成就する想い2025

a2先日の琵琶樂人倶楽部は結構な雨にも拘らず、盛況に終えることが出来ました。御来場の方々には深く感謝しかありません。今回のゲスト、安藤けい一さんのお話も実に面白く、ただのお坊さんの説教ではなく、人形劇をやっている安藤さんだけあって演劇的な要素もふんだんに取り入れながら敦盛と熊谷次郎直実の話や浄土教の話を解りやすく解説して頂きました。ああいう背景の事を知って古典に向き合うと更に深まりますね。ありがとうございました。

DSC_0276
小石川植物園

季節はなんだかんだ言いながら春の日差しを感じられるようになりましたね。花粉も結構飛んで大変な時期でもありますが、のんびりしてる私も色々と動きが出て来ました。
今年は10thアルバム「AYU NO KAZE」を出したことが本当に大きく、しっかり自分の音楽を表現出来たので、音楽活動も次の段階へ入った感じがひしひしとしています。
私は自分で何でもやって来ました。作曲も、演奏会の企画も、毎月の琵琶樂人倶楽部も、CDアルバムの録音・リリースも、人脈創りも、とにかく自分でやって来ました。別に大変と思った事はありません。音楽家で生きるのはベンチャー企業を立て上げるのと一緒ですので、他のジャンルでは当たり前の音楽活動です。
邦楽や雅楽のように流派や肩書で体裁をつけても、実情は先生と呼ばれるアマチュアばかりで、自由にものも言えず活動も出来ないような中では、私の音楽に対する想いは成就しないとずっと感じていましたので、全部自分で責任を負わなくてはいけませんが、自由な立場で何でも自分でやれば、自分の思うように出来るので、こうしてやってこれて楽しかったというのが本音です。

かつて三島由紀夫は、ジェンダーマイノリティーに対し、社会的に認めてもらえないからこそ純粋であろうとするのであって、認められたとたんスーパーに並んでいる安売りの商品のようになってしまう、と発言してしまいましたが、社会的な肩書や体裁があるということは、私には足かせにしか感じられなかったのです。

オリエンタルアイズジャケットm

私は私の音楽をやりたかったし成就したかったのです。それが最初に一つの形となったのが1stアルバムの「Orientalyes」であり、今回の10thアルバム「AYU NO KAZE」で成就に至る一つの時点に達したと実感しました。
聖書の有名な言葉で、イエスキリストは「破壊しに来たのではない、成就しに来た」と言っていますが、私も過去の琵琶樂を破壊したい訳ではなく、千年以上に渡ってずっと紡がれて来た琵琶樂を最先端の日本音楽へと表し、その先へと響かせたいというその想いを成就する為に、現行の邦楽の在り方とは違うやり方をするべきだろうと考えたのです。だから古典を自分なりに学び、最善と思はれる方法で琵琶樂に取り組んできたのです。まあイエス様と比べるのもいかがなものかと思いますが。

人間生きていればままならない事の方が多いかと思います。日々目の前の欲望は常に尽きる事はなく、そういうものに振り回され、その中で生きています。しかしそういう欲望をかなえる事は「成就」という言葉を使うには値しません。「成就」に値するものは、もっと大きな目的や夢にも近い想いではないでしょうか。自分がどう生きたいのか、何をもって人生を全うしたいのか、その生きる根幹の部分こそ成就という言葉を持って実現したいものです。

2m

photo 新藤義久


今、琵琶と声の作品に取り組んでいますが、今後は前衛的な歌曲を琵琶と声の組み合わせで創り上げたいですね。私はずっと10代の頃からジャズやプログレ、現代音楽を聴いてきたし、オーソドックスよりは前衛的なものに惹かれてこれまで来たので、それらを自分のやり方で、自分の音楽として表現したいのです。今後は10thアルバムで発表した「凍れる月」シリーズのように、静寂感のある前衛作品をもっと創りたいと思っています。
声の作品で気になっている曲はジャンルを問はず色々とあります。以前聴きに行ったVnのパトリシア・コパチンスカヤの演奏したリゲティ―作曲「マカーブルの秘密」やシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」。若き日に石井紘美先生の所で聴いたルチアーノ・ベリオのセクエンツァ3なんかも未だに頭に残っています。皆20世紀の現代音楽ですが、私にはぐっと来るものが沢山あります。拙作「Voices」を創る時には細川俊夫さんの「恋歌」等も大いに参考にしました。私が今考えているのは歌よりも声ですね。声を伴った前衛作品をもっと琵琶樂の中に落とし込んで、琵琶と声でないと成立しないような静寂感と緊張感を持った作品を創りたいとずっと考えています。

1
Ms:の多由子先生と

これ迄、笛・ヴァイオリン・尺八等素晴らしいパートナーに恵まれて来ましたが、今回やっとアルバムで素晴らしい声のアーティストを迎えることが出来ました。実は1stアルバムに収録した「太陽と戦慄第二章」は私が声を出していますが、収録する前のバージョンでは琵琶二面とソプラノの組み合わせで作曲して上演もしました。ここ5.6年、やはり声を使った作品を創りたいという想いがまた蘇っていて、今回10thアルバムに入れた「Voices」がその第1曲目という訳です。

曲を創りそれを発表して形を表す事は、自分で道しるべを刻んで行くようなもの。自分のやりたい事を一つ一つ実行して、その先へと想う道へと進む事が幸せであり、そういう人生を歩んで行く事が成就への道程ではないでしょうか。地味なものであっても、自分で成就に向かって生きて行けるという事が一番の幸せだと思っています。

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.