コロナも一段落ついて世の中も動き出しているような気がするのですが、同時に騒がしく感じる事が多いです。戻って来たという方も居ますが、私は年季が入って来たのか、もっと静かな暮らしがしたいな、と思う事が年々増えて来ました。
以前「才能は静けさの中で作られ、性格は激流の中で作られる」というゲーテの言葉を載せました。これは実に納得のいく言葉として私の中に残っています。しかしもう性格は充分に作られてきましたので、激流の中に身を置くのはそろそろいいかなとも思っています。ただ音楽は社会と共に在るので、山にこもっているだけでは作品は創れません。つまり都会を逃げ出しただけでは私の人生も音楽も成就しないのです。今後の活動を考えると、じっくり私の音楽を聴いてもらえる演奏会をやりながら、静かな環境に身を置けるように、自分を取り巻く形を整えて行きたいですね。
基本的に私は大人数で動く事が苦手なタイプで、いつも書いているモットー「媚びない・群れない・寄りかからない」というのは私自身の性格でもあります。まあつまりは天邪鬼という事ですな。
しかし何でも自分の中だけで完結していては、大したことは出来ません。それはオタクと同じです。仲間と群れていようと一人でやろうと、自分という枠の中からしかものが見えないようでは、大した事も出来ないし、何事も成就しないのです。
湯島聖堂にある孔子像
孔門十哲として知られる子貢という人が、ある時孔子から「お前は瑚璉だな」と言われたそうです。瑚璉とは、宗廟を祭る時に供物を入れる器の事。玉などをちりばめてあり、大変貴重で器の中の器と言われる最上のものですが、孔子の言葉は決して誉め言葉ではなかったようです。つまり世にいう才人は自分の才能を誇り、自分の力でのし上がろうとします。そして自分にこだわるばかりに、自分の周りの人を生かすことが出来ず、自分を忘れる事が出来ない状態だと言っています。いくら素晴らしい器でも、他を生かすことが出来ないのであれば、素晴らしい瑚璉でも器は器、君子には成れないと言っています。
確かに能力のある人はそれなりの仕事は出来るでしょう。しかしそれは見事な芸という所から離れることは出来ません。自分という小さな器を誇っているだけです。いつも書いていますが、マイルス・デイビスの音楽を聴いていると、周りの才能が生きるように音楽を創っていているのが良く解ります。だから聴く度にリスナーを魅了し、その音楽には無限の可能性を感じる事が出来るのです、今になってみて、更にそのスケールの大きさを感じますね。
上手さや肩書を掲げて自分を誇り、他と比べて自己顕示欲を満足させて喜んでいるような小さな枠の中の村人感覚に留まっている内は、そこ迄でしかありません。またいくら表面的には控えめな姿勢を取っていても、自分の中がこんな心の状態では、やはりその程度の器でしかないのです。それも小さな小さな器でしかないのです。上っ面ではなく、自分が見据えているのが何処かという問題です。かつて日本音楽文化を創って来た世阿弥や明石覚一、宮城道雄、永田錦心など、次の時代へとバトンを渡すことを成し得た先達は、周りの人を次の時代へと導き、その才能を生かすことが出来る器だったのです。音楽では、綺麗な飾りのついた器を披露しているようなお上手な人は沢山居ますが、大きな器で人を受け入れ、更にその器を超えて人を育てるような邦楽人はあまり見かけませんね。
私は自分の生き方しか出来ませんし自分の事で精一杯なので、人を育てるような器ではありません。まあ自分の人生において、出来るだけなるべく視野を広げながら自分らしい生き方をして行こうと思っています。少し静かな場所に身を置きたいと常々願っているものの、社会との繋がりも適度に持ちながら創作活動もして、ゆったりと時間を過ごす事はなかなか難しいです。市街地にはもう私が落ち着いて生きて行ける場所は無いのかもしれません。静けさの中でゆったりと生きたいですね。以前載せた事がある藤枝のコテージは夢のような楽園で、私の一つの理想ですが、車の運転も出来ない私では、とても住めないですね。音楽活動も難しい。ふもとの方であれば何とか行けそうな気もするのですが・・。
都会には出逢いもあり、様々なものが生まれ出て、創作への刺激に溢れているものの、そろそろ次の段階へシフトして行きたいですね。外に広がる感性を持ちながら、己の中に在る音楽をもっと高めたいのです。
有難い事に今はあまりコストをかけず、音楽を世界に配信出来るシステムがあるので、アーティストとしては、常に外と繋がっている状態を保てることが出来、大変にありがたい時代です。それに伴い演奏会の在り方もどんどん変わって行くでしょう。そんな時代に個人的な名人芸の「瑚璉」として終わるか、それとも演奏する人が生き生きと表現できる作品を発表し、その曲が後の人にも受け継がれて行くような作品を遺す事が出来るか、本当の中身が問われますね。
ちょっとお知らせ
池袋FMという局で「金曜日のポエトリー」という番組があります。パーソナリティーは以前より色々とお付き合いを頂いている、アートイベントのプロデューサーであり歌人でもある立花美和さん。以前にも出演したことがあるのですが、6月は2日の放送からマンスリーゲストとして私が色々喋っています。
池袋FM 池袋FM公式サイト (ikebukurofm.com)
「金曜日のポエトリー」毎週金曜日19時30分~19時45分に放送。
インターネットラジオですので、どこからでも聴くことが出来ます。
視聴方法は、RADIO 現在放送中の番組│池袋FM オフィシャルサイト (ikebukurofm.com)
お暇な方は是非どうぞ。
さて、私は静かな暮らしに入ったとして、どんな作品を残して行けるでしょうか。都会の中から生まれ出た音楽と、静かな環境から生み出されるであろう音楽の変化を楽しみたいですね。