風の中のあなた

先日の琵琶樂人倶楽部は盛況の内に終わりました。琵琶人も沢山来てくれて、久しぶりに琵琶談義に花が咲きました。私は今回大型琵琶で弾き語りをしたのですが、案外これが良い感じで、今後も大型琵琶での弾き語りをやって行こうと思ってます。曲のつくりをもう少し工夫すると、かえって中型より琵琶の音色をより届けられると思いますし、とにかく囁くような小さな音から、強烈にドライブする爆音迄ダイナミックスが出るのが最高です。自分で弾き語るにせよ、別に語り手を立てるにせよ、これから新たな形の琵琶と声のスタイルが出来て行くような気がしています。こうしてやる度に色々な発見があるというのはワクワクして楽しいです。

福岡から来てくれた筑前琵琶の石橋旭姫さんとphoto 新藤義久

私は活動の最初から、ずっと誰かしらパートナーと組む事で演奏をしてきました。それは現在でも変わらずすっと続いています。だから私の作品の多くはデュオのスタイルなのです。
森有正の「孤独は孤独であるがゆえに貴いのではなく、運命によってそれが与えられた時に貴いのだ」という言葉を時々引用しますが、この言葉の後には「自分勝手に作り出した孤独程、無意味で醜いものはない」と続きます。これは今でも自分自身の根本的な在り方を示してくれた言葉だと思っています。この貴い孤独の状態が先ず自分の中に無いとアンサンブルが出来ません。私は自分で作曲しているという事もあり、私の創った譜面という土台の上で、相手に存分に演奏してもらって、私が相手の演奏を支えているとういう形が私の基本スタイルです。相手がどんな風に演奏しても、それを私が受け止めて、先へと導いて行くようにしています。相方には、「たとえ間違っても飛ばしてしまっても~自分が演奏したらこうなる~位の気概で演奏してください」と常に言ってます。その為にも自分の軸がぶれるようではアンサンブルは出来ません。

こんな形で常に演奏しているので、パートナーとの良い関係を紡いで行く事が、私の音楽活動と言ってもよいかと思います。それに全国色々な場所に呼ばれて行っている事を思えば、そういう音楽の周辺に居る方々との繋がりも大きな縁です。縁は音楽が響きだす一番の根底であり、縁なき所に音楽は生まれ得ません。これは琵琶を手にした時から一貫している私の想いです。もう少し言い方を変えると、この数十年の音楽家生活は、いかにパートナー~共演者だけでなく関わる人全て~というものが大切なのかを勉強する為にあったと思っています。
音楽活動をしてると、時に上手く行かない事もあるし、作曲も進まないこともありますが、そんな時はどこか感覚が閉じこもっている時ですね。自分だけで何とかしようと凝り固まっていると発想も出て来ませんね。

以前組んでいた邦楽アンサンブルまろばし、川崎能楽堂公演にて 2009年
左から筝:小笠原沙慧 日舞:五條詠二(現 詠寿郎)作編曲・琵琶:私 尺八:香川一朝 日舞:花柳面萌

私は風をテーマにした曲が多いので、風について想いを巡らすことが多いのですが、そうするとこれ迄共演した方や、関わってきた人の顔が浮かんで来ます。そして時に逢ったことが無い人も浮かんで来ます。そんな方々を風の中に見ていると、不思議な事に曲も浮かび上がってくるのです。
私の曲は作曲する時、その初めからすでに共演者を想定して書いています。これまで笛や尺八、語り、歌、ヴァイオリン、フルート、筝、珍しい所ではクリスタルボウルとやったり、ピアノやギター、そして多くの踊り手やパフォーマーとも一緒に舞台をやって来ましたが、いずれもそんな方々と一緒に舞台を創る演奏する為に、彼らの持っているスタイルが一番輝くような曲を書いてきました。皆さん本当に良い仲間達でしたが、そんな方々と何度も演奏するうちに成熟・発酵して、他の楽器でやってみたり、同じ楽器でも別の演奏家とやってみたりして、更に洗練されて行くという過程をどの曲も辿っています。

