ぱっと見だと底辺が27センチ近くもあるような撥は使いにくそうなんですが、この大きさはかえって細かいフレーズを弾く時にとても便利なのです。特にトレモロ。トレモロは手首を細かく動かすのですが、手首から撥先までの距離がこれ位あると、小さな動きでも、その動きが撥先に於いて、大きな動きに変換されるからです。それでトレモロが安定します。これは物理の問題です。これが三味線の撥位の大きさですと、手首をもっと動かなさなくてはいけないので大変やりにくい。三味線の音楽にトレモロのフレーズがほとんど無いのもうなづけます。琵琶をやっている方は試しに、三味線の撥で、FFからPPまで強弱をつけてトレモロをやってみると、大きな撥の方がいかに手首の負担が軽いか実感できますよ。もっと小さいギターのピック等では安定したトレモロというのは、本当に難しいのです。有名な例ではエドワード・ヴァン・ヘイレンのハミングバードピッキングがありますが、長く弾くのが難しい上に、あのように弾くにはある程度修練が必要ですね。
それが琵琶撥の大きさですと、小さな力で、しかも安定する。トレモロもとても弾きやすい。だから琵琶には崩れのような細かい撥さばきを必要とする奏法が発展したのでしょう。あの大きさは細かな撥さばきこそ似合っているのです。以前就いていたT先生にも、撥を小さくするとトレモロがやりにくくなると言われたことがあります。
琵琶の撥さばきがとても似ているので、習い始めの頃はびっくりしました。大きな撥を使えば、ちょっとした手首の動きだけで、フラメンコギターの指さばきのように、しなやかに全弦を舐めるように弾くことが出来ます。
という訳で、大きな撥はとても使い勝手が良く、早いパッセージに向いていて、色々な表現が可能なのです。