海辺にて

先日、三浦半島のヨットハーバーのある小さな入り江、小網代の海辺にてサロンコンサートをやってきました。

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今回演奏した場所のオーナーさんは大変芸術や文化に関心が高い方で、お仲間の方々の集まりに呼んで頂きました。絶好の天気に恵まれ、素晴らしい景色の中、波の音をバックに「大原御幸」「経正」など演奏してきました。琵琶の音楽というのは自然音が全然邪魔にならないのです。鎌倉で演奏する時もそうなのですが、虫の声、雨音、風音、そして波の音など全ての自然音と琵琶の音は、絶妙のアンサンブルをするのです。
今回は個性的なメンバーが揃いましたので、食事やお酒を楽しみながら、其々の専門分野の話も聞けて、大変に充実した時間となりました。

そんな幸せな仕事の後、日常に戻ってからチベット僧 パルデン・ギャッツォさん雪の下の炎のドキュメンタリー映画を見ました。NY在住の日本人監督 楽 真琴(ささ まこと)さんが作った「雪の下の炎」という作品です。私はここで政治的な事を書くつもりはありません。ただ震災の時もそうでしたが、メディアの示す事を無条件で鵜呑みにしてきた自分を恥じる想いでした。パルデンさんが33年に渡る不当投獄の体験に対し、冷静に向き合って、更に慈悲の心を持って、前を向いて歩く事をやめない、その姿に私は感動しました。
                                                                                                    
ジェツン・ペマ女史
ジェツン・ペマ私は8年程前に、チベットの教育者 ジェツン・ペマ氏の講演会に呼ばれ演奏した事があります。ペマさんはチベットから亡命してきた子供たちの教育に力を入れていて、いかに教育というものが大事か講演してくれて、滅多に出来ない素晴らしい体験をさせて頂きました。そんな事もあってチベットには何かと縁を感じていたのですが、あの頃まだ私は琵琶を弾く事で頭の中がいっぱいで、世の中の事等全く見ていなかった。
今でも私自身は変わらず無力ではありますが、一人一人が今、この地球で起きている事実を知り、想いを馳せる事は、音楽を、時代を作って行くと思います。

         
琵琶楽は仏教の教えと精神を基に成り立っています。同じ教えと精神を持った人が、今世界に向けて体を張って想いと祈りを発信しつづけている。その事に何かを感じずにはいられません。炉端の石も成仏し、波の音さえ仏のはからいであるとする仏教の教えは、時代も国境も超え人間を結び付けるものなのだと感じています。
今、私たちの置かれている状況がどれだけ尊い事か。視野を広げ良く考えるべき時に来ているのだと思いました。

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静かで、さわやかな海辺に聞こえる波の音。その波音と共に響いた琵琶の音は、ささやかではありますが、この大地に響き「今」という時間の一部となります。パルデンさんの祈りも同じく「今」の一部となって私に届きました。「今」を生きる人にこの響きを届けたい。そんな気持ちが心の中に沸いてきました。

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