左:Vnの田澤明子先生と  右:Flの神谷和泉さんと  photo 新藤義久


先日ヴァイオリンの田澤明子先生とレコーディングした作品は琵琶独奏曲を除き、これ迄尺八、篠笛、フルートでやってきた曲ばかりでした。その中の「Eaynak~君の瞳」は、作曲時には共演者にフルートの神谷和泉さんを想定していました。数年前に神谷さんとの演奏会があり、その時の演奏曲として、エジプト文化大好きな彼女のアイデアを基に、彼女の個性に合う曲を創ろうという事から始まったのです。勿論初演も神谷さんですし、その後何度も彼女と演奏しましたが、曲がこなれてきた頃、田澤先生とのデュオの演奏会で、試しにヴァイオリンでやったらどうなるかと思い、お願いしてみたら、その演奏がなかなか良い感触で、フルートとはまた違う魅力が曲の中に見えて来ました。今回の録音企画ではヴァイオリンとのデュオという事でしたので、思い切って田澤先生に演奏してもらった次第です。次回は一回り成長したこの曲をフルートで録音したいと思っています。

笛の大浦典子さんと6thCD「風の軌跡」レコーディング時
今回の録音では琵琶の独奏曲「風の唄」と上述の「Eaynak~君の瞳」以外では、「花の行方」「まろばし」「塔里木旋回舞曲」を録音しました。この3曲はいずれもよく一緒に演奏している笛の大浦典子さんとのコンビで作曲初演した曲です。大浦さんからは、琵琶での活動を始めた最初より数々のアイデアを頂いています。また樂琵琶を勧めてくれたのも大浦さん。シルクロードオタクの私を見越して「雅楽スタイルではなく、自由に弾けばいいんじゃない」と言ってくれたおかげで、今のスタイルが出来上がりました。
曲というのは本当にその時々の姿があるもので、いつも尺八でやることの多い「まろばし」も初演の時は大浦さんの能管でした。しかし私の1stCD「Orientaleyes」では、スウェーデンの尺八奏者のグンナル・リンデルさんが吹いてくれました。振り返ってみると面白いものですね。あれからもう25年経ちましたが、今回はその「まろばし」をヴァイオリンで録音したのです。

他にも以前紹介しましたが「塔里木旋回舞曲」は台湾のピパ奏者 劉芛華さんと二胡奏者の林正欣さんがリサイタルで上演してくれました。命はこうして様々に形を変え受け継がれ、成長して行くのだな~~と、自分で創った曲ながら感心しています。だから何度やっても、何年やっても新たな魅力が輝きだして飽きが来ないのです。

今回のヴァイオリンとの録音は、早ければ6月中にはネット配信に挙がると思います。iTunesやスポティファイ、レコチョク等主要な所には全て出ますので、ぜひお聴きくださいませ。また改めてお知らせします。

大分能楽堂 寶山左左衛門追悼公演にて 福原道子さん、福原百桂さんと


風の中に浮かんで来る人々は、共演者だけでなく、リスナーの方々やアドバイスをくれた方、プライベートな友人知人等々・・。今ではもう遠く離れてしまった人も多いのですが、ふと想い出す(想い出ると言った方が合いますね)と、どんな人からも色々と教わっていたな、と感じますね。自分がそういう事を感じる年齢になったという事かもしれませんが、風の中に関わりの在った人達が見えている内は、大丈夫だろうと勝手に考えています。活動を続けて行くと、ある種の自信も付き、プライドも生まれて来ます。しかし自信は時に奢りともなり得ます。また一方謙遜する事も覚えて行きますが、そこには卑屈も生まれて来ます。こうしたバランスを良好に取れているのも、多くの人の関りの中で自分が生かされていると感じているからこそ。一人で何でも出来るなんて思いだしたら、このバランスは崩れてしまいます。これも器という事かもしれませんが、いつでもそんな風を感じていたいですね。

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