呼び覚ますもの

ちょっと夏休状態でしたが、今週からいつもの日常に復帰です。あのままお休みが続くと昼間からビールを飲む癖がつきそうで怖いですな。

毎年8月は恒例のSPレコードコンサートを琵琶樂人倶楽部でやります。8月だけは日曜日の開催となり、時間も午後6時の開演になりますので、ご注意を!。19日午後6時開演。

今年は「永田錦心とその時代Ⅲ」と題しまして、明治初期から大正時代のラッパ録音の音源をかけます。SPレコードにはラッパに向かって録音するラッパ録音と、昭和に入ってからのマイクを使ったマイクロフォン録音(通は電気録音とも云います)の2種類があります。当然マイク録音の方が音量もあるし、音もはっきりとしていますが、SPの魅力はそんなところでは計れないのです。
ラッパからマイクになり、LPレコードになり、CD、データによる配信と、音を録音する技術は革新に継ぐ革新がこれからも進むでしょう。しかしその進歩と共に確実に何かを失っているのではないのか・・・・?。SPを聞けば聴く程にそう思えて仕方が無いのです。その失ってしまったであろうものをもう一度自分の中で見つめ直して欲しい、そんな想いから毎年このSPレコードコンサートを開催しています。

miyagi

SPの時代は当然一発録音なので、演奏家の方も気合が入っていますね。やり直しは一切効かないので、声楽の藤原義江などは歌詞を間違えたまま録音しているのもあります。そんなものを見つけるととわくわくして来るんです。当時レコードを出すという事は本当に限られた人だけに許されたことでしょうから、どれもその演奏のクオリティーは高く、素晴らしいレベルを持っています。クラシックなスタイルの録音のみですが、プロとして活動を展開する人が群雄割拠していた時代ですから、そのレベルは間違いなく今の琵琶人より数段上ですね。

正面にあるのがクレデンザ
確かに現代感覚からするとノイズにまみれたSPレコードの音は悪い。しかし名機クレデンザから響くその演奏はとんでもなく生々しく、直に演奏を聴いているような臨場感があるのです。CDでは絶対に味わえないものがありますよ!。

現代人は、今の方が何でも発展進化していると思いこんでいるかもしれませんが、便利という事に目を奪われ、多機能高性能というものに心が動くように洗脳されてしまって、実は中身を見ていないのではないでしょうか。綺麗で、上手で、ブランド力があり、多数派であり・・・そういうものを良しとする発想は、もうそろそろ止めませんか。少なくとも音楽においては・・・。
デジタルリヴァーブがかかってキラキラとしていても、ハイレゾになって音域が広がっても、いくら表面が整っていても、そういう事と良い音楽とは全く別の次元だという事は誰でも判っているはず。表面の綺麗さや豪華さでびっくりしていて、内面にまで目を向ける事をやめてしまっては、魅力ある音楽も生まれないし、感性も育たないと思うのは私だけではないでしょう。

若き日 カンツォーネ歌手 故佐藤重雄さんと南青山Mandalaにて

衰退の極みにある琵琶楽にとって、今大切な事は、まともに「音楽」に向き合う事なんじゃないかと思っています。先生に言われたことを真面目にこなす事ではない。そんな優等生的感性からは何も生まれないものです。明治期に最先端の琵琶楽を創り出した永田錦心の、そのエネルギーを聴き、感じ、又新たに創り出す、そんな姿勢が一番大事だと私は思います。音楽にとても力が漲っていたあの時代の演奏を是非聴いてもらいたいですね。
人生を賭け、命の危険さえも感じながら新しい琵琶楽を創り出した永田錦心の熱い志がきっと伝わってくると思いますよ。今、永田錦心のように人生を琵琶楽に捧げ生きている琵琶人はどれだけ居るだろう・・・・?。大体琵琶を生業としている人自体ほとんど見たことが無い。舞台にもろくに立たず、余裕の中で「琵琶はこうだ、琵琶唄はこうだ」と薀蓄を並べていても、そこにエネルギーが宿らないのは当たり前のこと。永田錦心の音楽と志と旺盛な活動を伝えている人が誰もいない今、残念ながらその時代のエネルギーは、生ではもう体験出来ません。しかしSPレコードにはその魅力がまだまだ詰まっているのです。

その中にたぎっているものを聴いて欲しい。SPレコードは、現代人が思う綺麗な音ではないだろうし、もう演奏スタイルも古臭く感じるかもしれませんが、そういう表面の形ではなく、その中にたぎっている「音楽」を是非聴いて下さい。きっと貴方の心の中の何かが呼び覚まされる事と思います。

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