今日は久しぶりにキングレコード関口台スタジオにて、カンツォーネ歌手の佐藤重雄さんのレコーディングをしてきました。
ここに来るのは半年振りくらいでしょうか。佐藤さんとはもう15年ほどの付き合いで、佐藤さんのCDには全て参加しているのですが、このほどキングレコードから発売のCDにも要望があり馳せ参じた次第です。この録音には今月米沢で共演するフルートの太田朱美さんも参加しているし、アレンジャーでプロデュースの熊谷博さんとも古い仲だし、色々とご縁があっての参加でした。
こちらが佐藤重雄さん
今回は先輩でもある熊谷博さんが本業のベースだけでなく、プロデューサー&アレンジャーとして仕切ってくれました。さすがに熊さん!ご機嫌なサウンドで気持ちよく仕上がっています。
こちらが熊さん
マイクはノイマンの149という真空管内臓のマイクを使わせていただきました。いつもの録音に使うものとは全くタイプが異なり、かなり高感度のマイクでした。これはこれで気持ちがよかったです。
さて、今週末は「三種の琵琶楽」と銘打った演奏会を今週の土曜日13時より光が丘美術館でやります。薩摩四弦・五弦・筑前琵琶の演奏を聴いていただくという趣向なのですが、流派の違いより演奏家の違いをぜひじっくりと聴いて頂きたいです。
薩摩琵琶は元々流派など無かったので、もっと自由に演奏する人の個性豊かな音楽そのものを聴いて欲しいのです。
明治期には永田錦心という人がそれまでの薩摩琵琶の概念をひっくり返すような事をやってのけました。永田は薩摩人に「あんなものは薩摩琵琶ではない」と散々ののしられたようですが、確かに私から見ても、いくら楽器が同じでもそれまでの武士道を基にした旧来の薩摩琵琶と同じには到底聞こえません。ましてや旧態然とした薩摩武士には軟弱の極みとしか思えなかったのでしょう。
しかし永田はそれを薩摩琵琶だと言い張り、自分の音楽を貫き、100年後の現在まで全国に認知させてしまった。そこが凄いのです。
音楽に限らないですが、次世代スタンダードとなる人間に対し、その世界の只中にいる専門家はえてして付いて行けない。自分が勉強してきた知識や経験、プライドを捨てきれずに新しい物や考え方に対し批判と反発を繰り返し、かえって時代に取り残されてゆきます。一般大衆こそがパイオニアとなる人を支持し、付いて行き、そこから新しい時代が作られるのです。
昨今、琵琶界から色々な声が聞こえてきますが、薩摩琵琶に革新をもたらした永田が聞いたらさぞ嘆く事でしょう。弦が多かろうが、撥が大きかろうが、指使いが違がかろうが、先生が認めようが認めまいが、そこに素晴らしい音楽が生まれ、聴衆の支持を得れば永田が作り上げたように、新しい薩摩琵琶が出来上がるのです。
私が今迄就いてきた先生達は皆、私をはるかに超えた世界を持っていました。私は何よりも、次の時代を見つめる先生方の音楽に対する姿勢に共感し、それに憧れ、牛の歩みで努力してきたのです。
永田錦心のようにはいかないかもしれないけれど、私が就いてきた先生達のようにあこがれの対象となる先輩に、私はなりたいです。