先日、陶芸家の佐藤三津江さんの作品集出版記念パーティーにて演奏してきました。場所は日本橋YUITOアネックスにある三重テラスという所で、しっかり美味しい料理も頂いてきました。


佐藤さんとはもうかれこれ20年以上のお付き合いがあり、佐藤さんの主催する「江の京窯」の窯開きのパーティーでも記念演奏をさせていただきました。個展にもその都度伺っていたのですが、この度佐藤さんの作品が文芸社より作品集として出版され、今回はそのお披露目のパーティーという訳です。
佐藤さんの作品はとにかく発想の自由さがいいですね。内に秘めた力強さを充分に湛えながらも、それを前面に出さず、あえてユーモラスな姿にしていて、その作品はどれも動き出しそうな「動感」に溢れています。ここ20年の作品をずっと観てきたので、どんどんと充実してくる彼女の世界が今回、一つの結実をみたように思います。勿論ここで留まる事はないだろうし、これからも淡々と自分の世界を邁進することと思いますが、大上段に構えてガツガツやるのではなく、あくまで自分のペースで進んでゆくのが彼女のスタイル。ともすると力が入りすぎる私には、毎度よい勉強をさせてもらってます。
この日の司会は、帯の推薦文も書いている古典芸能ではおなじみの葛西聖司さん。佐藤さんのだんな様の旧いご友人だそうです。私は葛西さんとは、有明芸術教育短期大学でお世話になっていた頃から、何度かお会いしているのですが、今回はゆっくりとお話しすることが出来、私にとっても良い機会となりました。
葛西さんは古典芸能はもちろんのこと、琵琶についてもなかなかの見識を持っていらっしゃるので、色々と二人でトークをしながらの演奏となりました。最後にご祝儀曲として「高砂」をやったのですが、会場の皆さんに、軽妙な語り口で「高砂」の説明をしてくれて、とてもよい雰囲気で演奏することができました。さすがどの道に於いてもプロの仕事は素晴らしいですね。
会場には、フラメンコピアノの安藤紀子さん、書家の田中逸齋さん、それから私が以前主催していたアンサンブルグループ「まろばし」の応援団長 井尻憲一先生などなど久しぶりにお会いする方々もいて、本当に楽しいひと時でした。


佐藤さんの作品や人柄をはじめ、こうした方々と居るといつも「質感」という言葉を思い出します。人でも、物でも何か共感できる所を持っている対象と逢うと、ググっと通じるものを感じるのです。服や時計などの身につけるものもそうなのですが、私が無意識に選んでいるものは、皆ぐっとくる「質感」を持っているのです。当然世の中には真逆もあるのですが、最近では歳をとったせいか、真逆なものの中にも、どこか自分に相通じ、また自分のネガティブな面を照らし出していると感じることもあります。ただまあ真逆なものを手に取る所まではいかないのですが・・・。
ネットから拾ってきた同型の写真です
先日もギターマニアのUさんが68年製のギブソンES-175を手に入れたというので、弾かせていただきました。私は分不相応にも10代の終わりに同じ68年製のES-175を偶然にも安く手に入れて使っていました。このギターは世界のトッププロが必ずといってよいほど使うギターで、このギターの音がイコールジャズの音、とまでいわれるようなスタンダードなものなのです。しかし若い私には、当時その良さも何も判らず、流行のギターと交換してしまいました。その後私は何故かギブソン社の68年製のギターに縁があり、いくつか弾いていたのですが、久しぶりに68年のES-175を弾いたら、とたんにビビビっと来てしまいました。あの質感が甦ったのです。
何十年もジャズを聴いてきて、自分で感じる王道のジャズのトーンが、ES-175のあの質感と結びついていたのです。若き日にはその良さが判らなかったものの、しっかりと独特の質感は記憶の奥底に残って、ジャズの音として結びついていたんですね。あらためて68年製のこのギターを弾いてみると、何とも濡れたような感触で、しっくりと馴染むのです。懐かしいやら気持ちよいやら・・・何ともいえない気分でした。久しぶりに酔うような音色でした。

佐藤さんのパーティーと同時開催された個展はもう終わってしまったのですが、是非本をご覧になってみてください。気持ちの良い時間が訪れますよ。
質感が良いと感じる人や物、世界等々、こうした気持ちの良いものがまわりに多くあると幸せですね。
これからも共感できる質感を求めて行きたいと思います。