先日、島根県益田市にある芸術文化センターグラントワでの公演をやってきました。

この公演は「よみがえる戦国の宴」というシリーズのものの一つで、一昨年にも私は出演したのですが、今年は尺八の田中黎山君と二人で演奏してきました。グラントワのスタッフの方々は大変親身になってやってくれるので、各種手配から、終わってからのフォローまで決め細かい仕事ぶりで、今回も気持ちよく演奏することが出来ました。また行きたいですね。
そして前回行った時にも思ったのですが、益田の町は何ともノスタルジックな雰囲気があって、いい感じなのです。人口の割に飲み屋が多いというのも面白いし、今回はゆっくりと益田の町も堪能させていただきました。
前日から入ってリハーサルをしたのですが、今回は天候に大変恵まれ、清々しい月を見ることが出来、気分も上々。ちょうどリハーサルの日が中秋の名月、本番の日が満月で、この満月は今年一番小さく見える日とのことでした。月あかりに誘われるように前日、当日と益田の繁華街に繰り出したのですが、繁華街といってもレトロな飲み屋さん通りという風情で、街が月に照らされて良い雰囲気でした。お店に入ればグラントワのスタッフと知り合いの地元の皆さんが声をかけてきて、何ともアットホームな感じが気持ち良かったですね。街のサイズ感がジャストフィットという感じなのです。
東京は先日の台風の後などもそうでしたが、ラッシュアワーの過密ぶりが凄まじく、皆が殺気立って、ぶつぶつ文句を言う人や、イライラして感情を抑えきれない人が集団でひしめき合っている状態で、何か戦場のような様子です。かつてはこのラッシュアワーは繁栄の象徴だったことと思いますが、今ではこの様子が日本の民度と国家の凋落ぶりを示しているかのようです。
確かにこれだけ人が集中していると、アートに関して言えば発表の機会も増え、何かが始まるきっかけも多々有り、活動するにはやはり東京という事になるのですが、これからはどうでしょうか・・・?。
混沌とした都会から生まれる作品もあるかと思いますが、もうこの時代、東京でなくとも多くのものを発信出来るし、アーティストの在り方も変化して、私自身も少しづつ活動のやり方を考えてゆく時期に来ているような気がしています。この過密ぶりをストレスに感じることが多くなりました。

そんな風に思っている時期に益田に行ったので、広い空間と穏やかな人々の風情が沁みましたね。中でも今回ぐっと来たのは、70代のバーテンダーが一人でやっているバー「谷間」というお店。もう50年も営業しているのだそうです。
看板もかなりレトロな感じなのですが、しっかりとしたレベルを持ったバテンダーぶりで、皆さん色々なカクテルを飲まれていました。私は飲み慣れているシングルモルトを頂きましたが、良い仕事ぶりでしたね。是非ともまた行きたいものです。

一昨年のグラントワ公演より、語り部志人さんと
都会というのはいつの時代でも、どの国にでもあるのですが、ショウビジネスという枠を外して考えると、必ずしも都会から文化が発信されるとは言えないし、また都会を拠点にしないとやっていけないという事も無いと思います。ネット上は勿論の事、もうすでにどんどんと国境を乗り越えて、自由に行き来している時代です。特にアートの現場においては、ジェンダーですら既に超えている。アーティスト本人が広く世界を見渡していれば、もう東京の時代ではなくなって来ているのかもしれません。
今週末は熊本そして鹿児島。来月は高松、京都、愛知と旅は続きます。大体私は汎アジアという視点で琵琶を弾いているので、どんどんと足を延ばして越境するのが、私には相応しいのかもしれません。琵琶法師は放浪の民だったのですから・・・。
今回は移動が飛行機だったので、乗り慣れない私としては、2時間程度で東京=益田を行き来するのは、何とも体が追いつかない不思議な経験でしたが、とても良い旅となりました。また今回は久しぶりの飲み会の後、駅前の屋台ラーメン(塩味が最高!)でしめてきました。たまにはこういうのいいですね。
名月や 益田の夜の 道しるべ
いつかまた益田で演奏してみたいと思います。