熱狂的声楽愛好のススメ XIX~Met「湖上の美人」

8月の終わりから超絶に忙しい日々が続き、毎日作曲か、PCで書きものか、リハーサルかという日々を送っているのですが、こういう時には変な勘が働くのか、合間を縫って時間を作れるものなのです。不思議なもんですね。この所オペラにあまり行けてなかったので、どうしても観ておきたい作品をちょっと無理に時間を作って行ってきました。

        

作品はロッシーニ作曲の「湖上の美人」。何と言ってもディドナート&フローレスの、あの「チェエネレントラ」で大感激したコンビがやるのですから観ない訳にはいきません。先に観た友人からも大絶賛の感想を聞いていましたし、今回のアンコール上映を逃すと観れないという強迫観念から、強引に時間を作って駆けつけました。

     ディドナート1フローレス1

ロッシーニの作品はとにかく「歌・歌・歌」。どの作品もたっぷりと「歌」を堪能できるのですが、今回は今まで観た中でもナンバー1とも言えるような歌の饗宴を聞いた想いでした。
何といっても主演のジョイス・ディドナートは、もうこのブログでも何度も書いていますが、年齢と経験、技量、感性、肉体、それら全てが一番良い所に来ている、今一番乗っている世界のナンバー1です。そしてファン・ディエゴ・フローレスも今一番華のあるテノール。艶があり、けっして細くならない、何処までも鳴って鳴って鳴り響くあの声は、正に世界のトップの風格なのです。声といい姿といい申し分ないのです。
その二人に加え、バスのオレン・グラドゥス、テノールのジョン・オズボーン、メゾのダニエラ・バルチェッローナの共演者たちのまた素晴らしいこと!!!。ここまで歌うか!という程の歌・歌・歌を堪能しました。特大満足!!!

場面1メゾのバルチェッローナはズボン役(男役)で背も高く、主人公エレナの恋人という重要な登場人物をやっていて、テノールの二人も、その声質やキャラクターが違い、良いバランスが保たれていました。さすがにMetはキャスティングも言うこと無いです。ディドナート演じるエレナを巡る3人の男たちを三者三様の個性でたっぷりと聴かせてくれました。エレナのお父さん役のグラドゥスも実に深い良い声で、惚れ惚れしてしまうような艶を感じました。声を使う者としては、あんな声を一度は出してみたいですね。

場面3

インタビューでディドナートが「Top of The World」という言葉を使い、世界の一流の歌手達と仕事が出来ることが喜びだ、と言っていましたが、正に世界の一流が集う舞台でした。どのシーンも忘れがたいほどの充実ぶりでしたが、やはり最後のエレナの独唱は凄まじいまでの技巧と、自信に満ち溢れた存在感、トップであるという矜持の全てを感じました。

デュオ1

このレベル、この充実、世界のトップであるというプライドは、観ていて本当に感動以外のものは無いですね。いつもMetを観ると、自分の中に逞しいエネルギーが満ちて来ます。音楽というだけでなく、自分が生きて行く上での様々な勉強にもなります。これだけの舞台を創るのにどれだけの努力と研鑽と研究を重ねてきたのだろう、と見る度に思います。歌手本人は勿論のこと、オケも美術もスタッフも、世界一の舞台を創るんだ、という想いに溢れていなければ、あんな舞台は実現しません。
ともすると日常の自分は、忙しく色々なことに振り回され、知らない内に自己を見失いかけ、ふと感性も視野も狭く閉じがちになるものです。しかし世界のトップに立つ音楽家達の姿と世界最高峰の舞台を観ていると、そんなことに囚われてる場合じゃない!といつも叱咤激励されるような気分になります。時々こうしてあの姿を観に行くと、視野が開かれ、個人としての自立を想い、視野が世界に向かって行きます。自分が本当にやるべきことが改めて自分の中に見えてくるのです。

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年を重ねて来て、活動をやればやるほどに自分の求める所に近づいているという実感は確かにあります。しかしまだまだ道遥か。私はとてもディドナートには及ばないと思いますが、それでも志だけは高く、同じく一流の舞台をやりたい。規模は小さいかもしれないし、派手なものでもないけれど、「この辺で如何?」なんて演奏だけは絶対にやりたくないのです。

今年の秋から冬には沢山の演奏会の機会を頂いています。琵琶という楽器の性質もあって、私は伴奏という立場のものはほとんど無く、曲も全てが私が作曲したものだけしか弾きません。だから、お客様にはどの舞台でも100%塩高の音楽を聞いて頂く訳です。Metの歌手達が自分のスタイルでプライドを持って世界に向けて歌い上げるように、私も志を高く持ってやりたいですね。今年は新作の初演もいくつかやりますし、樂琵琶のみのソロ公演もあります。のんびりはしていられません!Metを観てまた元気が湧いてきました。

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