磨きをかける

やっと世の中動き出してきた感じがしますね。

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横浜EL PENTE「中秋名月浴」にて photo 新藤義久


先日の藤條虫丸さんとのライブ「中秋名月浴」もとても良い感じで演奏出来ました。久しぶりにLiveの雰囲気を味わうことが出来、自分の原点をしっかりと確認しました。邦楽にはこのワクワク感が足りないんですよ。
声をかけてくれたPerの伊藤アツ志さん、そして虫丸さん、魔訶そわかさんとは是非また共演してみたいですね。来月頭(2日)には熱海でもダンサーとの共演がありますので、楽しみです。詳細が判りましたらHPにUPします。

来週はまた安田先生のサポートで企業セミナーなどあるのですが、来月3日のあうるすぽっと公演に向けて体も琵琶も整えて行きたいと思います。この公演は2019年から「漱石と八雲」という内容でやっていて、3年目となります。特に今年は10月末に新潟、11月には熊本で巡演する予定です。是非お近くの方お越しくださいませ。

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私はいつもながら「暇そうだね」と声をかけられる事が多いのですが、私が毎日何をしているかといえば、「曲の見直し」です。自分のレパートリーは時間がある時にはいつも見直していて、まだもう少し余地があると思われるものは、常にブラッシュアップをかけ、細かな表現の仕方を検討したり、譜面を直したりしています。既に手を入れる必要のない所まで来ている「まろばし」や「花の行方」(合奏Ver)、「二つの月」、樂琵琶での諸作品は別として、今月は「遠い風」(笛とのデュオVer)、「彷徨ふ月」(独奏曲)、「忠度」(弾き語り)、「古の空へ」(独奏曲)、「花の行方」(独奏Ver)をブラッシュアップしました。という訳で現時点でレパートリーは最強となっています。これに現代曲をもう一つ構想中なので、これが出来上がるべく只今奮闘中です。

6琵琶樂人倶楽部にて photo 新藤義久
私は子供の頃から、自分で選んだお気に入りのものを、じっくり手入れしてカスタマイズするのが好きなんです。楽器は勿論の事、身の回りにあるものに対しては常に手をかけて、最良の状態にしておくのが癖みたいなものです。和服も割としっかりと自分で手入れをして、自分で出来ない所は呉服屋さんにメンテナンスを出したりしてます。元来アンチ「高級・有名」なところがあって、有名メーカーの楽器や流行している品にはあまり手を出しませんが、お気に入りのものに手をかけて、一流以上のスペシャルなものにするのは快感ですね。
何時も紹介している私のオリジナルモデルの琵琶は、最初に作ってもらってから20年程の時間をかけて細部に渡って改良を重ね、やっと思い通りの形~塩高仕様に整いましたので、今とても気持ち良い状態にあります。一番身近な相棒ですから、ここに手を抜く訳には行きません。他を切りつめてでも、ここには手をかけていかないと!。

私自身は自他ともに認めるかなり大雑把な性格なのですが、自分を取り巻く「もの」たちに関してはついつい手間をかけてしまいます。だからサワリの具合が良くない琵琶があると、どうも気になってしまいますね。

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季楽堂にて 摩有さんの人形と共に photo MAYU

私にとって作曲した曲や楽器というものは、共に生きているという感じでしょうか。ちょっと理解して頂けないかもしれないですが、曲も楽器も常に変化し、留まる事がありません。逆に固定されて全く変わらないものというのは、どうもしっくりこないし飽きてしまいます。20年以上前に作曲した「まろばし」は、譜面上はもう手を入れる必要はないですが、何度やってもその変化を面白く感じます。曲自体も演奏者が自由な発想で解釈出来るように作ってありますが、奏者によって実に千変万化します。だから面白い!。作品は固定された物体ではなく、命あるものであって欲しいのです。
楽器も同じく、常にメンテナンスをしていても、その状態は人間のように毎日変わります。機械なら整備をすれば一定の状態になるでしょうが、私の琵琶は木部に塗装をしていませんし、場所を移動するだけで響きが変わります。サワリの状態も変わるし、ちょっとした温度や湿気で絃の状態も変わります。

だから私は楽曲も琵琶も「生きもの」を相手にしているつもりで接しています。

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一昨年のあうるすぽっと公演 能楽師の安田登先生、浪曲師の玉川奈々福さんと

ただこれまでやって来て、磨きをかける事と共に思う事もあります。音楽や芸術をやっていると、己の世界にはまり込んでしまって、仙人のようになってしまう事が多々あるのです。私は若い頃から、俗世間を離れ山の中で暮らしたいという願望がずっとあるのですが、それでは音楽は生まれないのです。自分の世界の中に浸っていると確かに気持ち良いし、何でも身の周りが思い通りになるような気がするのですが、自分の中の憧れやこだわり、更には自己顕示欲等の表層の部分に囚われて、そこばかりに気を向けて、未熟な思考のまま磨きをかけてもオタク以上にはなりません。

私自身、若い頃は憧れやこだわりみたいなものから、なかなか抜け出せませんでした。今でもまだどこかに抜けていない所を感じています。そんな私が今思うのは、自分自身を見つめる事と同時に、自分が時代と共に、そして社会と共に在るという意識がとても大切なのだという事。そこには日本の風土が育んだ奥深い歴史や伝統を感じる事も含まれて行くだろうし、今現在の自分を取り巻く世界というものをしっかり見て認識するという事が、自分の創ろうとしている音楽世界を豊かにすると感じています。自分自身に成りきって行くミクロな方向と共に、世界と調和して行くマクロな視野の両方が整ってこそ、音楽は鳴り響くのだと、今実感しています。

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キッドアイラックアートホールにて 
ダンス:牧瀬茜 ASax:SOON Kim 映像:ヒグマ春夫各氏と


さて、また磨きをかけて、舞台に向かいますよ。

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