すっかり秋になりましたね。先日の仲秋の名月・スーパームーンは久しぶりにゆったりとした気分になりました。
この所、毎日「忙しい忙しい」とのたまっておりますが、こういう時にはかえって隙間を見つける勘が働くようで、Metのアンコール上映の最後に滑り込んで「マクベス」を観て来ました。気分のリフレッシュということは勿論ですが、芸術的な刺激は心身ともに栄養をたっぷり注がれた感じで、色々なものにやる気が湧いてきます。
今季の配役は、マクベス役にジェリコ・ルチッチ、マクベス夫人役に今絶好調のアンナ・ネトレプコ、バンクォー役にルネ・ペーパというオールスターキャスト。見ごたえのある作品でした。
とにかくネトレプコは今絶好調ですね。凄い勢いを感じます。何年か前から観てきましたが、どんどんと上り坂を上がっている感じで、その弾けっぷりは半端ではないですね。メゾのジョイス・ディドナートも今が旬ですが、タイプが全く違っていて、この違いも面白い。こういう幅の広さがMetですね。このマクベス夫人はネトレプコのキャラにぴったりでした。
Metで主役を張る人は、言い換えれば世界の一流の仲間入りをしたとも言えるかと思いますが、その中でもこれはと思う人は必ず現代オペラを代表する世界の超一流になって行きますね。以前ブログにも書いたウクライナ出身のルドミラ・モナルティルスカなどもMet初出演で「アイーダ」の主役を張っていましたが、まだ英語もおぼつかないような無名の新人ながら既に舞台度胸といい、PPPからFFFまで柔軟にコントロールするハイレベルの技量は目を見張るものがありました。あれから数年を経て、今や世界を舞台に活躍している姿を見ると、何だか嬉しくなってしまいます。英国ロイヤルオペラ来日公演では、ネトレプコと同じマクベス夫人を務めたのが記憶に新しいです。さすがにMet。こういう新人は逃さないですね。

日々色々なものから多くの刺激を頂いているのですが、オペラからの刺激程大きなものはないですね。音楽家としての姿勢や演奏技術に対する厳しさ、
舞台を創り上げて行く創造性、世界に向けられた視線等々、音楽を生業としている私にとって、これほど多くの示唆を与えてくれるものはありません。世界の超一流の舞台で、人生の全てをかけてしのぎを削るからこそ、トップレベルのものが生み出される。これが音楽家として生きる姿なんだと、いつも感心しきりです。知り合いのメゾソプラノの方は食事から日常生活の態度まですべてを歌の為にコントロールして舞台に臨んでいます。それ位でなければレベルは維持できないのでしょう。

こうした舞台を観て、音楽を人生としている方々と接していると、同じ音楽家として、自分が人生をかけて行くものは何か、という問いかけが常に自分自身に向けられます。私は器楽としての琵琶楽を確立したい。それが自分の人生をかけるものであり、進むべき道です。その為に日々を生きている。そしてやればやるほど自分の行くべき所に特化して行きたいという想いが強くなります。
これからまた色々な活動を展開して行こうと思っていますが、自分の行くべき道を突き進みたいです。もう余計なものをやる訳にはいかない。たとえ小さな舞台であっても、納得出来る仕事をして行きたいのです。
是非邦楽もかつて永田錦心が願ったように、世界の人に多くの魅力と刺激を与える芸術音楽であって欲しいですね。