いざなふ月2016

毎日忙しい日々を送らせてもらって、本当にありがたい限りです。先日15日は十五夜ということで、門前仲町の料理屋さん「花咲きババ」という新しく出来たお店で、オープン記念を兼ねてお月見演奏会をやってきました。

お店の方と一緒に

この時期は本当に毎年毎年、大小様々な仕事を頂いて飛び回っています。ありがたいですね。音楽家は舞台に立ってなんぼ。私はとにもかくにも演奏を聴いていただくのが何よりも喜びなのです。考えてみれば肩書きも何も無い私が、琵琶を生業としているというのだからありがたいという意外に言葉は無いですね。それも樂琵琶の秘曲を除いてすべて全ての曲を自分で作曲し、それを聞いていただいているというのですからまさに奇跡的!!。こうして生かされていることを感謝するのみです。
先日上演した戯曲「良寛」でも思いましたが、良寛の揺るぎない根本精神や、何にも寄りかからず無垢な心のままに生きたその姿は実に魅力的です。それこそが後世の人々を惹きつけたように、私もヴィジョンを持ち、自分で納得の行くように作曲し、演奏するのが一番性に合いますし、また良寛や永田錦心に及ばずとも、それを貫いてゆこうと思います。

私の目標は月の光のような音楽です。けっして太陽のように燦燦と輝く光ではありません。月の光はすべてを照らす訳ではありませんし、その光は暗闇に程近いものでもありますが、静かに包み込むように地を照らし、一見エネルギーが弱いかのように見えて、実はどこか人の心を惑わしてしまうような、魅惑的なところも持っている。そして何よりも静寂に満ちている。そんな月の光のような音楽が、私の究極の望みなのです。それには具体性よりも、抽象性ということが大きなキーワードとなりますね。また月の光は、私の詩情をじわじわと掻き立てます。夜というもの、月というものが無かったら私は作曲をしていなかったでしょう。

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月明かりの元で。京都清流亭演奏会にて

近現代の芸術において抽象性こそは、その根底に流れる思想であり、スタイルであり、哲学であり、欠くべからざる感性なのです。また日本には世界に先駆けて、「わび」や「幽玄」という正に抽象主義を代表するような概念・哲学が既に中世に出来上がっていました。それは平安時代の「余情の美」等の感性からはじまり、室町に能として具現化して、さらに近世に入り芭蕉などを経て「さび」へとまた深まって、今に伝えられています。抽象というものが出てくるということは、哲学的にかなりの洗練を経ている証明です。私はこのあたりの精神文化、哲学を現代のやり方で、琵琶という楽器を通してやりたいのです。

筝曲には名曲「みだれ」があり、「春の海」という日本の印象派とも言える近現代の金字塔があります。残念ながら現代の薩摩琵琶には抽象性とは間逆の、父権的パワー主義でごり押しするような旧態がいつまで経っても抜けないのが残念でなりません。確かに薩摩琵琶の持っている文化は「地」の音楽であり、人間の感情を、言葉を伴って直接に表現してゆく音楽として今まで演奏されてきたので、良くも悪くも雅楽のような大きな世界観や抽象性というものがないのですが、琵琶樂を芸術音楽にしようと懸命に活動した永田の志は何処に行ってしまったのでしょう・・・・・?。

先月のキッドアイラックホールにて:ダンサー牧瀬茜 サックスSoon・Kim、映像ヒグマ春夫との即興演奏

私は5,6年は樂琵琶に於いて、月と風をテーマとし色々と作曲を重ねてきましたが、それは樂琵琶の音楽が、言葉を伴わず器楽として「啄木」のように感情表現ではなく、自然描写を音楽にする、印象派に近い感性を持っているから、現代的な抽象性ということも表現しやすかったからです。しかし琵琶で活動を始めた最初の頃は、まだ樂琵琶を手にしていなかったこともあり、薩摩琵琶で抽象性を確立したいと思い、色々な作品を作曲しました。初期作品としては、

「まろばし~尺八と琵琶の為の」
「時の揺曳~チェロ・フルート・琵琶の為の」
「太陽と旋律第二章~チェロ・フルート・琵琶・声の為の」
「in a silent way~筝・フルート・琵琶・声の為の」
「風の宴~琵琶独奏曲」

などの作品があります。これらは自分でも大のお気に入りなのですが、最近は改めてこの路線をこれからもどんどん進めてゆきたいと思っています。
ここ1,2年即興演奏にもまた取り組んでいるのですが、抽象性というものを描くには即興は良い手段だと思っています。ただそこに沈殿しないように、常に自分の中に美学を持って作曲、演奏、即興を行き来していきたいですね。

月5

月の光のように、人を柔らかく包み、誘う、そんな音楽を琵琶樂の中に確立したいのです。

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