もうすっかり半袖生活になりましたね。ちょっと間が空いてしまいました。今年は花粉症にもあまり悩まされなかったし体調も良いのですが、5月は両親の命日でもありますし、琵琶の演奏活動を始めた頃に大変お世話になった方も5月に旅立っているので、さわやかな風を感じながらも、少しばかり神妙な気分です。
先ずお知らせが一つあります。夏に予定されていたヨーロッパツアーですが、琵琶の機内への持ち込みを許可してくれる航空会社が見つからず、今回は断念しました。大変に残念ではありますが、致し方ないですね。分解型を持って行こうとも思いましたが、今回はデンマークやスペインで現地に在住のハイレベルな尺八奏者と「まろばし」の演奏も予定していたので、やはりいつもの大型の琵琶以外には考えられないなと思い、また長いツアーですので途中の移動の事やチームの予算の事なども考え、断念せざるを得ませんでした。またの機会を待つこととします。
世の中は常に移り変わるので、10年前は良くても今ではだめなんて事も多々あります。機内持ち込みに関しても色々規定が変わっているのでしょう。象牙に関しても厳しくなっているのでしょうね。私は使う全ての琵琶を象牙レス仕様にしているので、その点については心配は無いですが、コロナの少し前には海外への琵琶の運搬を運送会社に頼んだ方が、象牙を使っているという理由で断られたそうです。ヴァイオリンの弓に象牙の細工があった為に、フランクフルトの空港で没収されたなんて事件もありましたね。
人間は自分で変化を創り出しているつもりになっていますが、個人が世の潮流に合わせて変化して行くのは、なかなか難しいものです。自分に合う所や出来る所はすぐに対応するのに、対応できない所はいつ迄経っても心も体も付いて行かない。未だ象牙でないと良い音がしないという方も多いですし、「三味線の皮は若い犬や猫の皮でなければ使えない」「薩摩琵琶は武士道の音楽である」と叩き込まれ教えられた「これはこういうものだ」という観念から解放されるのは容易ではありません。
しかし世の中には、様々な人が居て、相容れない考え方生き方が溢れかえっています。小さな村の中で生きるのであれば、自分と同じ考え方同志、軋轢も無くやって行けるでしょうが、世の中は多様化をどんどんと突き進んでいます。LGBTQが今話題ですが、私が音楽活動を開始した20歳の頃から、そんな方々は周りに沢山居ました。性転換手術をした人も居れば、普段から身体とは別の性を自認して暮らしている人も沢山居ます。私は随分とそんな多様な中で生きて来ましたが、そんな私でも昨今の流れには、驚くようなことが多々あります。自分が思う程、個人のキャパは大きくないのです。
私は何か流れに乗れないと思った時には静かにのんびり頭と体を休めるようにしています。強い流れに対抗するよりも、先ずは自分自身に一番近い所に立ち返り、改めてその流れの中に入って行くと、自分がどうすればよいか、そんな道筋も見えてくるものです。こういう時には定番でやっている事以外には特に活動もせず、のんびり散歩でもしながら時が来るのを持っています。
アーティストはその時々の自分を曝け出して行くのが本来の姿だとも思っているので、焦って練習したりしてもあまり良い結果は得られません。練習を積み重ね練り上げた芸を披露するようになってしまうと、その技に寄りかかり、上手な自分に満足してしまう。それでは音楽に命は宿らないと思うのですが如何でしょう。作品を創って行くのがアーティスト。その本来の姿勢を忘れてはいけません。私はその時々の我が身を曝け出してこそアーティストだと思っています。
発想が浮ばない時には基礎練習でもしていれば、その内気持ちも開けてくるものです。
最近は世の中も随分と様変わりしたと感じてます。戦争や近隣国との緊張関係は勿論ですが、凶悪事件が普通に生きている人々の周りで頻発し、力による支配という感覚が、個人のレベルで行き渡りつつあると感じる事が多くなりました。私はSNSを全くやっていませんので、ネットで少しばかり見る程度で、あまり世の中の事を知らない方ですが、それでも世の中に対して良い風を、今感じません。
何かに怒ったり争ったりする負のエネルギーは確かに一種のパワーを生みますが、そのパワーをよい事に上手く使う事は難しいです。負のパワーで目の前の事を何とかしても、結局負の連鎖にしかなりません。今の世界の状況の中では、力も必要な部分もあるでしょう。黙ってみているだけでは物事は解決しないので、平和ボケになる訳には行きません。自由は勝ち取るものという意味も自分でよく感じています。しかし最後には穏やかな心でしか平和は実現しないことを悟るような気がします。
音楽も同様、目の前の楽しさや格好良さを追いかけても、目の前を紛らわしているだけに終わります。エンターテインすることは良い事ですが、目の前の賑やかしで商売する事や名を挙げる事ばかりに気を囚われていては消費されるだけで、それは言い換えればいつも商人として何かと戦っている状態です。私にはとても出来ません。少なくともそういう姿勢はアーティストではないと私は思っています。
最後に今週土曜日にある櫛部妙有さんの朗読会お知らせを。会場の季楽堂は、とても良い空間で、ここに来るだけで気持ちが安らぐような素朴で懐かしい感じの素晴らしいスペースです。今期の演目は、「傀儡谷」。そして私は独奏曲「風の宴」を演奏します。是非お越しください。
激流とも言える世の中に、穏やかなエネルギーが満ちて、豊かな音楽が溢れる時代が来て欲しいですね。