今年はさほど演奏会が忙しくないので、次のアルバムに向けて作曲にいそしんでいます。まあいつものようにのんびりとやっているのですが、曲が出来上がって行くのは本当に楽しいのです、それが録音されて世に出るとまた更に喜びが増しますね。
10年15年前は、どう頑張ってもショウビジネスの音楽以外は小さな範囲でしかCDが流通しませんでした。しかし今は本当に良い時代になって、リリース即世界発売状態ですから、毎月国別で表示されている売り上げレポートを見ていると、色んな国の方に聴いてもらっているのが目で判るのも嬉しいです。エンタテイメントの音楽とは程遠いので売り上げは細々ですが、世界中の方が聴いてくれていると思うと俄然元気も出て来ます。





私はこれ迄11枚のアルバムを出してきました。中には未発表作曲を含んだオムニバスも2枚ありますが、とにかく全て私の作曲作品で、リリースしている曲は60曲程になります。次回のアルバムは最近よくこのブログにも登場するメゾソプラノ・琵琶・笛による「Voices」、そして独奏曲「東風(あゆのかぜ)」をメインにして、その他最近作曲した「凍れる月~第二章」「蒼き風」等も収録予定です。
私は琵琶で活動を始めてから本当に演奏会に恵まれ、全国を回らせてもらい、時に海外でも機会を頂きました。何かの「はからい」に導かれているといつも感じています。またそれだけではなく曲を創ってアルバムをリリースする事も、私に与えられた何か使命のようなものだと思っています。アーティストとは皆「どうしてもやらずにいられない」という激しい程に沸き起こるものがあるものですが、その気持ちこそ与えられた使命なのかもしれません。
若き日、ジャズギタリストを目指していた私は、技を駆使してアドリブ自慢で盛り上がっているミュージシャン達に違和感をずっと感じていました。私が感激して追いかけていたジャズジャイアンツは演奏も超絶でしたが、それ以上に他には無い独自の世界を創り上げ、私はその作品や世界観に感激して惹きつけられたのに、自分の周りの現実は、常にアメリカコンプレックスから抜けられず、有名ミュージシャンの物真似をしてご満悦な人ばかりで、そこには音楽を創って行こうという創造性はほとんど感じられず、心底がっかりしていたのです。
私自身もアメリカの音楽に対しコンプレックスがあったのでしょう。だから物真似ではない、この風土から沸き上がる独自の音楽をやりたいと思って琵琶に持ち替えたのです。邦楽にも世界中の人が感激するような素敵な曲がもっともっと出てきて欲しいですね。
どんなジャンルの芸術家も皆、創り続けるから作家であり、画家であり、詩人なのです。だから私はどんなジャンルでも上手さを披露しようとするプレイヤーは聴きません。何よりも表現者として、どんな音楽をやるのかという所を聴きます。
皆さんは教室で習った曲を上手に弾いているような旦那芸を、わざわざ舞台で聴きたいですか。アーティストのコンサートに行くのなら、どんなものをやってくれるのだろうとワクワクしながら会場に足を運び、次のアルバムを楽しみにしてアーティストの演奏を聴いてたのではないですか。今、若手に素晴らしい邦楽家が出て来ているので大変期待をしています。流派の曲を上手に弾くようなレベルを超えて音楽を創って行く本当の芸術家にどんどん活躍して欲しいですね。
私は一緒に演奏する仲間達も、常に私の想像を超えるようなものを描き出してくれる、創造性溢れる演奏をしてくれる方を厳選して頼んでいます。でないと私自身がやっていてつまらないですからね。
琵琶といえば弾き語りがスタンダードなスタイルですが、私はもうほとんど弾き語りをやらなくなってしまいました。一時期はオリジナの弾き語り曲も創ってやってみたのですが、自分が弾き語りをやっている姿がどうにもしっくりと来なくて、もうここ7,8年で平家の弾き語りなどやるのは年に一,二度になってしまいました。2018年1月にリリースした「沙羅双樹Ⅲ」でオリジナルの「壇ノ浦」を録音したのを最後に、いわゆる琵琶歌は本当にやらなくなってしまいまして、舞台で通してやったのは昨年の静岡の公演位でしょうか。先日琵琶樂人倶楽部でちょっとやりましたが、やっぱりしっくりこないですね。何だかサッカーのユニホームを着て野球をやっているような気分でした。
ただ声を伴った作品は色々と考えていて、昨年初演した「Voices」のような歌のある現代曲は、ふさわしい歌い手に任せています。私は琵琶の音色に惚れ込んでやって来たので、これからも琵琶の器楽曲の作曲と演奏をどんどん突き詰めて行くのが自分らしい。常識や因習にとらわれることなく、どこまでも自分の世界を突き進む事こそ、私に与えられた私の仕事ですし、自分に似合わない物を意地を張ってやっているような次元の低いメンタルでは良いものは創れません。
また単なるプレイヤーとして稼ぐような仕事も少しづつ止めています。今年に入って随分色んな仕事の依頼を断りました。今までで今年が一番断る数が多いですね。周りの人からは「もったいない」とよく言われますが、納得できないものはやっても良いものが出来ないし、私のようなスタイルでは伴奏にもならず相手もやりにくいでしょう。もうそろそろ仕事も厳選して行く頃だとも思っています。一緒になって創ることが出来ない方とは仕事は出来ません。花柳面先生や津村禮次郎先生のような、音楽と対等に向き合って舞台を創って行こうとする方は本当に本当に少ないです。踊り手でも歌手でも役者でも、音楽を単なる伴奏程度にしか思っていない人が多いですね。そういう人は音楽そのものにあまり興味がないのか、音楽を聴いてきてないのでしょう。とにかく自分の音楽を存分に表現して行きたいのです。
これからが楽しみです。