秋風楽

秋の風が心地よい季節となりました。日々この位の気候だと身体も楽ですね。
そしてこの季節はまた一つの想い出に浸る頃でもあります。もう4年も前になりますが、私のよきアドヴァイザーだったH氏が亡くなったのがこの季節でした。時の経つのは早いもんですね。H氏がよく弾いていたこの琵琶も、また時間を作ってゆっくり弾いて、語りかけてあげようと思います。

H氏からは本当に多くのアドヴァイスをもらったので、何かにつけ氏の言葉を思い出すのですが、日々事あるごとに、「これは自分の中の迷いを気づかせる為」なのかな~~なんて風に勝手に考えています。

世の波騒の中で活動するには、穏やかで、人がよく、聡明で、やさしく・・・これでは残念ながら事は起こせません。活動を展開するには、闘争心も自己顕示欲も確かに必要だと思います。これが俗世というものなのでしょう。
しかし問題はその戦おうとする心に己が振り回されていないか、ということ。そこに尽きます。ここにその人の器というものがあるのです。往々にして戦うことを生きる上でのエネルギー源としてしまい、戦い、活動している自分に酔って自らが振り回され、興奮しているものです。それでは目的は成就しない。音楽活動でも、あちこち飛び回って活動している自分に酔っているようでは、自分の音楽を創り出すことは出来ないのです。

H氏からは色々と教わりましたが、結局、囚われない心を持つことを一番教わりましたね。世の波騒はもとより、自分のこだわり、目の前の意識、ちっぽけなプライド、そんなものに囚われず、進むべき道をしっかり進めという事です。

戯曲「良寛」公演より。笛の大浦紀子さんと

昨年の琵琶樂人倶楽部第100回記念演奏会に、私の尊敬する語りの方が来てくれたのですが、「薩摩琵琶は一歩間違えると、男の自己満足の音楽になってしまうようなところがありますね」と言っておられました。私は、ちょうどフル回転状態で飛び回って演奏活動をしていたこともあって、その言葉に一つの反省をしました。大声出して歌い、弾ききる、そのパワフルさに自分で酔ってしまっている姿は、私も以前より一番避けたい姿であり、琵琶に対する一番低俗な姿勢だと思っていました。その方の言葉は私に向けられたものかどうか判りませんが、H氏の言葉ももう一度思い出し、自分の姿を振り返りました。これも節目に当たって与えられた一つの経験ですね。

結局自分の心の弱さが、表面的な力強さを誇示し、目の前の敵を作り出し、低次元の欲望を自ら増殖させて、それに振り回されてカッカしているのです。そんなことよりも自分のヴィジョンの実現こそ第一でなくては、ただ波騒に飲み込まれ老いて行くだけです。がんばる=戦うになってしまっては何も生み出せませないのです。

琵琶樂人倶楽部10周年記念演奏会 於:リブロホール

私はまだまだその辺りの心が澄み切っていないのでしょう。だからこそ私は少しづつ、本当に少しづつ自分の心のベールを取り除き、クリアにしてゆく作業を、日々繰り返しているともいえます。それもH氏のアドヴァイスがあったからこそだと思っています。何かにつけH氏のことを思い出す。そこも私の心の弱さかもしれませんね。まあ氏に出会ったのも運命なのでしょう。また離れたのも運命だったのでしょう。

さて、いよいよレコーディングが迫ってきました。今回も良い作品を作りたいです。お見事さを聞かせるのではなく、今現在の私の姿をそのまま録りたいと思っています。
そして今回も澤田惠子先生作品をジャケットに使わせてもらうことになりました。もう10年以上前、大阪堺のギャラリー「いろはに」での出逢いから長い月日が経ちましたが、今回で先生の作品を使わせていただいたCDは5枚になります。縁は異なものですね。更に、沙羅双樹の題字は、沙羅双樹Ⅰから毎回白石和楓先生の書を使わせてもらっています。
こうして人の縁があり、作品が出来上がってゆくということを、年を重ねるごとに思うようになりました。自分が何かに囚われていたら、こうした縁も見えてこない。先ずは自分自身がクリアになって自分本来の姿で生きて行かないと、良い仕事は出来ないのです。心を落ち着かせて確実に取り組んで行きたいものです。

さて、今週は、前にもお知らせした琵琶樂人倶楽部「次代を担う奏者達Ⅴ」、そのすぐ後には、島根県益田グラントワにて、東保光君作演出の舞台を務めてきます。帰ってきてきてすぐに、日本橋富沢町樂琵会。笛の大浦紀子さんと久しぶりにREflectionsコンビにてたっぷりと樂琵琶を弾きます。

忙しく動いているのは、音楽家として本当にありがたく、また嬉しいこと。その上で、しっかりとヴィジョンを見つめ、充実した作品を作って行きたいです。これが私に与えられた仕事ですからね。

是非是非御贔屓に!!

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