風に語りて~皐月

昨年に引き続き、良寛さんゆかりの地、新潟出雲崎へ行ってきました。戯曲公演「良寛」の取材旅行なのですが、昨年取材旅行に行った時には、ただただ良寛という人物を求めてその軌跡を辿ったのですが、今回の旅では良寛という存在は何だったのか、そんな所をじっくりと見てきました。

良寛堂2良寛堂

昨年の公演では、良寛という人物の魅力を追いかけていたと言って良いと思います。しかし今年の舞台に当たり、脚本やキャストが新しくなった事で、もう一度出雲崎に行って良寛を見つめ直してみようということで、主催・脚本の和久内明先生が企画して、出演者4人で行ってきました。

国上寺10前回は秋でしたが、今年は春でしたので景色が随分と違いました。国上寺2良寛の住んでいた五合庵のある国上寺周辺は、満開の八重桜(普賢象)がこれでもか!という位に咲き誇っていました。
天気にも恵まれ、さわやかで気持ちの良い風が吹き渡り、きっと良寛もこの風を感じて過ごしたことだろうと、感慨にふけってしまいました

今回は、昨年行けなかった長善館、信濃川大河津資料館、西照房など周ったのですが、そこから見えてきたのは、良寛を取り巻く人達の姿と共に、良寛が生きた時代、それも当時の出雲崎の姿でした。あの中で良寛という人が残したものは何だったのか、その部分を色々と感じました。結局追いかければ追いかける程、良寛を取り巻く人と状況を見て行かないと、良寛という
存在が見えてこないのです。

良寛堂5

良寛にはかなりの苦悩や煩悶があったのではないでしょうか。凄まじい水害に度々襲われ、作物はおろか家、田畑全てを失う事も度々あるような土地で生きるという事は、並大抵のことではありません。稲作も腰まで浸かって稲を育てなければならないような場所なので、ツツガムシ病なども多く、色々な面でかなり過酷な土地であったのは確かです。その出雲崎に一人、働くという行為をせずに暮らすというのは、良寛といえども自分の無力を嫌という程に味わい、自分の存在を深く考えざるを得なかったことだとうと思います。万葉集や古今集などの古典文学に親しみ、書を研鑽し、詩歌を書き、子供と毬をついて遊んで・・・・。こういう事ばかりに目が行き、憧れさえ持って良寛像に接するのは、あくまで現在の我々の視点であって、当時の出雲崎の状況を考えたら、ある意味とんでもない事です。いくら書が有名になろうが何だろうが、それでのんびり生きていられるような時代でも土地でもなかったと思います。

良寛堂4母の故郷である佐渡を望むように建てられた良寛像
色々調べてみると、良寛は結構アクティブに動いています。地元の人々とは随分と付き合いをしたようですし、分水路建設にも大きく関わりました。また儒学者鈴木文台と交流して、後の世を彼に託し、志を伝えて行きました。文台はその志を見事なまでに継承し、私塾長善館を作り、そこから長谷川泰をはじめとする、明治という新しい時代をリードする人材を次々に送り出しています。長谷川泰は自ら国会議員となって、医療の面で大きな改革を断行し、私立の医療専門学校である済生学舎を作って、吉岡弥生、野口英世、北里柴三郎などを育てました。こうして良寛の志はどんどんと広がり多くの人に受け継がれて行ったのです。済生学舎が女性にもその門戸を広げて行ったというのも、大きな功績でしたが、良寛の志を受け継いだからこその事と思います。

良寛は道元禅師を敬愛していました。しかし組織としての当時の曹洞宗に対し強い怒りと反発を持って、独自の道を歩みました。かなりの軋轢があったそうですが、そういう権威権力におもねることなく、信ずる道を貫く姿勢は長谷川泰にもしっかりと受け継がれ、長谷川もまた旧勢力を代表する山県有朋や当時のエリート達と渡り合いながら、後進に道を繋げていったのです。こういう気骨ある姿勢は現代に於いても常に胸に抱いておきたいものですね。逆にこの姿勢を忘れた時にはどんな分野でも衰退が始まるのだと思います。私はこういう良寛の生き方や矜持に、大変な共感と魅力を感じます。

昨年の舞台より

昨年の舞台のエンディング、ラスト8分間は、私の弾く樂琵琶独奏曲「春陽」で津村禮次郎先生が舞いました。その姿は良寛という個人の姿でなく、良寛であって且つ、維聲尼でもあり、貞心尼でもあり、文台でもありました。つまり良寛という個人ではなく、色々なものを取り巻く大きな存在としての良寛、そういう姿になって津村先生は舞いました。あの8分間の静寂は今でも忘れられません。あの姿こそ良寛が現代に立ち現れた姿だと思いました。
今回の旅では、良寛と共に生きた人々、出雲崎の人々、そして良寛の教えを受け継いで行った人々の存在を目の当たりにして、初めて良寛の存在が見え、良寛が起こし、吹き渡らせた大らかな風を感じることが出来たのです。

弥彦神社5今回も弥彦に泊まり、早朝、弥彦神社に参ってすがすがしい気分を味わってきました。また旅には必ず嬉しい出逢いがあるもので、今回も色々な場所で多くの出会いを頂きました。正に良寛に導かれた旅となりました。

良寛から吹き渡る風を感じ、想い、その風に語り、その風を舞台で是非表現して行きたいと思います。

今月の23日、高円寺の座高円寺2にてお待ちしております。

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