秋月賦

先週末は、小金井の浴恩館公園で野外コンサートをやってきました。

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ここは木々に囲まれ、秋の風情ばっちりのシチュエーション。野外で、しかもノーマイクなのですが、声は四方に響き渡り、気持ち良く弾き語りの演奏が出来、ラストは平家物語の「月見」を題材とした「秋月賦」でしめてきました。
次の日は向島見番にて、江戸手妻の藤山先生の舞台を務めてきました。HP:http://mukoujima-kenban.com/syashinkan_0.html
都内の見番はどんどんと姿を消し、以前何度か長唄さんとの稽古で使った赤坂の見番も無くなり、今残っているのはこの向島と浅草、あと神楽坂に小さなものがある位でしょうか。幸い、ここは舞台も広く、お客様も100名位は楽に入るでしょうか。赤坂金龍の舞台をもっと大きくしたような感じでした。今回のお客様は海外の皆さんでしたので、英語の通訳付きで和文化を楽しんでもらいました。秋風を感じる一日、こういう企画も良いですね。

ルーテル音楽を聴くにはシチュエーションというものが大きく作用します。私はいい場所で演奏をさせてもらう事が多く、大変ありがたいのですが、そんな場所の持つ魅力に自分がどう反応してゆくか、こういうパーフォーマーとしての力量がとても重要という事を最近は良く感じています。
先ずはクォリティーの高い作品を作ることが大事なのですが、良いものを作れば自然と売れる、なんてのはアマチュアの発想。そんな悠長なことでは音楽は聞いてもらえない。作品はとにかく何度も演奏されるべきだし、やる以上は、なるべく良いシチュエーションで発表しないと伝わらない。先日の市ヶ谷ルーテル教会ホールは、意外な組み合わせでパイプオルガンをバックに弾きましたが、とても素敵な空間が生まれました。

場所、季節、演目、メンバー、舞台演出etc.それらすべてが相まって聴衆に届くのです。だからステージングや所作という事にもこだわるし、衣装にもこだわる。15その場と音楽に合わせ、着物の色を変えたり、洋服にしたり、曲順から、MCに至るまで考えて、よりよく私の音楽が届くように演奏会をやるのです。それが演奏家の務めだと思っています。

音楽から、音だけが切り離されて行ったのは、レコードが開発されてからでしょう。確かにテープでもレコードでもCDでも、演奏会に行かずして音楽が聴けるというのは良い事だと思いますし、私もそう思ってCDを出しているのですが、音楽というのは本来、耳でなく、五感全てで味わっ波多野睦美2てもらうものです。以前も書きましたが、古楽の波多野睦美さんを初めて聞いた時、私はその声が耳でなく、皮膚が感じるような感覚に襲われました。波多野さんの声は確かに、私の体を包み込むように、会場全体に満ちていた。あの感じは、生演奏に直に触れなければ体験できないでしょう。勿論その時の聴く側の気持ちもあるでしょうし、響きの違う場所で聴けば、当然その音楽はまた別物となって聞こえてきますが、それだけ音楽を聴くという事は、場所の持つ力も含めて、五感全てが敏感に反応し、伝わってくるものだと思います。

私はCDやLive viewingを否定している訳ではありません。私を音楽に導いてくれたのはレコードだし、私の感性を育ててくれたのもレコードです。ジミヘンに感激して、ジェフべックに感動して、マイルスに心酔して、コルトレーンに熱狂した私の少年時代は、すべてレコードでした。でも音楽をやればやるほど、生演奏の一期一会の素晴らしさが身に沁みてきたのです。
なるべく自分の音楽が最適な環境で提供されるような場所で、これからも演奏していきたいと思っています。

皆さんに琵琶の妙なる音を耳で聴いて、目で姿を見て、肌で感じて、演奏会全てを味わってもらいたい。音楽をゆっくりと、たっぷりと聴いてもらえるように、これからもふさわしいシチュエーションでなるべくやれるようにしたいです。

kominka-live2013

良い季節に、素敵な場所で、魅力ある音楽をぜひ聞いてください。この秋は和歌山・新潟での公演の他、10月19日は北鎌倉古民家ミュージアムにて、毎年恒例のReflectionsの演奏会「おとずれる秋を聴く」もあります。こちらも素晴らしいシチュエーションですので、ぜひぜひご贔屓に!!

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