Met Live Viewing「ドン ジョヴァンニ」を観てきました。
ドン ジョヴァンニに裏切られ、でもあきらめきれないエルヴィーラの役をイタリアの名花 バルバラ・フリットリがやりましたが、この人も前回の「カルメン」の時とはまた違い、今回の雰囲気に溶け込んでいました。このフレキシブルさ加減はさすが!歌はもう文句のつけようがなく、役柄をよく研究して、情感が見事に表現されていました。もーオペラ歌手は皆魅力的に見えてしまいますね。
脇役のラモンヴァルカスもなかなかに素晴らしく、pppまで歌いきるその技量には大満足。さすがに世界のトップレベルは聞いていて気持ちいいです。
ドン ジョヴァンニは人殺しで嘘つき、病的な女狂い、平気で人を裏切るとんでもないやつ。何故こんな卑劣な男の物語がずっと人々を魅了するのでしょうか・・・・。
これまで、このオペラには様々な考察がなされ、多くの意見があります。「モーツアルトが意図したキリスト教のドグマへの反逆」「キリスト教では認めない一夫多妻の表徴」等々色々な意見があり、様々な側面を見出すことが出来ます。「私にはこう生きるしかない」、というある意味追い詰められて行く人間の姿が見えました。
人間、田舎にいようが都会に居ようが、一定の社会の中で生きなければならない。そんな社会のルールの枠から、どうしてもはみ出してしまう部分を誰しも持っている事でしょう。そして皆其々のルールにも疑問を持っている。「カルメン」もそうでしたが、自分の居る社会のルールではなく、人間としての根本的な意味での「道徳」、「正義」、「愛」等々考えさせられる所が多いですね。このドン ジョヴァンニの物語はこれら実に多くの主題を内包しています。
モーツァルトの、あの豊饒なメロディーが、この物語の魅力を増し、人々は幾世代に渡っても惹かれてゆくのでしょう。芝居ではなく、オペラでなければ語れない世界があるのだな、と思いました。また彼を取り巻く3人の女達の姿もまた何かを表しているように思いますが、そちらの考察はまたいずれ・・・。
ヴェルディやワーグナーのような壮大なものから、今回の芝居小屋のような演出まで、実にオペラの魅力は幅広いですね。琵琶楽ももっともっといろいろな形があったらいいな、と思います。弾き語りも良いですが、薩摩・筑前・平家・雅楽、そんな垣根をどんどん飛び越えて、ただ古風なだけでなく、またバンド仕立ての似非ポップスでもなく、芸術的に音楽的に琵琶楽が旺盛に発展して行って欲しいものです。