人ですが、もう声がベテラン並に練りあがっている。そして技術が飛び抜けて素晴らしい。PPPからFFへと滑らかに変化するあの技術は半端ではない!。Metは新人だろうとなんだろうと実力さえあれば、どんどん主役に抜擢するのが良い所です。ベテランだってレベルが落ちればすぐに外されるという徹底した実力社会。img_1
実力よりも、業界内の人脈やキャリア、コネクションで決まって行くような某国とは全くセンスが違うのです。その競争の中で主役を勝ち取ってきた新人も皆、大変素晴らしいのですが、当然ベテランだって負けてはいない。さすがの実力を魅せつけてくれます。だから新人はいくら飛び抜けて素晴らしい技術やセンスを持っていても、やはり新人だなと思う事が多々あるのです。しかしこのモナスティルスカはベテランを凌駕するような声質と技術をすでに持っている。これには驚きました。彼女の才能と実力を応援する良いマネージャーやプロデューサーが付いたら、世界に名のとどろくような存在になるかも知れません。

やはり世界が舞台、という事はこういう人材が出て来るという事なのですね。邦楽界でもいい感じの若手は少し居るのですが、残念ながらモナスティルスカのようなレベルの人は・・・・・?宮城道雄や永田錦心、沢井忠夫のようなずば抜けた才能はもう難しいのでしょうか・・・。

このアイーダでは、もう一人ちょっと惹かれた歌い手が居ました。アモナズロアイーダのお父さん役のジョージ・ギャグニッザというバリトンの方。初めて聞く方ですが、声が大変充実していて、姿にも存在感がある。ホヴォロストフスキーのような二枚目タイプではなく、ちょっとこわもてな感じが役にぴったりでした。こういう深い声にはしびれますね。

もう一人アイーダの恋敵を演じる怖い感じのアムネリス役にはオルガ・ボロディナ。勿論歌唱はベテランらしくゆるぎない素晴らしいものでしたが、インタビューで大変参考になることを言っていました。
オルガ ボロディナボロディナはこの役を30回ほどやっているそうで、オペラに於いて、自分の声に合った役を常に見極めて努めているとの事。つまりは自分が歌うべきものは何か。そういう事をいつも考えているという事です。これはとても大事なことだと思いました。私も常に自分が歌うべき曲を作曲し、唄っていますが、結局自分が唄うべきと思わないと唄えないのです。声質や音域は勿論の事、自分の感性に合うものでないと、とても舞台にかけられない。ボロディナの言葉は実によく納得できました。

一つのフレーズを弾くにも、その背景にある歴史や宗教観、そして心情等々自分なりにどんどんと勉強して、あらゆる角度からアプローチしてみる。そこが無いと、自分の音楽を創って行くことが出来ません。先生の模写ばかりしていても創造性は育まれない。師匠と弟子は違う人間なのですから、違う解釈をして当然なのです。
流派のやり方も継承すべきだと思いますが、流派とは、いわば匂いのようなもの。何を弾いても、ただ座っていても、その佇まいに流派特有の匂いが漂ってこそ、流派の心を会得したと言えるのではないでしょうか。少なくとも上っ面で流派のフレーズをなぞり弾くことではないでしょう。

音を出す前に曲について先ず考える、勉強する。それから音を出して、更にまた考えて勉強して、何度も何度も行きつ戻りつしながら練り直す。師匠はその時々でアドヴァイスを与え、見守り、時間をかけて弟子の持つ感性に基づいた音楽を創って行けるように導く。師匠はそういう勉強の仕方を教え、師匠の大きな目に包まれながら、弟子は創造性を持った一人前の音楽家になって行くのだと私は思っています。

アラーニャ&モナスティルスカ

私は教室の看板を挙げていないのですが、優れた音楽家を見ると、その師匠の事が気になります。モナスティルスカは、インタビューで師匠に対し、大変な尊敬と感謝を述べていましたが、さぞかし師匠は優れた指導をしたのでしょうね。上手に歌えるように指導するだけでは、ああは歌えない。多少の技術があっても何も表現は出来ない。表現してゆくことと上手に歌えることは、全く次元の違う話なのです。まだ若い彼女に対し、考え、勉強する道筋を示し、自分のスタイルを確立してゆく事の大切さを教えてあげたのだと思います。

IMG_7914s何よりも音楽を創って行ける人材が育ってほしい。舞台に立った以上は芸術家として、自分の音楽を全うする。肩書きキャリア、そういったものは舞台には全く無用です。あくまで一芸術家として掛け値なく堂々と自分の音楽を響かせる。これは芸術の分野ではごく当たり前の事です。私も後進を教える限りは、生徒達が音楽家として、自身の音楽を響かすことが出来るように導いてあげたいと思います。

またまたオペラから色々な想いが広がって行きました。


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