雨降りやまず

私の良きアドヴァイザーだったH氏が亡くなりました。ちょっと突然でしたので、心の整理がつかぬまま、先週末お通夜に行ってきました。

seingakubiwa

この琵琶は、氏が我家に来ると必ずお気に入りで弾いていた琵琶です。私が普段弾いているものよりちょっと小ぶりで、小柄な氏にはちょうど良かったようです。これからは私が弾いてあげようと思っています。H氏は私の樂琵琶のCDを最初に、熱狂的に支持してくれた人でした。演奏会にも何度となく駆けつけてくれて、時に厳しい意見も頂いたりしました。最後に聴いてくれたのは、先月9.11のイベントの演奏だったと思います。
樂琵琶をもっと弾くように勧めてくれたのは、正にH氏であり、琵琶で何を伝えるべきなのかを考えさせられ、そして行くべき道を示してくれた人でもあります。今の私のスタイルはH氏とのご縁があればこそだと思えてならないのです。

プライベートなことはほとんど話をしなかったので、氏がどんな状況にあったのか、私には全く見当がつかないまま、あまりにも急に、今生に私だけが残されてしまいました。

IMGP0160H氏といつも話していたのは、精神世界の話でした。私の知らない事をよく知っていて、チベット仏教、密教などに詳しく、上座部仏教の事を教えてくれたのもH氏でした。知識は勿論ですが、何よりも自分を見つめるという事の大切さを、とくとくと教えてもらったことが今私の財産になっています。

私は世間的に見れば、のんびり生きているような部類の人間かもしれませんが、それでも日々葛藤があり、失敗があり、迷い悩み…程度はどうあれ色々と世間の人並みに俗世の荒波の中に居ます。氏と出会うまでは、そういった日々沸き起こる感情・事象に振り回されてしまう事が多かったのですが、何年かお付き合いを頂いてからは、日の出2潜在意識の存在や、身の回りに起こる事の本質的な意味、日々の感情がどこから来て、どんな意味を持っているのか、そういう心の深層の部分を見つめる事を教えてもらいました。心の中を一つ一つ解きほぐしていくような会話に癒されましたね。私にとってはある意味導師のような方でした。氏とお付き合い頂いたここ数年は、私にとって精神面で大きな変化があり、与えられるべくして与えられたな時期でもあったと思っています。その時期に出逢い、縁を頂き、導かれたというのは、正に運命なのでしょうね。

自分らしく、自分なりに生きる。それは誰にも約束されている事です。しかしなかなかその道を見出すのは難しい。それには自分の人生を大きな視野で深く見つめて、行くべき道を、行くべき姿を自らの手でつかんで行かなくてはいけない。生きるとはそういう事なのだと、今、自分に語りかけられているようでなりません。

もう私のような年になれば、死に向かって生きていると言っても過言ではないでしょう。亡くなる時期というのも、その人に与えられた一つの運命なのかもしれません。氏にとっては今がその時期だったのでしょう。
氏の人生を私が判る筈もないですが、きっと自分の使命を全うし、運命を受け入れ、行くべき時に旅立って行ったのだと思っています。私はまだ今生で生きる縁があり、使命があるようです。それを果たすまではもう少し、自分の行くべき道を歩まねばなりません。

虹

お通夜の日は朝から一日中霧雨のような雨が降り、止む気配はなく、そのまま氏を悼むように静かに、とても静かに音も無く真夜中迄降り続いていました。
「止まぬ雨はない」とはよく言われることですが、正直な所、悲しみは時間が癒しても、心の中に突然空いてしまったこの空虚な感覚は、未だ埋める事が出来ません。私の中では、まだしばらくは静かな雨が降り続く事でしょう。しかし私も私の人生をしっかりと歩んで行かなくてはいけません。氏の、からりと晴れた空のようなさわやかな眼差しと、共に語り合った想い出は、ずっとこれからの私の今生の人生を照らしてくれることと思います。短い間でしたが、本当に充実した時間を頂き、ただただ感謝の気持ちが募るばかりです。

来世ではどこかでまた出会う事もあるでしょう。やすらかに・・・・・。

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.