師走になりましたね。何だか1年が早く感じます。
先日、10thアルバム「AYU NO KAZE」のレコーディングが終わり、あとはミックス(編集)とジャケット画の選定という所迄来ました。前衛的な作品からロックテイストを感じられる作品、静かでノスタルジックな作品と等々、私がこれまでやりたいと想い描いていたイメージを具現化した作品群です。
1stアルバム 「Orientaleyes」が20年の時を経て蘇ったような内容と言っても良いかと思います。全編インストアルバムですが、1stにトリオ作品として入れた「太陽と戦慄第二章」に私が声を入れたように、今回は「Voices」という曲が琵琶・VnにMsの保多由子先生が入りトリオ作品として収録されています。いわゆる歌でない所も似ています。こんな所もあって1stが蘇ったように感じるのです。他独奏曲「遺走」は今回タイトル曲の「AYU NO KAZE」に、尺八とのデュオ「まろばし」は笛とのデュオ「凍れる月~第三章」に、チェロとの静かなデュエット「時の揺曳」はVnとのデュオ「凍る月~第二章」という具合に、まるで対応するかの如く曲が並んでいます。この20年で様々な仕事をさせてもらって、やはり自分の世界はこれだと言えるものを収録しました。1stのリリース時にも同じ事を言いましたが、もはや弾き語りの琵琶や古典雅楽等の音楽とは全く違う世界に来ているので、渋い古の琵琶が聴きたい人には、まるで聴きどころのないものかもしれません。
私はずっと自分の中に湧き上がる世界を形にしたいと思い求めてきました。これ迄ずっとその具現化を琵琶を通してやってきたのです。琵琶を手にした最初の頃はまだ漠然としてイメージだけで形が見えていませんでしたが、1stアルバムでその探し求めていたものが初めて具現化したのです。粗削りで未熟で勢いだけの部分も多分にあるのですが、あの時、確かに探し求めていた世界が見えたのです。それ以来琵琶を生業とし、人生とし、琵琶の歴史や日本の古典文化・芸能等、自分が学びたいものを学び吸収し、時に迷いながらも、一つ一つ自分の中に在る世界を音楽にして来ましたが、結局最初に求めた世界にまた戻ってきました。弾き語りも樂琵琶の作品群も、皆私の世界ですが、1stアルバムの世界はやはり自分の追い続けて来た音楽の基本形だと思い至りました。ここまで20年かかりましたが、充実した20年でしたね。今は自分のスタイルというものを自分ではっきりと認識出来て、自信をもって自分の音楽を演奏出来ます。琵琶の愛好家には評価されないかもしれません。またショウビジネスの世界とも遠く離れた所に居るので売れるものでもありませんし、有名になる事もありません。しかし誰に何を言われようと、自分の生き方が確立し、それを実践して生きているというのは嬉しいものです。
人生の全てにおいて、探し求めているものはなかなか得られません。何を求めるかは人それぞれですが、肉体はどんどんと衰えて行くし、出来なくなってくることも多いです。いずれにしろ物欲などの表面的な欲望ではなく、本質的なものを求めない限り、求めるものは遠ざかって行くだけだと思います。
私がずっと探し求めてきたものは、音楽以外だとやっぱり、その音楽を具現化するためのパートナーですね。逆に大きなチームは求めていません。大きなチームは個人の存在よりチームのルールや常識が優先してしまい、個人の自由な創作活動が制限されてしまいますので、集団には近づかないようにしています。友人はとても大切ですが、常につるんでべたべたと付き合っていたら、どうしてもどこかに慣れ合いが始まって、思考が膠着して本来持っている感性は羽ばたきませんし、出逢いも減ってしまいます。先ずはお互いが個として独立している事が大事です。「媚びない 群れない 寄りかからない」は常に意識していないと、森有正の言うような運命によって与えられた「尊い孤独」は感じる事は出来ないでしょう。芸術家同志はグループがあっても、常にそれぞれが独自の存在であり、それぞれが尊い孤独の中に在るのが望ましいと私は思っています。
しかし一人で自分の頭の中だけでこねくり回しているだけでは大したものは出て来ません。だからパートナーが必要なのです。勿論パートナーとも良い距離を保って、お互いが芸術家として独立していなければ、パートナーには成れ得ません。
若き日にはどんどん曲を書いて、何でも相手に要求するばかりで、相手をよく見ておらず、相手の魅力も全く引き出せていませんでした。当然演奏会に作品をかけても良い演奏にはならず、音楽としても響きませんでした。そんな経験を経て、今パートナーが如何に大事かを身にしみて感じています。良きパートナーと組んでいると、特別な境地に至る瞬間をよく感じます。そこには国境もルールも無いのです。ただただ音楽が在るばかり。当然相手が変われば見えて来る世界も、辿り着く境地も違ってきます。それには相手へのリスペクトが先ずある事。そしてお互いが共振し合えるポイントがある事。それがお互いに感じられる人だけがパートナーとなり得るのです。だから国境を越えて行く事が出来るのです。売れたい、有名になりたいなんて現世での俗欲に囚われて自己顕示欲や承認欲求でがんじがらめの人では、とてもじゃないけどパートナーには成れません。
この20年で素晴らしい仲間達に出逢え、納得できる作品を具現化することが出来、本当に嬉しく思っています。
音楽でも人生そのものでも、一緒に共振し合えて、ボーダーラインを超えて境地に行くような、そんな人に出逢う事は人生の幸せですね。総てが思い通りになるなんてことはありませんが、私がずっと追い求めてきた世界を実現出来るパートナーが居るというのは嬉しいものです。後はこれらの作品を、是非次世代にも伝え、また新たな作品を生み出していって欲しいと思います。
さて今年最後の琵琶樂人倶楽部は毎年年末恒例の「お楽しみ企画」。テーマは決めず、毎回その時点で面白そうな人に声を掛けてやってもらいます。今年は久しぶりの登場 尼理愛子さん。近年は演劇の舞台に乗って演奏する機会が多いようで、今年も独自の音楽を披露してくれそうです。そして今回琵琶樂人倶楽部初登場の笛奏者 玉置ひかりさん。彼女とは5月の舞踊公演で御一緒してから、9月には人形町楽琵会でも共演させてもらいました。正に今旬の勢いを持った若手です。
2024年12月11日(水)
場所:名曲喫茶ヴィオロン(阿佐ヶ谷駅北口徒歩3分)
時間:18時30分開場 19時00分開演
出演:塩高和之(琵琶)ゲスト 尼理愛子(琵琶語り) 玉置ひかり(笛)
今回はもう大分席も埋まってきてしまっているので、聴いてみたいという方は是非ご一報くださいませ。来年も色々と計画を練っています。また楽しい一年になりそうです。