ちょっとご無沙汰気しました。特に用事があった訳ではないのですが、何だかのんびりしてました。
それにしても世の中、コロナも自然災害も留まるところを知らないですね。ヨーロッパではワクチン接種に対するデモが広がっているようですし、アフガニスタンのように政治的に壮絶な状態な所もあって、いよいよ地球全体が悲鳴を上げて世界が分断され、ブロック化して行くのを感じます。こういう時代に出くわしたのも、私に与えられた運命でしょう。この運命を、この我が身で生き抜いて行きたいですね。
昨年からのこの状況の中で、様々な想いが自分の中を巡っていますが、目に見えるものばかりを追いかけていると、その想いはどんどんと空回りして行くように思えます。現代ではどれだけ情報を整理し、客観的に分析出来るかが問われますね。「みんながやるから私もやる」という日本人気質は落語のネタにもなっていますが、これからはこの村根性では、とても生きて行けないと私は思っています。
今はヴィジュアル優先の時代ですが、それ故、目に見えないものを捉える感性が、著しく鈍くなっているように思えます。情報を分析するにも、表しか見えないようでは振り回されてしまいます。むしろ背景こそ見抜くようでなくては。
まああまり厳しく考えなくとも、古今東西、芸術を享受するという事は、目に見えない世界を見、感じ、異界へと誘われるものだったので、芸術的感性のある人なら、目の前を楽しませるエンタテイメントや、物や、有象無象の情報にも振り回されることはないだろうと思っています。目の前の現実を超えて行くのが芸術の性質であり、また目的でした。それは人生を豊かにするというだけでなく、その感性そのものが、現実を生き抜く知恵でもあったのかもしれません。
古より日本人は元々目に見えないものを感じる感性が豊かでした。その代表が和歌でしょう。古人は叢雲のかかる月を見て、雨に風に想いを馳せ、散り行く桜に人生を読み取って、抒情の世界を土台として生きていました。今でも海外から見たら日本人はかなり抒情的に見えるのでしょうが、今はそれがただの「あいまい」で終わっているのではないでしょうか。本来持っている深く豊かな感性を羽ばたかせること無く、「何となく」や「白黒はっきりしない」「周りに合わせる」という所にすり替わって、個々人それぞれの心の中の想いは表面に出ることなく、目の前の刺激に日々振り回されて、日本人特有の感性は隠れたままになっているのが現代日本の姿だと、私は思っています。
国家は国として成立すると、先ず叙事詩のようなものが生まれ、その後社会の成熟とともに物語文学のような抒情性を持ったものが誕生するというのが世界の常識だそうですが、日本は既に平安時代に抒情の世界は大発展し、物語に和歌に優れたものが大量に生まれて行きました。続く中世では平家琵琶や能などの独自の芸能が花開き、その抒情性はある意味頂点に達していたと言っても過言ではないと思います。
日本文化は正に空想力、想像力に溢れていました。定家や世阿弥、利休、芭蕉など古代から中世~近世に入る迄、目の前の現実空間を飛び越える天才たちが日本文化を牽引し、日本文化の底辺を形作ったと言えるでしょう。
現代社会はスピードが速すぎるのかもしれません。四季の移り変わりの中で感性を育んできた日本人にとって、現代は次から次へとあらゆる欲を刺激されて、自分に本当に必要なものが判らなくなって、どんどんと消費する事ばかりを促されて行きます。現代日本人には、その空想力や創造力を発揮する場があまりないのです。豊かな自然が周りに在りながら、そこに身をゆだねる事が出来ず、そこから自分の人生=ドラマを紡ぎ出す機会を失っています。実は心の奥底には想いが溢れ、それぞれのドラマを持っているのに、その想いは閉ざされ、隠され出番を失っているのです。
能楽師の安田登先生に教えてもらった易経の中に。このような文があります。
「お前は貧しいながらも、神秘的な霊力を持つ亀を内に有している。しかし今、それを捨てて、他人の持っている食物を羨ましがって涎をたらしている。それは凶だ」
今の社会の中では、なかなかその奥底の想いを解き放つことは難しいのかもしれませんが、今、それが出来るかどうか、瀬戸際に来ているのではないでしょうか。個人が自分で感じ、考え行動して行く時代が来ています。周りを見て判断するのではなく、自分で感じ・考え、自分の意思で何事も決定し、行動して行く。つまり自らの想いを表に出して行く、これが出来るかどうか、そこを今問われているのではないでしょうか。それぞれの想いが日本中に溢れ出てきた時、あらゆる分野で、日本が大きく変わって行く事だろうと思っています。
さて、緊急事態宣言の延長で、今回も少し雲行きが怪しくなって来ましたが、来月11日は、1年半ぶりに楽琵会が再開予定です。昨年2月が最後でしたが、その時のゲストが筑前琵琶の鶴山旭祥さんでした。今回の再開も鶴山さんをゲストに迎え、他に笛の相方 大浦典子さんにも来ていただきます。
是非心の中にある想いを溢れさせ、豊かな時間をお過ごしください。