受け継がれるもの

ちょっとばかり奈良に行ってました。
今回は色々と用事があったので、あまり回れませんでしたが、落ち着いた良い場所にも出逢え、ならまちの風情や食事も楽しんできました。

私が奈良に行き始めたのは20数年前。1週間程宿を取り、奈良中を歩き回ったのが最初です。それから2,3年おきに行っているのですが、直近は2020年。葛城周辺や浄瑠璃寺・岩船寺など巡ってきました。2018年に再訪した秋篠寺も記憶に残っています。

私は観光客が押し寄せる所は全く興味がないので、東大寺の大仏殿などは近くを通っても素通りするだけです。旅に出たら必ず周辺の歴史を感じる所をぶらぶらして帰るのが毎度の習わしなのですが、お寺や神社でも、参道に土産物屋さんが立ち並び、ジュースやアイスを手にした観光客がワサワサ居るような所は、私にはただの宗教テーマパークにしか見えません。
大きなお寺でも、先日行った総持寺や唐招提寺などは凛として気持ち良いですね。道元さんが最初に開いた宇治の興正寺等も静かな時間が流れていて素敵でした。静寂に包まれたところが良いですね。
京都も一泊しましたが、もう夜でも外国人旅行客が沸いて出てくるほどに闊歩していて、私が楽しめそうなところは少なくなってしまいました。しかし奈良はまだまだしっとりとした、静謐ともいえるような風情の所が沢山あります。

円城寺


今回は仕事半分でしたので、あまり見て回ることが出来なかったですが、柳生の里の少し手前にある、忍辱山円城寺が何と言っても素晴らしかったです。秋篠寺のような澄み切った静謐という感じよりも、自然の中にしっとりと佇むという風情。境内全てに於いて人の手が入り過ぎず、でもしっかり目が行き届いていて自然と調和している姿は最高でした。以前ならまちを抜けて新薬師寺~白揮寺~柳生街道(途中までしか行けなかったので、戻ってバスを使って)柳生の里~笠置寺辺りをぶらぶらと歩いたことがあります。ああいう中に居ると、人間が生きて行くという事がとても丁寧な日々の中にこそあると感じられます。

柳生街道


そして奈良に行ったら、「もちいどの商店街」にあるレストラン「あるるかん」に必ず寄ります。20数年前最初奈良に行った時から行ってます。以前は親父さんが大きな体で頑張ってましたが、ここ数年は息子さん(?)が後を継いで頑張っている街の洋食屋さん(結構本格的なものも出します)なんです。大きめのゆったりとした店内なんですが、とにかくいつ行っても清潔で綺麗に整えられていて、20数年たっても当時のままで余計なものが無いのが素晴らしい。そして何より先代ゆずりの優しい味付けがしっかり受け継がれているので、ついつい色々と注文してしまいます。今回もたっぷり食べて来ました。

正倉院正面 この時期特別に目の前まで行く事が出来ました。


奈良に行くと、お寺にしても、こんな小さな個人商店にしても、「受け継ぐ」という事は何なのかをいつも感じます。今回は今井町にも寄りましたが、随分とカフェのようなお店が増えて、今井町のあの古い町並みにも変化を感じました。時は止まることが無いので、常に万物流転して行く世の中ですが、そういう流れの中に在って、心を伴わない形だけの継承は破滅への道を辿っているように見えます。今日本音楽の世界も「受け継ぐとは何なのか」という事を今一番考えなくてはいけない時期なのではないでしょうか。

都会の人間は形式や組織など目に見える体裁ばかり気にしますが、奈良に居ると、そんな事よりもこの風情こそ受け継ぎたいといつも感じます。目の前の景色ではないのです。形は心の具現化であって、心があってはじめて形に風情が出てくるのではないでしょうか。人間の都合だけで綺麗に表面を整えメッキしたようなものに風情を感じられますか?。AIが今後世に蔓延っても、人間は自然との調和の中以外では存在出来ないのです。経済優先で弱者を見捨て、公害をまき散らし、目の前の豪華さを追求する感性がいかに危ういか、心ある人なら判っているはずです。正に今は「物で栄えて、心で滅ぶ」時代。子供から大人までその心がいかに乱れ感性が鈍っているか、日々のニュースが物語っています。この風土が長い時間を経て受け継いできたものを、美しいものとして次世代へと渡して行きたいですね。

AsのSOON・Kimさんと
(Kimさんは20代にNYに渡り、オーネット・コールマンのもとで直接教えを受けてきた方です。
現在ドイツに在住し、その教えを自分なりに継承すべく活動しています)


東京に戻ったのは平日の午後6時過ぎ。中央線は通勤ラッシュでごった返し、もうその異常さにふらふらしてしまいました。そろそろ東京には居られないかもしれないですね。

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