声楽の話題は時々書いていますが、私はかなりの声楽好きであります。持っているCDもジャンル分けすると声楽のものがダントツに一番多い。それだけに結構厳しくもなるのですが、若手には本当に良い声楽家が出てきましたね。昨日は杉並公会堂小ホールにて行われたオペラ「ティレジアスの乳房&プーランクキャバレー」を観に行きました。
メインキャストで出ているソプラノの西本真子さんが、以前オペラ「トゥーランドット」のリュウ役をやった時に聴いて、大変気に入っていたので、久しぶりの彼女の歌声をとても楽しみにしていました。またプーランクの作品もCDでは持っているものの、生で聴いたのはシュトゥッツマン位で、ほとんど機会が無いので、そういう意味でも期待していました。初日という事もあって、第一部の出だしはちょっとぎこちなかったですが、後半の森山京子さんの堂々たる歌でぐっと気分が出てきました。西本さん、森山さん等メインキャストはさすがに素晴らしいレベルで、聴いていて気持ちよかったです。演出や演技の方はまだ「ちょっと」という感じもあり、舞台としては色々な意見があると思いますが、素晴らしい歌声には満足!今の邦楽界では若手であれだけのレベルで歌える人は居ませんね。
今の邦楽の大きな問題点は「歌」にあると個人的に思っています。邦楽の価値観は現代の聴衆のそれとは大きくずれていると思えてしょうがないのです。ラジオで(私はTVを持っていないので)大御所の歌を聴いても、若手のライブに行ってもがっかりすることが少なくありません。


オペラ歌手のような技量でなくとも、歌というのは技術で聴かせるものではありませんので、音楽にふさわしければ、どんな歌であろうと十二分に聴き応えがあります。マリリンモンローの歌とか、ジョニーロットンの歌とか、歌としてはいわゆる下手という部類のものでも、あれはそのキャラと合っているし、それを求め、評価する人も多いのです。私もピストルズはかなり好きですが、あの音楽にはジョニーロットンの歌がないと成り立ちません。ビートルズのヘイジュードなんかをオペラ歌手が歌い上げると、興ざめしてしまうと思いませんか。
歌は世に溢れているけれど、いい歌はなかなか少ないですね。私が30才のころでしたか、メゾソプラノの波多野睦美さんの歌を聴いたときには本当に心底感動しました。その声は、耳ではなく皮膚に滲みてくるように、静かに静かにホールへと満ちてくるのです。何とも言い表せないですが、優しく包まれるような、あまりにも美しい歌声でした。その道に人生をかけて生きている人の歌には感動がありますね。
虚勢を張って肩書き並べて歌っている人、「こんな程度で」なんて逃げ道を作って歌っている人の歌は、もう結構です。
私はけっして洋楽万歳ではありませんが、本気の声楽やオペラは実に素晴らしいと思います。ぜひ聴いてみて下さい。その精緻で清浄な魅力に虜になりますよ。お勧めです!!